続・時代劇レヴュー㉙:江戸城大乱(1991年)

タイトル:江戸城大乱

上映時期:1991年12月

製作・配給:東映、フジテレビ(製作)・東映(配給)

主演(役名):松方弘樹(酒井雅楽頭忠清)

原案:桂木薫

脚本:高田宏治


1991年に東映とフジテレビが製作した大型時代劇映画で、派手なアクションを売りにした昔ながらのテイストの東映時代劇としては、2020年5月現在、これが事実上最後の作品と言える。

四代将軍徳川家綱の跡目問題をめぐる暗闘をテーマに、時の大老で「下馬将軍」と呼ばれた酒井雅楽頭忠清と、最初忠清に従いながらも最終的には館林宰相綱吉(後の五代将軍徳川綱吉)を擁立して忠清に戦いを挑む堀田備中守正俊を中心に描いている。

ストーリーは概ね史実通りに進むが、この手の時代劇映画にありがちな、細かい部分は史実と異なったり、あるいは映画の設定に無理に史実を合わせている所が随所で見られ、甲府宰相綱重は将軍の座を狙う尾張家の陰謀で暗殺されたり(ただし、綱重は死因が不明なため、暗殺説も囁かれている)、稲葉正則が殿中で大久保忠朝に斬られたり、極めつけは実は綱吉は忠清の子であるという「とんでも」設定で、これが忠清が頑なに綱吉が跡目に立てられることに異を唱えた理由になっている(ちなみに、ラストでは忠清が綱吉の目の前で切腹して死んでしまう)。

概ね物語としては面白いが、前半の綱重暗殺に始まるスリリングな展開に比して、後半はやや精彩を欠き、かつ結末も駆け足の感があり、敵同士になった後の正俊と忠清の対決を、もっとじっくり見たかったようにも思う。

人物の描き方としては、酒井忠清は「下馬将軍」の世評とは異なる優れた政治家という設定であり、講談の柳沢騒動よろしく実の子の綱吉を将軍につけようとするような邪な野心もなく、むしろ徳川の血筋を守るためにそれを全力でそれを阻止しようとするも(まあ、この設定に持っていくために、無理に綱吉を忠清の子にした面があるのだが)、そのために陰謀に手を染めることになるという、ちょっと屈折した善玉なのであるが、後半はやることが結構悪辣で、かつ松方弘樹の過剰な演技のせいもあって、どうも「正義」には見えない。

対して、当初は忠実な忠清の腹心であったが、忠清に「裏切られた」ことで反酒井派に回る堀田正俊の方が、見る側としては素直に感情移入出来、どちらかと言えば、正俊の方が主人公っぽく見える(正俊を演じるのが、誠実な役が似合う三浦友和のせいもあるだろうが)。

正俊が剣術の達人になっているのはご愛嬌であるが(笑)、そう言う設定を抜きにしても、三浦友和の正俊はいい演技で、硬骨漢の雰囲気がよく出ていた。

他にも、「タヌキ親父」の演技がはまる金子信雄の尾張光友や、丹波哲郎の水戸光圀など、東映時代劇ではお馴染みの芸達者な脇役も多く、また当時は悪役専門だった西岡徳馬と平泉成も存在感を放っている。

個人的には、坂上忍が綱吉を好演していて、堀田正俊の次に印象が強く、史実の謹直で学問好きの綱吉のイメージと異なり、放蕩好きの設定なのであるが、これはこれで面白い。

後、これは完全に個人の好みであるが、私自身酒井忠清が好きと言うこともあって、どうも松方弘樹はイメージ違いである(「並ぶもののない権力者」と言う点ではイメージ通りなのかも知れないが)。

また、高田宏治の脚本は、史実はちょいちょい外すものの、官職名や通称を徹底させる台詞(作中、酒井忠清は「雅楽頭」と言うように、幕閣の高官達は皆官職名で呼ばれていて、家光のことも「大猷院様」と院号で呼ばせている)は好感が持て、個人的には好きである。


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