続・時代劇レヴュー㉛:忠臣蔵〜その男、大石内蔵助(2010年)
タイトル:忠臣蔵〜その男、大石内蔵助
放送時期:2010年12月25日
放送局など:テレビ朝日
主演(役名):田村正和(大石内蔵助)
脚本:ちゃき克彰
2010年にテレビ朝日で放送された長編時代劇で、元禄赤穂事件を題材にした忠臣蔵物の一つであり、松の廊下の刃傷事件から赤穂浪士の討入りまでを描く。
サヴタイトルにあるほど、大石内蔵助に大きくスポットが当たるわけでもなく、内蔵助のキャラクタを掘り下げたわけでもなく、また新解釈があるわけでもなく、至ってオーソドックス解釈で描かれた作品である。
キャストも無難で、土屋主税役に松平健、垣見五郎兵衛(作中での役名は「立花左近」)役に北大路欣也など「忠臣蔵」に相応しい豪華なキャストで、ヴェテラン以外にも堀部安兵衛役に小澤征悦、浅野内匠頭役に玉山鉄二、瑤泉院役に檀れいなど、比較的若手のキャスティングもうまくはまっていて、悪くはない作りである。
ただいかんせん、放送時間が二時間強と「忠臣蔵」にしてはかなり尺が短く、そのため主要エピソードは網羅しているものの、何だかダイジェスト版のような作りになってしまい、「忠臣蔵」を作る際にはそれなりの放送時間を確保することが不可欠だと言うことを、改めて痛感させてくれる作品である。
概ねキャストは悪くないものの、吉良上野介役の西田敏行が、高家肝煎の風格など微塵もない下品なキャラクタになっていて、その点が残念であり、これまた改めて吉良は高家の品格と悪玉としての憎々しさの塩梅が大事だと言うことを感じた(ただし、これは西田敏行自身の問題と言うよりも、演出がそう言う指示をしたのかも知れない)。
また、主演の田村正和は、オーソドックスな内蔵助を演じるには少し雰囲気が違っていて、いささか迫力にかける内蔵助であった(田村正和自身が独特の雰囲気を持っているので、これが趣味人の面を強調したり、従来とは違う内蔵助像であればはまったかも知れないが)。
ここまで色々と書いてきたが、何よりも本作の意義は、これが現状で「最後の忠臣蔵」だと言う点にあるだろう。
本作の放送から2020年現在まで、芝居や講談をベースにしたオーソドックスな「忠臣蔵」は作られておらず、2000年以降の時代劇全体の衰退を考えれば、今後もしばらくはこの作品が「最後の忠臣蔵」であり続けるのかも知れない。
実際問題、「忠臣蔵」の「肝」である忠義や仇討ちの価値観が、現在にそぐわず、特に時代劇に馴染みのない層の視聴者の共感を得にくい部分はあると思う。
出来事だけ見れば、内匠頭の刃傷と言うのは、いい年をして堪え性のないこととも受け取れるだろうし、討入りについても、一人の老人を大勢で寄ってたかって殺しているように見えなくもない(実際、そう言う意見が若いスタッフからあったため、1996年フジテレビ放送の「忠臣蔵」は、吉良の年齢を少し若く見せる演出をしたと言う)。
そのせいか、近年では赤穂事件を題材に取り上げる際には、従来の仇討ちテイストよりも比較的「史実寄り」の作品が増え、吉良もそこまで悪辣に描かれることが少なくなっており、そうした面でも本作は「最後の忠臣蔵」かも知れない。
私自身は、古い人間であるし、「忠臣蔵」はフィクションとして楽しんでいるので、吉良が悪玉のオーソドックスな「忠臣蔵」をまた見たいのであるが、現状ではなかなか難しいのかも知れない。
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