西加奈子がかつて指摘した「オードリー若林の特性」と、その特性が才能として開花した『あちこちオードリー』
2024年11月20日放送のテレビ東京系列の番組『あちこちオードリー』にて、お笑いコンビ・オードリーの若林正恭が、未だに「人見知り」であったり「陰キャ」扱いをされることで戸惑ってしまうと語っていた(*1)。
「もう俺、46で娘いるんすよ。で、なんか未だに陰キャの帝王みたいな。その時に、イメージがあるけど、俺、もう結構パパ友と喋れるよ、みたいな」
「初対面の人でもってなってくる。でも、ガッカリされません?なんかもう『さすがにもう、陰キャじゃないです』とか言っても、『いや、そういうのいいわ』みたいな空気になるから」
「更新されないんですよね、世間のイメージは。…いや、俺もそれでなんか言った方がいいなと思って。『いやぁ、人見知りですから』みたいなこと言ったら、『さすがにもう、お前に言う権利ねぇだろ』みたいな空気になる時もあるんですよ」
すでに固まってしまい、更新されない世間のイメージと、変化した自分とのギャップについて戸惑いを感じ、真正面から否定してしまうこともできずに困惑することもあるのだという。
オードリー若林の核心部分
テレビ朝日系列の『アメトーーク』で「人見知り芸人」が放送されたのは、M-1グランプリ準優勝後でブレイクを果たしてまもなくである2009年11月19日だった。
雑誌取材が行われるという体(てい)のドッキリで、ライターの準備ができるまでの間、カメラマンと二人きりの空間で黙り込み、その空気に耐えきれず「ペットボトルに書かれた文字を読み込む」というVTRが印象的であり、若林の「人見知り」であるというイメージは、『アメトーーク』などでのカミングアウトがきっかけであると思われる。
だが、年齢を重ねて、さらには2019年11月に結婚、2022年2月に第一子が誕生したことで心境の変化もあり、人見知りは改善されているようである。
こうした「人見知り」あるいは「陰キャ」といったキャラクター以外、若林のパーソナルな特性を指摘したことで最も私が印象的だったのは、作家・西加奈子の指摘だった。
西加奈子の指摘
若林はかつて、西加奈子をゲストに迎えた2015年6月6日放送のニッポン放送系のラジオ番組『オードリーのオールナイトニッポン』の中で、飲みの席で「童貞やんな」と言われたことについて、その意味を質問している。
この質問に対し、西加奈子は次のように語っていた(*2)。
「字義通りじゃない、"童貞感"が若林さんにはめっちゃあって。エッセイを読んだ時とか。なんかさ、出てはるテレビとか、やってはることとかな、言うたら、最上級の女性を抱き続けてるようなもんやんか。テレビとか、業界で言うたら」
「でも、いちいち『これでエエんかな?』ってなってて。毎回『うわ、女の体こんなんになってんねや』みたいな感覚。全部が、ファーストタッチっていう。そういう感じがしてん」
日々を送る中で、大体の事象は新鮮味が薄れ、「こうしたものだろう」と対して疑問を抱いたり、感情の起伏なく触れているものの、若林は毎回「ファーストタッチ」のような感覚で接している、と西加奈子は思ったのだという。
「でも、それって自分らが最初に失うもんやん。真っ先に。だって、上手いことできるようになるやん。でも、全然できひんやん。エエことなんやで。これ、褒めてんねんで。だって、会議の時に、真っ直ぐなこと言い過ぎて、みんなが引くって、怖いやん。でも、それやってまうやん」
「『うわ、(会議に)お土産持ってくる人おる』とかさ。『そんなん、知らんねや』みたいな。ウチらも昔はそうやったはずやけど、こんな売れてる人が、こんなことで、ビックリすんねやってことで」
「でも、(飲み会での発言は)どっちでもあんねんで。字義通りの童貞っていうのと、メタファーとしての童貞を、どっちもぶつけちゃったんやと思う」
ファーストタッチと自問自答
こうした物事に対する「ファーストタッチ」感に関連するかのように、放送作家・オークラもまた、次のように語っている(*3)。
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