時代劇レヴュー・番外編⑧:西太后(1984年)、続・西太后(1988年)、ラストエンプレス 西太后(1994年)
清朝の第九代皇帝・咸豊帝の妃であり、第十代皇帝・同治帝の生母である西太后は、末期の清朝を支えた女傑であり、また一方で皇帝を操って政治を壟断し、清朝を滅亡に導いた悪女として毀誉褒貶の激しい人物である。
西太后に対する悪評は所謂儒教的価値観の産物であって、功罪相半ばするとは言え、彼女が一代の女傑であることは間違いない所であろう。
そうした強烈なキャラクタゆえ、西太后を扱った映像作品も多いが、日本でも公開された1984年の映画「西太后」が最も著名であろう。
本作は中国・香港合作の長編映画で、オリジナルは「火焼円明園」と「垂簾聴政」の二部からなる全三時間半の巨編であるが、日本で劇場公開された際には二部を合わせて二時間ほどの作品に再編集している。
そのためオリジナルで省略されたシーンも多く、初めて見た人間にとっては非常に通りの悪い部分もある作品になってしまっている(後にリリースされたVHS版も同様の構成であるが、DVD版はオリジナル通り二部構成で収録されている)。
内容は、西太后が入宮してから、咸豊帝死後の辛酉政変で政権を掌握し、垂簾聴政を始めるまでであるが、これは日本版の内容なので、オリジナルはもっと先のエピソードまで描かれているかも知れない。
特に後半部は、西太后の残虐ぶりを過度に強調するための創作も多く、全体的にはあまり西太后に好意的に描かれておらず、これは1988年に製作された続編(後述)でも同様である。
西太后を演じるのは劉暁慶で、後年彼女は則天武后(1995年の中国ドラマ「武則天」、邦題は「則天武后」で、「時代劇レヴュー・番外編③」参照)も演じているが、迫力のある女優なだけに女傑役がよく似合う。
ただ、これは私の主観かも知れないが、本作の劉暁慶はやたらと老けて見え、入宮直後の少女時代の描写はちょっと無理のある絵面となっている(笑)。
もっとも、本作よりも後に出演した則天武后でも、彼女は武后が十代頃から演じているが、こちらはさほど違和感はないので、メイク等のせいかも知れない。
なお、本作はこれまでに二度(日本テレビとTBS)でテレビ放送されているが、その際にはそれぞれ異なる吹替版が放送された。
このうち、1991年にTBSで放送された吹替版では、咸豊帝役のレオン・カーフェイの声を松橋登が担当しており、個人的にはちょっと見てみたい(私が見たのはVHSの字幕版なので)。
本作は1988年に続編が製作され、そちらも「続・西太后」(私が見たVHS版では「暴虐の美貌」と言うサヴタイトルがついていた。原題は「一代妖后」)のタイトルで日本でも公開され、こちらはオリジナルのまま公開されたが、90分ほどの比較的短い時間でまとめたせいか、「西太后」以上に意味不明で唐突な描写が多く、ラストもよくわからない終わり方である(ただ、これは視聴時に私があまり中国史の知識がなかったせいでそう感じるだけかも知れない。と言うか、海外の歴史作品は日本の歴史ドラマほど親切なナレーション説明やテロップがなされていないものの方が多いので、本作も中国の歴史作品の基準からすれば、ことさら描写が難解なわけではないのかも知れないが)。
物語は、ほとんど同治帝一代の間に起きた出来事で西太后の死までは描かれず、同治帝と西太后の確執がメインになっている。
また、本作とは別に1994年に香港で製作された西太后の映画があり、そちらも「ラストエンプレス 西太后」(原題は「慈禧秘密生活」、ちなみに西太后は別に最後の皇后でもないし、即位して女帝になったわけではないので、比喩的に言っているのかも知れないが、邦題はちょっと変である)のタイトルで日本でも公開されている。
100分ほどの短い作品であるが、西太后が辛酉政変で政権を掌握するまでが要領よくコンパクトにまとまっていて、個人的には1984年版よりもストーリーとしてはわかりやすく感じた。
ただ、本作は「西太后の愛と欲望の日々を官能的に描いたエロティック・ドラマ」と紹介されているように、やたらと露骨な濡れ場が多く、そのあたりが難点(?)である。
ちなみに、1984年版で咸豊帝を演じたレオン・カーフェイが、咸豊帝の弟で、西太后に密かな想いを寄せる恭親王奕訢役で出演している。
吹替版で彼の声を担当した堀秀行も、役の雰囲気に声がよく合っていた。
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