時代劇レヴュー・番外編④:大唐帝国のドラマ(2)楊貴妃(2005年)
引き続き、大唐帝国シリーズ。
2005年に中国で放送された連続ドラマで、邦題からは楊貴妃が主人公と言う印象を受けるが、原題は「大唐芙蓉園」で、玄宗皇帝と楊貴妃の両者が主人公的存在であり、この二人を軸に唐中期の政治模様を描いた作品である(玄宗の方がトップクレジットなので、制作側の意図としては玄宗が主役と言うことなのかも知れない)。
そのため、ラヴロマンスを思わせる邦題とは裏腹に、開元末~天宝の政治抗争にもかなりのウエイトが置かれている。
特に、前半の中心トピックとなる玄宗の後継者をめぐる諸王の確執や、後半の李林甫と皇太子の暗闘は、日本ではあまり目にしない題材だけに個人的には面白かった。
ストーリー展開もおおむね史実通りで、登場人物達のキャラクタも、老獪な李林甫、玄宗に献身的な高力士、道化と野心家を使い分ける安禄山、小者の楊国忠などなど、オーソドックスなものである。
楊貴妃は、あまり政治的野心のない純真な女性として描かれ、楊一族が重用されることにはともすれば批判的な目を向けている。
フィクションである序盤での青年将軍との恋も含め、楊貴妃は都合三回恋の相手が変わるわけであるが、それも含めて運命に翻弄された悲劇の女性と言う楊貴妃像で、楊貴妃演じる范冰冰(ファン・ビンビン)がものすごい美人なこともあって、そのイメージが非常にマッチしていた。
余談ではあるが、ファン・ビンビンは2001年の「始皇帝烈伝」(「時代劇レヴュー・番外編②」参照)では始皇帝の妃の一人を演じていたが、役のキャラクタのせいか、四年後の本作の方が幼く見えた気がする(笑)。
個人的に興味深かったのが李林甫の描き方で、老獪な政治家である反面、宰相として優れた点も前面に出して描かれ、あくの強い役ながらも、トータルとしては評価されていたように思う(李林甫役の俳優も、名前は存じ上げないがかなりはまっていた)。
一つ難点、と言うか、気になったのは日本語字幕で、「吏部」を「人事部」「兵部」を「軍事部」、あるいは筆頭宰相のことを「首相」を呼ばせていたり、どうも当時の雰囲気が削がれるような表現が多く、「首相」はともかく、せめて六部の名称くらいは固有名詞のまま使って欲しかった(このあたりは、日本のDVD制作側の不手際であろうが)。
とは言え、それらは些細なことであって、全体を通じて歴史ドラマとして出来が良い。
ファン・ビンビンの美しさも、本格派歴史ドラマも楽しめるお得な(?)一作であろう。