時代劇レヴュー㉑:それからの武蔵(1981年、1996年)

同一原作を用いて同一シリーズ内で放送された二種の時代劇を、比較しながら一挙紹介。

タイトル:①それからの武蔵 ②徳川剣豪伝・それからの武蔵

放送時期:①1981年1月2日 ②1996年1月2日

放送局など:テレビ東京(①の放送当時は東京12チャンネル)

主演:①萬屋錦之介 ②北大路欣也

原作:小山勝清

脚本:①沢島正継、岡本育子、下飯阪菊馬 ②塙五郎


かつてのテレビ東京の正月名物番組だった長時間時代劇「12時間超ワイドドラマ」(後の「新春ワイド時代劇」)は、長年に渡って放送されたシリーズであるため、同一の作品を原作としたものや、同一作品のリメイクが多く存在する(例えば、五味康祐の『柳生武芸帳』、吉川英治の『宮本武蔵』、村上元三の『次郎長三国志』を原作にした作品はそれぞれ二作品存在する)。

今回紹介する二つの「それからの武蔵」も、ともに小山勝清の『それからの武蔵』を原作としている。

この作品は、佐々木小次郎との巌流島の決闘以降の宮本武蔵を主人公にし、後半生を中心にその死まで描いている。

もちろん、「それから」と言うのは吉川英治の『宮本武蔵』が巌流島で終わっているので、それを意識したタイトルである。

私がリアルタイムで見たことがあるのは②の1996年版の方なのであるが、①の1981年版の方も後にソフト化(VHS、DVDともにリリースされている)されたもので全編視聴している。

内容としては、吉川英治の『宮本武蔵』よりもさらにフィクション要素が強く、実在の剣豪も多く絡むものの、物語の大半は創作であり、そう言う意味では歴史ドラマではなくチャンバラ時代劇に近いのであるが、主演を務めた萬屋錦之介も北大路欣也も、それ以前に吉川英治を原作とした作品で武蔵を演じているため(萬屋は1961年から1965年にかけて東映の製作された五部作の映画「宮本武蔵」で、北大路は「時代劇レヴュー⑭」ですでに紹介したが、1992年に同じく「12時間超ワイドドラマ」の「宮本武蔵」で)、ともに武蔵の生涯を演じきったことになる(なお、2020年2月現在、同じく両作品で武蔵を演じた俳優としては他に片岡千恵蔵がいる)。

この①、②の二つの作品は、同一の原作を使っているものの、ストーリー展開はだいぶ違うものになっており、例えば①が巌流島の決闘を直接は描かないのに対して、②の方は序盤の二時間ほどが巌流島の決闘に費やされている。

その中でも両者の最も大きな違いは、柳生一族が武蔵と絡むか否かであり、①には柳生の剣豪が全く出てこないのに対して、②では佐々木小次郎を倒した後の武蔵の宿敵として柳生宗矩・十兵衛父子が作中で重要な役割を果たしている(宗矩役は神山繁、十兵衛役は藤岡弘で、この作品では十兵衛は武蔵との立ち合いで眼を斬られて隻眼になったと言う設定になっている)。

私は原作を未読であるものの、同書のあらすじやレヴューを見る限り、おそらく原作に近いのは①の方で、②はかなり脚色が入っているのだと思われるが、面白いのは断然②の方である。

実は①は、同シリーズで最初に作られたオリジナル作品で(同シリーズは1979年に開始されたが、最初の二年は既存の長編映画を放送し、テレビ東京のオリジナルドラマではなかった)、長編時代劇作成のノウハウがまだなかったのか、俳優陣はそれなりに知名度のあるものを揃えているが、随所で作り方が雑な感じが目立つ。

対して、②は前述のように、原作に登場しないと思われる柳生一門を随所で絡ませるなど、よりエンタテイメントに徹底している作風で面白く、史実と大きく違う描写もあるが、それがほとんど気にならないほど楽しめる作品になっている。

そもそも、書籍のレヴューなどを見ると、小山勝清の原作自体の評判があまり芳しくないので、原作にない創作を入れたのが逆に功を奏した感もある。

以下は、②を中心に印象的なキャストのことをいくつか書くが、まず今でこそ善人役を演じる機会も増えた西田健、中原丈雄、それに故・萩原流行などが、当時としては珍しく「いい人の役」で登場している所が面白い。

また、武蔵にライヴァルの一人として登場する松山主水(主水は実在上の人物で、武蔵と小次郎のちょうど間の時期に細川家に仕えていた剣豪である)を白竜が演じていて、いかにも敵役と言った嫌なキャラクタに描かれているのであるが、個人的にはこの主水は好きなキャラクタである。

悪役であるが意外にいい所もあって、思いを寄せる由利姫(物語の中盤以降に登場する足利将軍のご落胤と言う女性)に対しては純な面を見せるのだが、その由利姫は武蔵を慕っていて、主水は姫に尽くすものの姫には徹底的に嫌われてしまうと言う、何だか見ていて可哀想な所もあって憎めない(ちなみに、①で主水を演じていたのは亀石征一郎で、こちらの方がより憎々しいキャラクタに描かれていた)。

後は、これは個人的な印象で、物語の評価とは全く関係ないことであるが、序盤のヒロインの一人で、細川興秋(細川忠興の次子)の落胤のお悠を古手川祐子が、中盤から後半にかけてのヒロインである前述の由利姫を萬田久子が演じているが、これについてはキャストが逆の方が良かったような気がする。

お悠はヒロインっぽい感じで出てきた割には前半であっさり死んでしまうのに対し、由利姫は後半はほぼ出ずっぱりで武蔵と絡むので、当時の古手川・萬田両者の女優としてのキャリアを考えると逆の方がしっくりくるのであるが(現在はともかく、1996年当時は配役クレジットなどを見ると古手川祐子の方が格上)、古手川のスケジュールの関係だったのだろうか。

いづれにせよ、個人的には②の方を勧めたい所であるが、残念ながら現状でソフト化されているのは前述のように①のみである。

このシリーズは色々事情があるのか(同シリーズは作品ごとに制作を担当した会社が異なっており、ソフト化出来ない作品についてはおそらく制作会社の都合)、1991年放送の「大忠臣蔵」や1992年放送の北大路欣也「宮本武蔵」など、出来が良い作品に限ってソフト化されていない作品が多いような気がする(「大忠臣蔵」はVHSのみリリース済み)。


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