短編 マイコンピュータの隅の方
「なあ、俺たち何を勉強させられてんだ。」
「知らねえよ。とにかくあと2時間で覚えるしかねえだろ。」
「プトレマイオス朝ペルシアはセレウコス朝やアンティゴノス朝とともに、いわゆるヘレニズム国家の一つに数えられる。だってよ。」
「おい、問2みてみろ。プトレマイオス朝は何王朝ですか?って、なんだこれ禅問答か。」
「や、答えはギリシア・マケドニア系のエジプト王朝だって。わけ分からんぞ。本格的にやばいな世界史。」
世界史の追試の追試で視聴覚室に集められた数人。実は喋ったこともない。
ただ同級生であること、そして世界史が壊滅的に苦手なこと以外に共通点はない。
「ここを出すって言われた場所すら覚えられない。もう俺は無理だ。皆先に進んでくれ。」
「何馬鹿なことを。皆同じだ。お前だけ捨て置けない。」
「アンティゴノス朝、痛い!舌をかんだ!俺はもうダメだ!」
「怯むな、無論俺も言えん!心のマントラで唱えろ!」
「うう、、お前ら。」
「バイク ワーイ くれ!」と片瀬がいきなり大きな声を出した。
「どうした、片瀬!ついにいかれたか?」
「いや、これは bicycle のスペルの俺なりの覚え方だ。細分化して覚える。この方法で行くしかない!」
「おお、なるほど、じゃあ、これはどうする?」
「オクタウィアヌス・・・オクタウィアスス・・・。億旅アヌス?」
「よし、じゃあ、これは?」
「ハカーマニシュ朝王ダーラヤワウ3世・・・墓、マニッシュ、…ああ、すまん無理だ!」
「片瀬!いいんだ。泣くことはない!いいか、俺たちは負けない!夢に向かって突き進むんだ!」
という光景が毎日どこかの学校で繰り広げられていて欲しい。
ジャンプの打ち切り漫画の最後のコマのように、絶望に立ち向かっていて欲しい。
生産性はないと思うだろう。
だが、片瀬のおかけで俺の脳みそのマイコンピューターの隅の方に、オクタウィアヌスは鎮座している。
もはやデリート不可だ。
終
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