白い花

この人に、私のこれまでとこれからを全部あげなければと、本気で思ったことがある。そして、挫折したこともある。私はそんなに強くも賢くもなく、かの人もまた同じだった。お互いが求める通りの愛情を届けることは、とても難しかった。それでも確かに、私たちだけの永遠と呼べる瞬間があった。私は絶対にそれを忘れない。

あの人が、すっかりそれを忘れてしまっている姿を見ても、私は驚かない。あのときもずっとそうだったから。忘れっぽいということはとても哀しいことだと思った。驚かないけど傷つきはする。傷ついた顔を見せたら、それをあの人はまたせっせと自分の孤独の肥やしにしてしまうだろう。いつまでこの人はひとりぼっちという幻想の中にいるのだろう。その幻想を壊してあげたくてそばに居た、無理矢理そばから広げようとした、ことで、拒まれた。私たちは幼すぎた。

じきに私は、あの人の中で本当にいなかったことになるのかもしれない。顔も名前も、朝も夜も、忘れられてしまうのかもしれない。きっとその時あの人は、不幸せな時間の中にいるだろうけれど、そこで出逢った誰かと共に、本当の幸せを知るのだと思う。

傷つけて傷つけて、傷つけられて傷つけられて、お互いにお互いの幸せを願う権利があるかと問う人がいれば、ないのかもしれない。私は、あの人が幸せになってほしいと思っている。人間には無責任にそう思う自由があると知っているから。これが間違いなら、いますぐこの夜行バスを横転させればいいよ神様。

互いにつけた傷のことを忘れている私たちは、揃いも揃って愚か者である。それでも、命には、望んだ時間しか訪れないと思う。望んで生まれ、望んで育って、望んで出逢って、望んで傷つけ、望んで離れて、望んで忘れた。次の望みの通り、また生きていくだけだと思う。

遠くへ行こうね。できるだけ遠くへ。会えたら会おうね。



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