時代劇レヴュー①:忠臣蔵(1985年)
タイトル:忠臣蔵
放送時期:1985年12月30日、31日
放送局など:日本テレビ
主演(役名):里見浩太朗(大石内蔵助)
脚本:杉山義法
1980年代から90年代初頭にかけて、日本テレビが年末に放送していた所謂「年末時代劇スペシャル」の第一弾として作られた作品である。
これまで数えきれないくらい製作されてきた、元禄赤穂事件を題材にした所謂「忠臣蔵」の映像作品の中でも、とりわけ人気の高い作品の一つであり、紅白歌合戦に迫る高視聴率を叩き出した作品としても名高い。
ソフト化されていること、あるいは現在はBS日テレで度々再放送されているため、三十年以上前の作品であるが視聴自体は容易である。
内容的には、比較的オーソドックスな路線の忠臣蔵で、特に奇抜な説や展開などは盛り込まれていないが、内蔵助の討入りの意図を単純な「仇討ち」ではなく、不公平な裁きを行った幕府への抗議とする点が当時としては斬新だったらしい。
私自身も、歴代作品の中でもかなりよく出来た「忠臣蔵」だと思う。
この作品が「忠臣蔵」としてよく出来ていると感じる点はいくつかあるが、個人的に一番優れていると思う点は、適切な時間で過不足なくまとまっていることである。
この作品は前後編に分かれていて、二時間づつ合わせて四時間であるが、「忠臣蔵」としては長過ぎず短過ぎず、ちょうど良い時間だと思う。
もちろん、細部のエピソードまで描こうとすればもっと多くの時間が必要であるが、「これだけは外せない」と言うような主要エピソードは網羅しており、見終わった後に物足りなさが残ることもないし、長過ぎて中だるみすることもない。
初めて「忠臣蔵」を見る人へのテキストとしては、最適な時間配分かも知れない。
個人的な好みで言うと、伝統的な芝居の要素と言うか、忠臣蔵における「お約束」的なシーン(山鹿流の陣太鼓を叩いていたり、垣見五郎兵衛とばったり出会うエピソードがあったり)を入れつつも、妙に細かい部分では史実に即している点も評価が高い所である。
一例を挙げれば、籠城か開城かで揺れる赤穂城内で、内蔵助が自分の真意を藩士達に打ち明けるシーンでは、たいていのドラマではそれに続けて連判状に血判署名をするのだが、このドラマでは史実通り神文誓紙を書いている(ただし浪士達が書く誓紙がちょっと変だけど)。
後は、他の作品ではあまり注目されない浪士が目立っていたりするのもこの作品の特徴であろう。
間喜兵衛・十次郎・新六父子にスポットが当たる作品は、管見の限りこの作品しか知らない。
脚本の特徴としては、「忠臣蔵」にしては登場人物が「多弁」であると言う点がある。
「忠臣蔵」は無言の表情であったり、もの(浅野家の家紋など)を見せることで相手に意図を伝えるシーンと言うのが多かったりして、例えば、切腹直前の浅野内匠頭に目通りする四十七士の片岡源五右衛門は、多くの作品の場合、言葉をかわさずに無言で見送るだけであるが、この作品では結構長い時間内匠頭と言葉をかわしている。
このあたりは好みが分かれる所かも知れないが、杉山義法の脚本と言うのはリリカルな台詞のやり取りに持ち味があると勝手に思っているので(これ以降、杉山が手がける「年末時代劇スペシャル」の諸作品はたいていそんな感じ)、個人的にはあまり気にならなかった。
以下、キャストについての感想。
主演の里見浩太朗(以下、俳優の敬称は略)は文句なしの格好良さで内蔵助にはまっている。
里見が多くの時代劇で主役を演じた二枚目俳優と言うだけあって、歴代で一二を争う美形の内蔵助ではないだろうか。
物語としての「忠臣蔵」に登場する内蔵助としては理想的で、個人的には彼を超える内蔵助には未だに出会えていない(私が里見浩太朗贔屓と言う理由もあるが)。
浅野内匠頭役の風間杜夫も、生真面目で融通が利かない、それでいて悲劇の貴公子の雰囲気が出ていてとても良い(彼はこう言う生真面目な殿様役もはまるし、狡猾な悪役もそれっぽく演じるので、非常にうまいと思う)。
森繁久彌演じる吉良上野介も、髭を蓄えると言うルックスには違和感があるものの(江戸期の高位の武士は髭を蓄える習慣がなく、式事典礼を司る高家の上野介が髭を蓄えているのは特におかしいが、これは森繁自身のアイデアであると言う)、キャラクタ自体は大変良かったと思う。
憎々しい「クソジジイ」の雰囲気を前面に出しつつも、必要以上に下品になり過ぎない、高家肝煎の風格もある所は流石と言うべきであろう。
炭焼き小屋から引きずり出されず、自発的に出てくる吉良と言うのも、それはそれで良いアイデアではないかと思う。
他にも、勝野洋の堀部安兵衛と、堀内正美の清水一学も個人的にはよくはまっていると思うし、二代目水戸黄門の西村晃と、三代目水戸黄門の佐野浅夫が、それぞれ荻生徂徠と林信篤に扮して討入り後の浪士の処分をめぐって激論を交わす「黄門様対決」(もっと言うと、里見浩太朗も黄門経験者)も見応えがあり(もっとも、当時は佐野浅夫が水戸黄門を演じる前であるけど)、細部に至るまでキャスティングは良いと思う。
ただ、演技に不満はないが、片岡源五右衛門役の竜雷太だけが個人的にはどうも難があるキャスティングである。
と言うのも、片岡源五右衛門は内匠頭が寵愛した美男子の側近なので、それを知っているとどうもビジュアル的に竜雷太だと合わず、彼だけが唯一のミスキャストである(笑)。
と、こんな感じで長々と書いてきたが、総合点で言うとかなり高い評価をつけたい忠臣蔵である。
最後に余談めくが、この作品はソフト化されたものと当時のオリジナルヴァージョンとでは、前編のラストシーンと後編の冒頭のシーンとに異なる編集がなされていて(ソフト版は本放送時に後編のアヴァンタイトルになっていたシーンが、前編の最後に挿入されており、後編はアヴァンタイトルなしでOPテーマから始まる)、DVDでしか見たことのなかった私は、長らくオリジナルを見たいと思っていたのであるが、昨年(2018年)末にBS日テレでオリジナル版の再放送があったため、ようやく元の放送時のヴァージョンを見ることが出来た。
個人的にはオリジナルの方が好きである。