時代劇レヴュー㉕:秦・始皇帝(1962年)
タイトル:秦・始皇帝
公開時期:1962年
製作・配給:大映
主演(役名):勝新太郎(始皇帝)
脚本:八尋不二
「三国志」や「水滸伝」を始め、中国史を題材にした物語は昔から日本でも人気があるが、これを日本人のキャスト・スタッフで映像化した事例が少ないながら過去には何例かある。
そのうちの一つが、1962年の映画「秦・始皇帝」で、近年人気漫画を原作にした「キングダム」と言う映画が好評を博したが、この映画は同じような題材に、CGのような技術がなかった半世紀以上前に挑んでいる。
タイトルが示す如く、中国に最初の統一王朝を築き、最初に皇帝と言う称号を名乗った秦の始皇帝の生涯を描いたもので、当時はまだ中華人民共和国と国交が正常化されていなかったため、合戦シーンやオープンセットなどは台湾の協力を得て作られている。
主人公の始皇帝には勝新太郎が扮しており、史実の始皇帝通りかどうかはともかく、スケールの大きい英傑と言う点ではある意味はまり役かも知れない。
他にも、大映オールスターキャストを揃えたような顔ぶれで、始皇帝の生母役には山田五十鈴、万里の長城の悲話で知られる孟姜女役には若尾文子、始皇帝を暗殺しようとする刺客の荊軻役に市川雷蔵、その荊軻をスカウトして始皇帝暗殺をもくろむ燕の国の太子・丹役に宇津井健、荊軻の夫人(作中での役名は「蘭英」で、高漸離をモデルにしたような人物)役に中村玉緒、高名な儒学者の淳于越(作中では「于越」)役には長谷川一夫と言う面々。
他には、架空の人物であるが始皇帝の馬廻りのような古参の武将・李唐を東野英治郎、李唐の子で物語の狂言回しのような人物である李黒を本郷功次郎が演じている。
内容は、始皇帝にまつわる有名なエピソードはだいたい網羅しているが、時系列が所々おかしい。
物語の序盤で始皇帝が六国を統一し、その後で降伏した旧六国の諸侯を集めて、封建制をやめて郡県制を敷くことを宣言し、それに憤激した太子丹が荊軻を派遣して始皇帝暗殺をもくろむと言うストーリーである(荊軻の始皇帝暗殺未遂事件が純然たる史実かどうかはさておき、『史記』では荊軻の暗殺未遂事件は六国統一前)。
もっとも、そうした細かい内容のことよりも、日本で始皇帝の映画を作ってしまったと言うこと自体に本作の意義があるのかも知れない。
一風変わった映画であるが、中国史に興味がある人なら色々と面白いかも知れない(ただし、2020年現在、ソフト化はVHSとLDのみでその点は視聴に難がある)。