時代劇レヴュー・番外編①:曹操(2012年)
日本の作品ではないので「時代劇」のカテゴリに入れるのにはいささか躊躇を覚えるが、歴史を材にしたドラマを紹介する「番外編」の第一弾。
2012年に中国国内で放送され、日本でもDVD(吹替版あり)が発売されたドラマ「曹操」(原題は「蓋世英雄曹操」)、私は何年か前にDVDでこれを全話視聴した。
全四十一話からなり、日本の大河ドラマ的な歴史劇で、主人公はもちろん「三国志」の魏の実質的建国者の曹操である。
曹操の幼少時から物語は始まり、201年の官渡の戦いを経て宿敵である袁氏を滅ぼして華北をほぼ手中に収めるまでの、曹操の半生を描いた作品であるが、これが頗る面白く、当時NHKの大河ドラマで「はずれ」の作品が相次いでいたために久々に面白いドラマを見たと思った記憶がある。
基本的には「三国志演義」ベースで話が進むが、所々で史実を採用している所もあったり(華雄が孫堅に斬られたり)、吹替版の監修を三国志研究者で早稲田大学の渡邉義浩が行ったためか、会話では概ね字で呼び合ったりと、なかなかこだわって作っている(もっとも、曹操の曾祖父の曹節を、同時代の宦官で同名の異人である曹節と混同するなど、変な所で事実の誤認も見られたが)。
曹操の人物像も、単純な英雄でも悪人でもなく「等身大」と言う感じであり、人間的に脆い所や優柔不断な所、狡猾な所も余さず描き、ドラマで描かれるキャラクタとしては、管見の限り一番史実の曹操に近いイメージであった。
ライヴァルとなる劉備も、このドラマでは「演義」ベースの温厚な君子人ではなく、狡猾な策謀家に描かれているあたりも史実寄りであるし、この手のドラマでは斬新な設定である。
他の登場人物も、概ねイメージ通りのキャラクタ設定であるし、ダイジェスト的な映画だと無視されがちな曹操属下の武将や参謀もオールスターキャストで登場している所もうれしい(荀攸だけは何故か登場しないが)。
ただ、個人的なことを言えば、私が曹操の参謀の中で一番好きな賈詡があまり目立たないのがちょっと残念であった(笑 宛城で曹操を破る所ではクローズアップされるが、曹操に降った後はほとんど登場せず、曹軍の参謀として活躍する姿は描かれていない)。
全体を通じて郭嘉が副主人公的な役回りで、最後はお互いを認め合いながらも曹操と対立してしまうと言う大胆な解釈が施されているが、これは官渡の戦いがクライマックスで、赤壁の戦いの直前で話が終わっているため、後年の曹操と参謀達の相剋を意識した演出であろうか。
この演出自体は良いと思うのだが、途中まで郭嘉は漢王室は単に利用するだけの存在と割り切り、皇帝に対しても尊崇の念が薄いドライなキャラクタなのに、終盤で急に曹操のやり方に疑問を持ってくる所がやや不自然で、この設定だけが釈然としなかった。
同じく曹操の参謀の荀彧が、後半は存在感がなくなるので郭嘉にその役割も負わせたのであろうか。
他には、曹操が海を見ながら過去を回想し、詩を詠じるラストシーンがとりわけ秀逸である。
曹操役のチャオ・リーシンは、日本に俳優で例えると榎木孝明に似た知的な風貌の俳優で、私が過去に見た俳優の中では最も曹操にはまっていた。
吹替でチャオ・リーシンの声を担当した堀内賢雄も、流石ヴェテランだけに良い味を出していたように思う。
作中での曹操の描き方についても、単純に漢の簒奪をもくろんでいるわけでもなく、かと言って純粋に漢の忠臣のわけでもない所はリアリティがある。
最終回で、夏侯淵が曹操に「漢の簒奪を考えているのか?」と問うた際に、「わからない」と否定するわけでも肯定するわけでもない答えを言うシーンも、案外その当時(赤壁前夜)の曹操の心境はそんな感じではなかったかと思わせる。
全体を通じて卞夫人(曹操の夫人の一人で曹丕の生母)と蔡琰がヒロイン格であるが、蔡琰役の女優(名前は失念)はこれまた日本の女優で面差しを似た人を挙げると、多岐川華子を美人にしたような(と書くと彼女が美人じゃないみたいであるが)、線を細い美形の女優で、薄幸のヒロインを好演していた。
ともあれ、面白い作品であった。
基本的には「演義」ベースで馴染みのあるオーソドックスなストーリーであるが、例えば劉備だけは史実のキャラにしてみたりと、必要以上に奇をてらうわけではないスパイスの利かせ方が見事である。
歴史ファンが望む大河ドラマって言うのはこう言う作品じゃないだろうかと、当時NHKの大河ドラマに失望していた私は見た後で感じたものである。
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