インサイダー取引とは
金融機関に従事する者が忌み嫌う犯罪に「インサイダー取引」があります。
インサイダー取引とは、会社の役職員が、その地位や職務によって知った会社の内部情報が未公表であることを濫用して株などの取引を行うことです。
他業種よりも金銭を多く扱う金融機関では、信頼を礎に事業を展開していますので、役職員がインサイダー取引に手を染めることなど百万が一にもあってはならないことです。
金融機関以外に従事する者でもインサイダー取引に手を染めた場合、懲戒解雇という形で責任を負わなければならないこともあります。報道でインサイダー取引が露見する事例は多数あります。
今回は、インサイダー取引について考察したいと思います。なお、法律ではインサイダー取引を「内部者取引」と呼んでいますが、ブログでは世上で浸透している「インサイダー取引」で通したいと思います。
金融商品取引法166条を読んでみると
インサイダー取引を規制する法律は、金融商品取引法です。166条、167条と167条の2に規定されています。166条は、会社関係者に対する規制、167条は公開買付けによる規制、167条の2は未公表に対する規制です。一見わかりやすく分類されているように見えますが、条文を読むととにかく長くてわかりにくい!
今回は、166条を題材に条文を読んでいきます。
いかがでしょうか?促音の「っ」が「つ」になっていたり、括弧書きが乱発されたりしていることを差し引いても、本当に理解しづらい条文だと思いませんか?しかも、今回お示したのは条文のごく一部に過ぎません。
しかし、ご心配には及びません。金融商品取引法は法学部の学生であっても苦しむ「鬼門」の法律です。
しかし、わかりにくい条文ではありますが、条文を読むことなく薄い手引書だけでインサイダー取引を理解した気になることは考えものです。
そこで、本記事では条文をゆっくりと噛み砕いて見てみたいと思います。まずは初歩の初歩、会社関係者に対する規制の理解を深めましょう。
先ほど挙げた条文の中で括弧書きを外して読んでみます。強調部分だけを読むと、
太字部分だけを抜き出してみると、以下のようになります。
いかがでしょうか?随分と読みやすくなったのではないでしょうか?
平たく言えば、金融商品取引法は「重要事実を業務上知った場合は、重要事実が公表される前に株などの売買をしてはいけませんよ」と言っているのです。
もちろん金融商品取引法では、線引きが非常に詳細に規定されています。どのような状況ではインサイダー取引になり得るのかの線引きの細やかさこそ、金融商品取引法の条文が長大難解になっている理由だとご理解ください。
さて、「各号」の内容を噛み砕いて見たいと思います。ここでは「誰が」対象なのかが列挙されています。
1号はわかりやすいと思います。役員は未公表の重要事実を把握しうる立場ですから。
興味深い点は、2号と3号です。
2号では、会計帳簿の権利行使をして未公表の重要事実を知った株主が取引をすると、インサイダー取引になると明示されています。会計帳簿の権利行使は、株主の権利の1つです(会社法433条)。また、3号では公務員を規制対象にしています。金融機関に出入りする「法令に基づく権限を有する」公務員と言えば、金融庁職員が思い浮かぶでしょう。また、稀ではあるものの家宅捜索を行ない未公表の重要事実を把握した警察官や検察官も規制対象になるでしょう。
ここまで来るとお分かりでしょうが、社外の人間も時としてインサイダー取引の規制を受けることもあります。株式の売買の時にはインサイダー取引に該当しないことを確認して取引しましょう!そして、1つ追加情報があります。上記では網掛けをしていませんが、できれば知っておきたい規定があります。
「重要事実を知った人で、退職した場合1年以内もインサイダー取引に該当しますよ」という話。昨今は、転職する方が多いと思いますが、転職後もインサイダー取引の規制を受ける場合もありますので、ご注意ください。
インサイダー取引を疑われない対策は「李下に冠を正さず」
各金融機関は、株などの売買をしたいときは「会社に申請をし、認められて初めて売買手続きができますよ」という規則を設けているようです。金融機関は職務の性質上、機密情報を数多く取り扱います。他の業種と比較して、インサイダー取引を防ぐ自主規制ルールを設けることは至極真っ当なことです。
また、金融業からは離れますが、機微な情報を多く知りうる立場である大臣、副大臣、大臣政務官には在任期間中は株式の売買を自粛するルールがあります(国務大臣、副大臣及び大臣政務官規範)。
万が一、インサイダー取引を疑われたときに、インサイダー取引をしていないことを証明することは悪魔の証明です。悪魔の証明であっても疑いが晴れない場合は、社会的に責任を負わなければならない可能性もあります。
「李下に冠を正さず」の意識を忘れずに、証券市場に参画することをお勧めします。