時代劇レヴュー㉔:真田太平記(1985年~1986年)、附・真田丸(2016年)

タイトル:真田太平記

公開時期:1985年~1986年(全四十五話)

放送局:NHK

主演(役名):渡瀬恒彦(真田信之)

原作:池波正太郎

脚本:金子成人


1980年代の一時期、NHK大河ドラマが現代史路線になった際に、従来の時代劇ファン層の受け皿的存在として、NHKは水曜日に「新大型時代劇」と言う枠を作り、ここで時代劇路線のドラマを計三作放送した。

「真田太平記」はそのうちの第二弾にあたり、1985年の4月から年をまたいで一年間放送された。

原作は池波正太郎の同名小説であるが、個人的にはドラマの方が原作よりもはるかに面白い印象があり(と言うか、『鬼平犯科帳』のような時代小説はともかく、池波正太郎の歴史小説は概して面白くなく、直木賞の選考委員を務めていた海音寺潮五郎が最後まで池波作品に対しては辛口であったのもうなづける)、現在に至るまでこの作品にはファンが多いこともうなづける。

大河ドラマよりも低予算で作成されたために合戦シーンなどの迫力には欠けるが、細部までこだわって作っている点は好印象であるし(例えば、台詞においては真田信之を「伊豆守」、真田幸村=信繁は「左衛門佐」と言う具合に登場人物を極力官職名で呼ばせている)、林光の音楽も良い。

またキャストも非常によく合っており、丹波哲郎演じる真田昌幸は「表裏比興の者」と言う雰囲気がよく出ていてはまり役である。

以下、主だった配役を紹介しながら役の印象を書いていくと、まず渡瀬恒彦演じる主人公の真田信之は、原作の描き方の影響(池波正太郎は信之が好きらしい)もあって従来のイメージとはかなり違う非常に「美化」された人物像になっていた(もっとも、必要以上に史実を曲げているわけでもないし、私自身も割と信之が好きと言うこともあって別段違和感があるわけではないが)。

真田幸村(作中では史実の「信繁」ではなく終始「真田幸村」を名乗る)を演じる草刈正雄は、若い頃の彼の人気ぶりがよくわかるような美男子であるが、ただ幸村は冷静沈着な人物として描かれるものの、どこか主体性がないように感じ、キャラクタとしては信之に比べて今ひとつ魅力に欠けているように感じた(従来の作品では幸村が主人公になることが多かったので、それが狙いなのかも知れないが)。

大坂の役に参加する動機も弱く、何だか最後まで昌幸の呪縛にとらわれているような印象で見ていてどこか釈然としない。

真田家中で数奇な一生を送る樋口角兵衛(信之・幸村の母方の従弟と言う設定で、モデルとなる人物は存在するもののキャラクタは池波の創作)は、若かりし頃の榎木孝明が演じているが、彼は今と違って若い頃はこう言う狂気じみた役を演じることが多い気がする。

ただ、作中における角兵衛の役割の意味が今ひとつ不明で、トラブルメーカーで話をいつも引っかき回しているが、特に登場させる必要性もなかったような感じで終わってしまうのはいささか残念である(この点は原作の角兵衛もそんな感じなので、必ずしも脚本のせいではないだろうが。と言うか、総じて原作に登場する架空の人物はさして存在意義がない者が多く、その点も私が池波の原作をあまり評価しない理由でもある)。

中村梅之助・梅雀親子が徳川家康・秀忠と親子役で共演しているのも面白いし、梅之助演じる老獪だけれども器量の大きさを持つ家康は、私が見た中では津川雅彦の家康と双璧でかなりはまっていた。

超個人的な好みの話をすると、キャストの中では信幸夫人・小松殿を演じる紺野美沙子が、作中で私は一番好きである(と言うか、単純に私が彼女のファンなだけであるが 笑)。

今でも知的美人と言う形容がぴたりと当てはまる女優であるが、二十五歳当時の紺野美沙子はまさに賢夫人のイメージそのままと言うくらい適役であった。

最後に、原作がそうなので仕方ないのであるが、筋立ての半分くらいが忍者話で、個人的には忍者の話は趣味でないので、そこが少し退屈であった(全くイチャモンのような感想で恐縮であるが)。

後は、昌幸の弟・真田信尹が全く登場しないのも残念であった。

これは無いものねだりかも知れないが、使いようによっては面白い人物であるので。


ついでながら、附記のような形で、関連する作品として2016年の大河ドラマ「真田丸」(脚本は三谷幸喜、主演の真田信繁役は堺雅人)についても書いておきたい(附記の方が長くなってしまうが)。

大河ドラマの長い歴史の中で、意外にも真田氏が正面から取り上げられるのは初めてと言うことで、放送前から何かと評判になっていた作品であったが(「真田太平記」で幸村を演じた草刈正雄が、本作では父の昌幸を演じるなど、「真田太平記」を意識した部分も多々見られる)、実際に視聴した感想としては2000年代に入ってからの大河ドラマ作品としては割合よく出来た部類ではあるものの、特別面白くもないと言った印象であった。

随所で鼻につく設定・演出はあったものの、部分的には見応えがある所や、うまく史実を処理しているなと思える所もあったように思う(「真田太平記」同様、登場人物を極力官職呼びしていたのも好感が持てる)。

個人的に不満な点としては、まず途中で妙に展開が駆け足になって、全体の時間配分のバランスが悪かった点で、特に信繁が九度山に流されてからは妙に時間の経過が早く、史実的に不明な点が多い信繁の前半生に話数を割いた割に、昌幸の死などは妙にあっさりしていた印象があった。

また、これは「真田丸」に限らないが、どうも三谷幸喜は女性の描き方が下手と言うか、私の好みと合わないと言うか、女性人物のキャラクタが戦国時代に溶け込まないような印象を受けた。

シリアスな展開の中でも、女性達だけが妙にコメディっぽいキャラクタなので変に浮くと言うか何と言うか(まあ、このあたりも個人の好みの問題であろうが)。

とりわけ淀殿は、最後まで常識のないへんてこな感じであり、従来のようなヒステリーで気位ばかり高くて頭の良くない女性ではなかったものの、決して賢夫人にも魅力的な女性にも見えなかった。

同じような点で言えば、小松殿が単に気性の激しい女性としか描かれておらず、全然賢夫人っぽくなく(言っていることはまともなのだけれども、演出も脚本も信之にシンパシーが移るようになっている)、この点は「真田太平記」の小松殿と比較するとだいぶ見劣りがする(信繁を主人公にした作品と、信之を主人公にした作品の差と言えばそれまでかも知れないが)。

後は、単なる偶然かも知れないが、三谷幸喜は意外と歴史ドラマを作る際にテレ東の正月長時間時代劇にヒントを得ているのかも知れないと、見ていてふと感じた。

本作では恋仲とまではいかなかったが、淀殿と信繁が大坂の役前から親密で、これは二人が恋仲の設定だった1998年の「家康が最も恐れた男・真田幸村」(信繁役は松方弘樹、淀殿役は秋吉久美子)と似ているし、同じ三谷が手がけた「清須会議」でも同様のインスパイア(?)が見られる(時代劇レヴュー㉓」参照)。

もう一つ気になった些細なこととしては、大坂の役の際には病気療養中で、参加したのは子の重長のはずなのに、片倉景綱が伊達政宗の傍らで参戦していたこと。

これについては別にどうとでもなったはずなので(景綱は本当に傍らにいるだけで、ほとんど台詞もなかったので、重長役の俳優を別にキャスティングしても良かったのでは、と思う)、こう言うのは凡ミスと言われても仕方がないのではないだろうか(まあ、意図的かどうかは別としてこの程度の些細な「間違い」は過去の大河ドラマにはいくらでもあるので、ナンセンスな揚げ足取りかも知れないが)。

また、これも結局は個人の好き嫌いの問題かも知れないが、終盤になって平野長泰など、あまり意味のないエピソードを挿入したりするのもあまり好きではない。

平野長泰のエピソードのように、思い出したように過去の登場人物や台詞を引っ張り出すのは、やはり舞台が本職の三谷脚本ならではなのであろうがで、二時間ほどの舞台作品ならともかく、連続ドラマではいささかわかりづらい演出のように思うし、個人的な好みで言えば、あそこで無駄な尺をとるくらいだったら、細川興秋とか薄田兼相とか渡辺糺とか、大坂方の武将をもっと出せば良いのに、と思ったりもした。

同様に、ああ言う形でオチをつけるなら信之と小野お通のエピソードなども不要であろう。

ちょっとした笑いを入れたいのが、喜劇を得意とする三谷幸喜なりのこだわりなのかも知れないが(後、これも超個人的な好き嫌いであるが、病身のはずの信之がわざわざ大坂まで信繁に会いに行くと言うのも不要な創作だと思った)。


最後に、非常にどうでも良い話であるが、これまでの真田信繁を主人公にした映像作品では不思議と正室である竹林院(大谷吉継女)の扱いが不遇である。

「真田丸」でもヒロイン格は信繁の側室である高梨氏であり、前述テレ東の「家康が最も恐れた男・真田幸村」でも、1979年の東映の映画「真田幸村の謀略」でも、竹林院は史実に反して不当にも(?)九度山で死ぬ設定であった(偶然にも主演はともに松方弘樹)。

竹林院が不遇なのは、どの作品でも彼女はある程度物語が進んでから登場するキャラクタなので、ヒロインにしにくいと言うのが大きな理由なのであろうが(ちなみに、「真田太平記」でも幸村が心を許した恋人は、序盤から登場する忍者のお江である)。


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