(GK編)2023年FC東京各ポジション予想
2022シーズンに新たにアルベル監督が就任したFC東京にとって、2023年は勝負のシーズンになる。そうなってもらわなければ困る。
今シーズンも持て余した時間と情熱を解消するために『移籍情報』と称してまとめているが、ここまで飛ばし記事が少なかったストーブリーグは珍しいのではないか。
また、獲得する選手についても国内新聞各社による正式発表直前の確定報道はあっても、憶測のような記事が飛ぶこともなかったように思う。
親会社がミクシーに変わって以降の組織改編の効果もあるのだろう。その内情は全く分からないが、FC東京がチーム内のコンセンサスや情報統制が取れていることは喜ばしいことである。
(単に、ワールドカップというイベントがあったことで記者にそういった記事を作る時間がなかった・必要がなかった可能性もあるが…)
さて、今回はGKのポジション争い・起用法について考える。
初のリーグタイトル争い・林の負傷・『クバ神』の加入
ご存知『クバ神』ことヤクブ・スウォビィクは、昨シーズンに仙台より加入した守護神である。
Jサポーターでその存在を知らない者はいない実力者であり、チョン・ソンリョン(川崎)やミッチェル・ランゲラック(名古屋)に並ぶ外国籍GKの代表格だ。
FC東京が初めて本格的な優勝争いを演じた2019シーズンのゴールマウスを守った林彰洋(現J2仙台)が負傷して以降、児玉剛や波多野豪(現J2長崎)がその大役を担っていたが、今ひとつ安定感に欠いていた2シーズンとなった。
失点数はチーム戦術など様々な要因で変動するものであり、GK個人の成績として単純比較することは難しいが、参考資料として並べよう。
2018~2021シーズン途中まで指揮を取った長谷川健太氏の戦術が守備から攻撃へシフトした影響も否めない。
優勝争いを演じた2019シーズンで2位に終えて以降、ACLと並行して戦った2020シーズン、結果的に過渡期となった2021シーズンまでにレアンドロやアダイウトンを加えて攻撃に力を入れていたことは明らかであった。
その結果、数字としても失点が増加した。
守備から構築することがフットボールの鉄則とされる中、攻撃を上積みする難しさを同時に抱えるのもまたフットボールだ。
そうした中、2022シーズンに就任したアルベル監督は『FC東京のスタイルと呼べるような魅力的なサッカーを構築したい』と目標を掲げ、ポジショナルプレーを標榜した戦術の徹底に注力する。
フロント主導か、監督のリクエストかの内情は推し量るほかないものの、懸案だったGKを補強する。
2022シーズンに完全移籍加入を果たしたのは。ヤクブ=スウォヴィクだった。
前述の通り、杜の都・仙台で長い間守護神として名を馳せていた守護神である。
30年近いFC東京の歴史において、Jリーグでも有数のGKを他チームから獲得することは初めてであった。
スタッツが示すスウォヴィク加入の効果
2022シーズンの成績はスウォヴィクひとりの成果ではない。
アルベル・トーキョー1年目にして、チームの戦術を浸透させながら1度も降格争いに片足を突っ込むことなく最終順位リーグ6位を達成したことは、チーム・クラブスタッフ・スポンサー・サポーターなど全員の成果だ。
しかし、『魅力的なサッカー』を試行錯誤しながらも、破綻なく勝ち点を稼げたことの要因は、スタッツが明確に物語っている。
『攻撃回数』が2021シーズンはリーグ8位だったことに対し、2022シーズンはリーグ4位となっている。
それにも関わらず、失点そのものは減少している。
コロナ禍の影響で20チームでのリーグ戦となった2021シーズンと比較するため1試合平均としているが、守備の改善が見られる数字となった。
ちなみに、『被ゴール』は2021シーズンがリーグ15位、2022シーズンはリーグ12位となっている。
それに対して、『被攻撃回数(攻撃された回数)』は2021シーズンがリーグ7位、2022シーズンは3位であるため、攻撃された回数が少ない割には失点が多いチームであるといえるだろう。
つまり一発でやられやすい、ということだ。
これはGKを含めた守備陣がどこまで精度を上げられるかに懸かっている。
それでも、スタッツ以上にスウォヴィクのセーブで救われた気がしているのは印象論なのであろうか。
「ここで止めてほしい」「ここは失点しそうだ」といった雰囲気の中、確実に止めてくれた記憶が確かにある。
また、興味深いスタッツを見つけたので紹介する。
2021年が4試合多いことから割合も併記した。
明らかに大きく変化しているのはここの項目であったためだ。
どうしてもセットプレーでの失点は印象に残りづらく、サポーターからしても「あっさりと決められた」という思い出になりやすい。
ただ、明確に貴重な1点であることは間違いなく、スウォヴィクがこのセットプレーでの失点減少に大きく寄与している点は見逃せない。
セットプレーの中で大きな割合を締めるコーナーキック(CK)において、GKによって防げるシーンは数多くある。
GKはキッカーが蹴った瞬間にボールの軌道を見て飛び出すか飛び出さないか一瞬の判断を行う。
更に、それがニアなのかファーなのか。目の前に自分を妨げる選手が居ないかどうか。確実にボールを触れるのかどうか。
GKは飛び出したのなら確実にボールを触らなければならない。触れなかったらゴールはがら空きになるので、シュートなりクリアなりが無人のゴールに飛んでしまったら十中八九決まってしまう。
そうした高度な判断を破綻なく選択し続けたからこそ、セットプレーによる失点が『6』という結果を残せたのだろう。
ちなみに、FC東京より『セットプレーによる失点』が少ないチームは2チームしかない。
一つはG大阪で、その数は『3』。次いで広島が『5』である。
どちらも東口と大迫の有力GKがチームを下支えするという共通点がある。
波多野の選択と挑戦
ここまでスウォヴィク加入の効果を述べてきたが、それは前任の波多野や児玉の価値を下げる目的ではない。
児玉はベンチ入りするセカンドキーパーとして、ベンチ外となる第3GKとしても常にモチベーション高く準備を怠らないプロフェッショナルである。
それは彼自身がYouTubeに上げている動画を見ても分かる。
波多野は言わずと知れた『最も近くでチームを鼓舞するサポーター』であり、将来有望な選手である。
コロナ禍で歓声が出せない中、ベンチに波多野が居る際は相手チームのサポーターから「あのずっと騒いでいる選手は誰だ」と言われ続けた。
下部組織からの生え抜きで特にチーム愛の強い選手だ。
その思いが内面から溢れているのか、外に放出するエネルギーと情熱はチーム随一。どんな選手よりも『東京愛』を体全体で表現してくれる嬉しい存在である。
個人的にユース・U23からずっと見てきた波多野に期待する思いは強いし、何より2020シーズンのルヴァン杯獲得に大きく貢献した実績もある。
しかし、そのルヴァン杯決勝での失点に代表されるように、波多野には少しプレーの荒が目立つ場面が散見された。
若さと経験不足故か、細かいポジションニングが不安定でミドルシュートを打たれると厳しい点もあった。
相手チームから「このGK、打てばいけるぞ」という野次のような指示が飛ぶこともあった。
そこの苦手意識や分析はチーム・本人も把握していたようで、2022シーズンの4月にはこのような記事も出ていた。
ストロングポイントとして、ビルドアップ繋ぎの部分ではスウォヴィクを上回るのではないかと思われる程だ。
198cm98kgのサイズにしては珍しく足元が器用で、プレッシャーに晒されても卒なく繋ぐことができていた。
また、ゴールキックも含めたフィードの質はそれなりの水準であり、2020シーズンはサイドに張った左SB 小川諒也の頭に合わせるゴールキックを多く成功させていた。
2022シーズンでリーグ戦では1試合の出場機会しか与えられなかった。
ルヴァン杯ではコンスタントに出場機会を得ていたので、アルベル監督としてはそこでのアピールが、スウォヴィクに達していないと判断したのだろう。
前述の課題や経験不足を踏まえて、このチームでこのままポジション争いをするよりも、J2 長崎で着実に出場を重ねて成長していく道を選んだと言える。
そうした決意を、波多野の移籍リリースのコメントからも伺い知ることができる。
レンタル移籍のコメントは「成長して帰ってきます」などの紋切り型のコメントが多い中で、波多野は自分の思いを正直に綴っている。というか多いくらいだ。3枚もの画像にコメントを付けてリリースしてるのなんて今まで見たことがない。何だこれ。時間をおいて見返すとその熱量に混乱してきた。
さておき、波多野は1年間の武者修行をすることとなっている。
長崎でJ1昇格を成し遂げ、サポーターにFC東京復帰を惜しまれるくらいのGKになって欲しい。
2023シーズンでG大阪に復帰した谷晃生のように、満を持してスウォヴィクへ挑戦状を叩きつけるような大きな守護神に。
そして、それが連覇かどうかは分からないが、3年目を迎えるであろうアルベル・トーキョーがリーグタイトルを獲得する際にピッチで大喜びする姿に繋がっていることを期待している。
児玉の献身とブランドンの帰還
2022シーズンに守護神として君臨したスウォヴィクに次ぐセカンドGKは、波多野豪であった。
そして、ベンチ外の第3GKという難しい立場で修練を積むこととなった選手が、児玉剛であった。
2022年12月に35歳を迎えたベテランGKであるが、2023シーズンは世代別日本代表に選出され続けている野澤大志ブランドンとポジションを争うこととなる。
そのポジションは、当面はベンチ入りを懸けたセカンドGKである。
2021シーズンは、林彰洋の負傷が長引いている中で波多野と正GKのポジションを争った。コロナ禍での波多野の規則違反による謹慎処分もあり、リーグ戦で7試合の出場機会を勝ち取った。
しかし、ポジション奪取には至らず、翌2022シーズンはスウォヴィクの加入もあり第3GKとして落ち着くこととなった。
ワールドカップを戦う日本代表では、ベテランの第3GKの存在が評価されることが多い。
2006年大会では土肥洋一、2010年では川口能活、2022年では川島永嗣が頼れる存在としてチームを引き締めた。
アクシデントがない限り出場機会が見込めない第3GKという立ち位置において、ベテランがモチベーションを失わずトレーニングに励み続ける姿勢は、国際大会においてもチームの雰囲気作りに欠かせなかったことだろう。
それはクラブレベルでも同様であるに違いない。
公式Twitterがアップする練習風景を映した動画には長友や波多野など目立つ選手の登場が多かったが、黙々と練習に取り組む児玉の姿はきっとサポーターが目にできない場所で選手たちに大きな影響を与えているはずだ。
そうした偉大なベテランである児玉剛が報われることを期待する一方、若手GKが大きく羽ばたくことを同様に期待してしまうのがサポーターである。
これは決して矛盾する感情ではなく、GK同士が切磋琢磨して成長することを望んでいる。
2023シーズンにそのポジション争いに加わる選手が、いわてクルージャ盛岡で2シーズンを過ごし経験を積んだ野澤大志ブランドンである。
FC東京のレンタル移籍は片道であることが多い。
これまで数多の下部組織出身選手がJ2・J3へ貸し出されたものの、そこで活躍して復帰することは少なかった。
下部組織から昇格できないものの、大学を経由してトップチームに加入する選手も多くいることから、レンタル移籍した選手がそのまま完全移籍で放出される状況が続くと切ない気持ちになっていた。
ブランドンは、そうしたチーム事情において珍しく帰還を果たした若手選手である。
いわてクルージャ盛岡では、2021シーズンにJ3で14試合に出場しJ2昇格を果たすと、2022シーズンには22試合に出場した。
チームはJ3降格となってしまったが、現時点で20歳であることを考えても世代有数の経験値を積んでいるGKである。
ブランドンは193cm90kgのサイズがあり、その体躯を存分に操ることができる身体能力を兼ね備えている。
動画のセーブ集を見ていただきたいが、セーブする際の身体操作はスムーズであり、実にシャープだ。
ご覧の通りセーブしたシュートの弾く方向などに課題は残るが、J2で発揮した実力と秘めたポテンシャルは折り紙付き。
スウォヴィクに挑む権利がある、とフロントが判断したことにも納得がいく。
現実的な序列で考えると、スウォヴィクがファーストチョイスであることは間違いない。
しかし、セカンドGKは横一線だろう。
安定感のあるベテラン児玉剛がベンチでチームを支えるのか、実践を経て成長した若武者であるブランドンが勢いそのままベンチ入りを果たすのか。
チーム始動からキャンプを通して、その序列はハッキリとするはずだ。
いまだ不在の第4GKはU18からの抜擢か
2023年1月6日時点で、トップチームのGKは3名となっている。
ヤクブ=スウォヴィク、児玉剛、野澤大志ブランドンだ。
2022シーズンはスウォヴィクが正GK、セカンドGKを波多野、第3GKを児玉が努めた。
林彰洋は長い負傷からのリハビリに時間を費やしており、シーズンの大部分をこの3人で担った。
実質は3人で競い合った形であるが、登録上は4人のGKが在籍した。
よって、今シーズンは1人少ない状況にある。
現状でスウォヴィクと競い合わせるような即戦力GKの獲得は考えられない。
あるとしたらJ2に降格した清水の権田修一クラスの選手を獲得する必要があるが、それはほぼ無い話だろう。
※清水が2023シーズンの背番号を発表し権田は『21→57』の変更となった。海外移籍前提の変更と見られる。
過去には柴崎貴広(現J3 富山)や阿部伸行(2022シーズンで現役引退)など、トライアウト参加者などから獲得することでGK陣の充実を図ったこともあったが、現時点でそういった動きも報道もない。
そうなると、残された選択肢は2つしかない。
②の場合、新卒選手の獲得では新聞報道は少ないためサポーターが触れることのできる情報は少なく、現時点でそういった報道はない。
また、2023シーズンスタート時点で波多野豪が24歳、野澤大志ブランドンが20歳である年齢構成を考えても、可能性は薄いように感じる。
①の場合、既に2種登録された選手が在籍している。
2022年2月の開幕直前にコロナ感染者が多く発生したチーム事情もあって、東廉太(2023シーズン昇格)らと共に当時2年生にして2種登録された小林将天(こばやしまさたか)である。
直近のU17日本代表にも選出されている選手で、同学年の斎藤朝陽と共にチーム内でハイレベルなポジション争いを繰り広げている。
今シーズンのプレミアリーグEASTでは度々ベンチ入りを果たしており、チーム内の序列は高い。
2022シーズン前の沖縄キャンプでは、加入内定の荒井や西堂などに混ざる形で2種登録発表前の小林も参加しており、そこにはその後トップ昇格が決まる土肥幹太や東廉太も参加していた。
どうやらシーズン前のキャンプからアカデミーの有力選手を多く参加させることはアルベル監督の意向らしく、トップチームの雰囲気を感じる成長の機会となっている。
2023シーズン前のキャンプでも同様の形で継続することが予想される中、そのままの流れで2種登録されることは十分に想定される。
第4GKで貴重なA契約の枠を埋めるよりも、使い勝手の良い2種登録のU18選手の成長の機会と捉えることは育成面・運営面の両面からしても賢い選択肢だ。
多くのプロ選手を輩出するFC東京アカデミーから、また新たなGKの登場を心待ちにしたい。