2023WBC総括&WBC2026に向けての話


〇優勝した侍ジャパンの戦いについて

準々決勝まではリード奪われる展開もありながらも基本的には快勝でした。特に打力が発揮されていたのはご存じの通りでしょう。
個人的には、特に韓国戦とイタリア戦ですね。

韓国はオーストラリアでも打たれているし、イタリアも強力投手陣という印象を持っている人は少ないと思う。あまりにもあっさり攻略しちゃったから凄さが伝わりにくいと思いますが、この点が過去の大会の日本代表との違いだと思う。



後述しますが、韓国の投手層の「底」と思われるのは2、3年前であって、今は底を抜けて課題だった先発投手は台頭してきた時期でもありました。日本戦で出てきた、ウォン・テイン、クァク・ビンやパク・セウン、イ・ウィリなどは先発投手。彼らはみな140キロ後半をコンスタントに投げていましたが、数年前までは140後半をアベレージで投げられる韓国人スターターはほぼ皆無。彼らは短いイニングだけでなく普段のKBOでも先発登板で145キロ以上を投げられる投手たちです。
先発したのはいつものキム・グァンヒョンでしたが、それなりに新しい投手は台頭しつつありました。
でも日本人と似たメカニックで、似た球種の構成で、140キロ後半程度の投手ならいつでも打てるわい!といわんばかりに打ちまくった日本打線がもっと褒められていいのではないかと思う。今まではそうじゃなかったのですから。いい投手は出てきつつあったのに、さらにその上を行ってしまった感じでしょうか。


イタリアも準々決勝には総力戦で序列が上の投手を総動員して7人をつぎ込んできましたが、そのうち6人は3A以上でバリバリやっている人たちによる継投でした。これもあっさり跳ねのけている。みな150キロ級の投手たちでした。昔のオリンピックの苦戦とか思い出してください。


10年前の2013年のWBCでは初っ端のブラジル戦から苦戦し、実績は凄いけど球速が落ちてその頃はマイナー暮らしが長かった王建民を捕らえられず、準決勝ではモリーナが操る3Aでプレーしていたマリオ・サンティアゴに屈しました。
「WBC球を使って動かしたりしてくる初見のマイナーリーガーが打てない」という侍ジャパンのイメージをシンプルに今回実力で覆してしまった感じです。


WBCも6年ぶりに開催されましたが、試合を見ていると特にプロスペクトでもなさそうな1Aや2Aの投手が当たり前のように94マイルとかを投げるような世界線になっています。そうした世界的な投手のレベルアップ以上の進歩が日本の野手にはあったのではないでしょうか。
今大会のWBC球はNPB球より飛ぶ、という要素もあったことも頭の片隅には置いておくべきですが、21年の東京五輪の金メダルも併せて考えると(五輪のSSK球は逆にNPB球よりも飛ばないボールでした)日本の打力の向上は素直に喜んでいいんじゃないかと思う。単に技術的なことだけでなく、スカウティングや侍ジャパン常設による対応力の上昇といった要素も忘れてはいけない。




一方の投手陣は、やはり決勝でのアメリカ戦を2点に抑えたことに値打ちがあります。

ストーリーとしても、勝つための采配としても8回ダルビッシュ、9回大谷翔平という継投に至ったことは一ミリも疑問に思いませんが、ダルビッシュは被弾したし、大谷が投げた最後の1イニングは他の投手でも0点に抑える可能性は十分にあった。言い換えるとMLBでプレーするダル大谷への依存度が低い形で、7試合目の決勝戦で試合勘も十分、野手はメンバー的にほぼ申し分なし、と言い訳の余地がゼロに近いアメリカ打線を封じた事実は大きい。

WBCの開催方式が、3試合のリーグ戦だった二次ラウンドから準々決勝の一発勝負なったことで日本のような投手層の厚さが売りのチームは損をしてしまうと思っていました。ただ、準々が消耗戦になってしまう分、そこを乗り越えれば準決勝以降が残された投手の枚数や質勝負になるのは予想していない発見でした。メキシコやキューバはそこが少し足りなかったのかもしれない。

準決勝で佐々木・山本と使い切ってしまって、大谷・ダルも1イニングしか使えない。

という状況が生み出した「4本柱」以外のNPB国内組による継投。MLB所属選手以外の投手がMLB選手の並ぶ打線を封じたことは国際野球的も価値があっただけでなく、対戦し慣れてないタイプの初対戦投手による細かい継投はアメリカ代表クラスの野手でも攻略が容易でないという事実が明るみになったとも言えます。


試合展開はものすごくドラマチックだったのですが、この勝利は意外と「再現性」があるのかもしれない。

〇アメリカ代表について

勝っても負けても、WBCという大会の将来を考えるうえで議論の中心となるのはやはりアメリカ代表。私は6年前の前回大会で総括でこんなことを書きました。少し長いですが、こんな内容でした。



WBCにおけるアメリカ代表とは、結局何のためのチームなんだろう・・。とふと思った。
もちろん、選手たちはアメリカ人としてアメリカの野球ファンのために戦っていたという意識だったと思うし、ファンも自国の代表チームとして応援していたに決まっている。
ただ、このチームが他国の代表チームのように自国の野球に大きく影響を与えるような存在だったとはやはり言い難い。

アメリカ代表はアメリカの野球界のために戦っているというよりは、WBCという大会に権威をつけるためにできるだけメンバーを揃え、出来るだけ好成績を残すことを求められているチームだ。ここが変わらない限り、WBCという大会が本物の大会に近づくことは難しいように思う。

アメリカ代表がアメリカの野球界のために戦う― 
そこに意義や可能性を見出す人が出てくるようになれば、WBCの抱えている諸問題も解決するのではないか。

(中略)


人々は訳知り顔で、なぜアメリカではWBCの人気がいまひとつなのか事情や背景を説明する。もちろん、そこで説明されていることは真実だと私も思う。
オリンピックやサッカーの代表戦が大好きな日本と、アメリカが同じようにいかないことは私でもよく分かる。
それでも、カーショーが投げてトラウトが打つアメリカ代表が、ポストシーズンのようなテンションで戦うイベントが実現すれば、アメリカのスポーツファンにとっても十分魅力的なエンターテイメントになりうるのではないかと私は信じている。
プロ野球チームの優劣を付けるのにはポストシーズンで採用されている7試合制が妥当なのかもしれないが、エンタメ性で言えば一発勝負の方が絶対面白い。アメリカがフルメンバーを揃えても、そこに対抗できそうな国はたくさんある。アメリカのスポーツファンの肌感覚はわからないが、十分ポテンシャルがあるように見えるのは、私がWBCを好きすぎて盲目的だからだろうか。

MLBは地域密着型のスポーツとしては大成功しているが、全ての野球ファンが1つの試合のためにテレビの前に集まるようなイベントはないように思う。

マンフレッドに言いたい。
時間短縮も大事なことだと思うが、WBCを「カーショーが投げてトラウトが打つアメリカ代表が、ポストシーズンのようなテンションで戦う」大会に育てることの方がよっぽどアメリカの野球振興に繋がるのではないか?、新しいファンの獲得に繋がるコンテンツになりうるのでは?と。

もし、MLBの組織の外側にいる人間や組織が、WBCに対する取り組みをMLBに働きかけるのだとしたら、切り口はここにあるように思う。
特に自国の代表をブランド化し、世界で二番目のプロリーグであるNPBあたりは、働きかける上でかなり説得力のある存在のはずだ。
MLB自身が気づいていないような価値や可能性がWBCにはあるのではないか。

アメリカ代表がWBCという大会の権威のために、あるいは世界の野球の発展のために― 言い換えれば、ヨソの国のためにある存在である限りは、根本的な変化はおそらく起こらない。アメリカ代表がアメリカの野球のために戦う。WBC発展のカギはここにあるように思う。


7つの論点から振り返るWBCの総括や未来の話 -WBC2021に向けて-


あれから次の大会で「カーショーが投げてトラウトが打つアメリカ代表が、ポストシーズンのようなテンションで戦うイベント」があと少しで実現しそうになるとは思いませんでした(今のカーショーは現役最高峰の投手、というわけではないので意味合いは微妙に異なるけれど)。

それはまあ置いておくとして、WBCアメリカ代表が「アメリカの野球界の将来を背負っている」という要素は今大会が一番大きかったのではないでしょうか。
WBCが次の段階に進むためには、MLBがWBCという大会を「世界の野球を発展させるための手段」としてだけでなく、「自国の野球を発展させるための手段」としても価値を感じるようになることで、開催時期などの課題に対して重い腰を上げることになるのではないかと思う。

準決勝後にメキシコのギル監督が「日本が勝ち進んだが、今夜は野球界の勝利だ」という名言を残していましたが、さらにそれを受けてかアメリカ代表のデローサ監督も決勝後に「今夜は野球界の勝利」と語っています。


今大会は全米4大ネットワークのFOX系列のメインチャンネル(地上波)・スポーツチャンネルで中継され視聴者数は広がりを見せたと言われています。決勝戦最後のドラマチックなフィナーレは多くの野球ファンを感傷的な気持ちにさせてくれましたが、それだけに留まらずに「アメリカの野球を発展させるための手段」としてのポテンシャルをああいった場面を通じて見出す人が増えてくればWBCもさらにいい方向に変わっていくのではないでしょうか。


6年の時を超えて、もう一度マンフレッドに言いたい。あの決勝の最後の場面を見たか?ピッチクロックで、もう時間短縮については満足しただろ?と






〇本人の意思と開催時期

準々決勝ベネズエラ戦の逆転満塁弾や決勝での先制弾を含む5本塁打を放ったアメリカ代表のトレイ・ターナー(フィリーズ)とMLB移籍一年目を迎える吉田正尚(レッドソックス)の参戦は少し画期的でした。

ターナーはドジャースに所属していた昨年の段階で出場を表明。FAとなり、次の所属チームが決まる前の段階で出場を決めて、フィリーズとの大型契約を経てWBCに参戦しました。

「所属チームの許可が必要」というイメージが付きまとうWBCですが、ルール上、「健康ならば本人の意思で出場するかしないかを最後は決められる」大会でもあります。というか、そうでないとMLB選手が出場するこの大会は成立しなくなってしまう。それを体現する存在になったのが今大会においてはこの二人だったように思います。こうした前提は過去の大会から既にあったわけですが、その上でもターナーや吉田のような立場の選手でも参加しやすい空気にはなってきているのではないでしょうか。

今オフにカブスからカージナルスに移籍したベネズエラ出身捕手ウィルソン・コントレラスはチームの「提案」を受けてWBC出場を辞退したと報じられました。

以前ほど露骨に「反対」しにくくなっていることに加えて、健康な選手ならば実際に「提案」までしか出来ないということの現れだったんじゃないでしょうか。ただ、彼以外にもおそらく「提案」を受けた選手はそれなりにいるのだろうと思います。

一方で、本人が出場を希望し、球団もそれを容認したにも関わらず保険会社からの許可が下りず出場が出来なかったクレイトン・カーショウ(ドジャース)のようなケースも表面化しました。


特に今の開催時期ならば投手(特に先発)が参加しにくいことは今も昔も変わらない。
WBCに突き付けられている最大の課題でもあるのですが、「オールスター期間にやればいい」的な話は06年大会の頃から散々されてきたわけで。

基本的には今の3月開催から動かすのは色んな事情が絡んで難しい。もし変わるのならば、一つ前の項目で書いたように「アメリカの野球を発展させるための手段」としても考えられるくらいWBCの価値が上がった時に重い腰を上げるのではないかと思われる。

MLBに対して早期の変化を望むならば、WBCをMLBと共に主催しているMLB選手会にNPBやWBSC等の団体が働きかけるというルートもあるかもしれない。

労使交渉の報道をなどを見ていても、MLBの選手会はNPBの選手会とは性質の異なる団体だということは理解していますが今大会でWBCが二次ラウンドから準々決勝にフォーマットが変更されたことも選手会側からの要望だったようです。選手側の立場にある団体な上に、影響力もある。


例えばせめてWBCとMLBの開幕を1週間遅らせられるだけでも参加のしやすさは変わってくるはず。
今の段階では大会の形を可能な範囲でマイナーチェンジをしながら歴史を積み重ねていくしかない。巨額の放映権が動くような大会になれば開催時期もシーズン中に移行できる可能性は出てくる。

今大会を通じてWBCの価値が少しでも上がっていることにも期待すると同時に、06年から言われてきた開催時期や主催団体などの「WBCの理想像」を語るだけでなく、現実的にMLBに重い腰を上げてもらうための方策も考えていくべきなように思います。


〇組み合わせについて


以前から課題となっていた組み合わせの「偏り」も今大会は指摘されることが多かったですよね。

多くの人が知っていることだと思いますが改めてこの偏りを整理すると


①ロースターがMLB選手中心となる米大陸の強豪国が移動・参加の負担の大きさなどを理由に米大陸で開催されるラウンドに集中する

②日本の所属するプールが、東京で開催される二次ラウンド(今大会は準々決勝)に日本が進める確率が高そうな「配慮」がされている

の二つになるでしょうか。①に関しては例えばアジアのラウンドに出場している比較的MLB選手も多いオランダ代表の前回大会や今大会のメンバーとかを見ていても、中南米勢のWBCへの熱量の高さを見ていても、ドミニカ、ベネズエラ、プエルトリコのどれかがアジアのラウンドスタートに回ってもそんなに参加する選手のグレードに変化はないのでは?という印象を持っています。

WBCは今大会、MLBと大会を共催するMLB選手会の要望で1試合減となるよう準々決勝導入となったわけですが、そういった我々の知らぬところの事情で反対される可能性はありそうですけどね。
ただアジアのラウンドに回されるチームも今大会で言うところのD組のような組の中で戦うより勝ち上がりやすいと考えるだろうし、メリットもないわけではない。


②に関しては「興行」として考えても一考の余地があります。
今大会でのドミニカ共和国が1次ラウンドで敗退したり、アメリカでさえメキシコに敗れてコロンビアに辛勝だったりとギリギリの準々決勝進出でした。WBCは日本以外の強豪国にとっては「1次ラウンドを突破できるかどうか」で既にハラハラ感を味わっている。日本が勝ち進める確率が高いようにするのも興行的な配慮なのですが、その配慮が楽しみを奪っている部分もある。日本が準々決勝に進めなかったときに生まれる損失や、1次ラウンドからより緊張感の強い戦いが生まれるメリット。両者を天秤にかけて現在は前者が優先されている。

ただ、二次ラウンドが準々決勝の一発勝負なったことで日本が1次ラウンドの次に東京で戦う試合が最大でも1試合になったことや、日本が予想以上に今回の1次ラウンドで危なげない戦いを見せたこと。
さらには東京で行われた準々決勝のもう一方のカードであるキューバ対オーストラリアが3万人以上の動員を記録するなど日本が絡まない試合でも動員が多かったりと、天秤にかけた結果後者を選んでもいいような状況も揃いつつある。
①の話も絡んできますが、中南米の強豪国が東京にやってくれば日本が絡まない試合でも大きく注目は集められるでしょう。

現実味がある範囲で言うならば、
・ドミニカ、ベネズエラ、プエルトリコのうち1か国をアジアのラウンドに回す
・日本ともう一方のアジアの1次ラウンド開催地(台湾or韓国)との偏りを減らす

の二つが実行されるだけでも随分変わってくる。
日本の「安パイ枠」として一緒の組にされがちだった中国も次回大会からはついに予選に回ってしまいますし、勝ち上がってくる可能性も高くない。「抽選会」が行われるのはもっと先の話になりそうですが、次の大会で少しでも前進が見られることに期待したい。



〇侍ジャパンの4年間のサイクルについて

14年ぶりに侍ジャパンはWBCを制覇したわけですが、14年前と今回の違いは侍ジャパンが常設されていることです。

今年の秋には2回目となるアジアプロ野球チャンピオンシップ(APBC)、来年秋には3回目となるプレミア12が開催されることになっており、監督は定まっていないものの次なる戦いは決まっています。
WBCがここまで大きく扱われてしまった以上、他の国際大会とのギャップも印象として大きくなってしまいそうです。

特に同じ世界大会でありながら、MLBロースター内の選手が出場しないプレミア12に関しては存在意義が問われがちです。


ただプレミア12も含めて、代表が常設化されたことが今回のWBC制覇に繋がっている部分があるのは間違いないです。あまりに当たり前に準々決勝まで打って勝ってしまったから忘れられがちですが。
冒頭の項目でも書いた通り、10年前は「初見のマイナーリーガー」を打つのすら簡単ではありませんでした。マイナーでもMLBでも球団数も多くて次々と登場してくる新しい投手に対応することが日常になっている米大陸の選手たちと、同じ投手と何度も対戦することが多い日本のプロ野球の選手とはこの部分の差が大きかった。


モーションの短い外国人投手相手にレッグキックの大きい山川穂高がファーストスイングでレフトに強い犠牲フライが打てたのも、プレミアや五輪に出ていない岡本和真が活躍したのも18年の日米野球での苦戦があったからだろうし、近藤健介も19年のプレミア12や21年の東京五輪では期待されたようなバッティングは出来ていない。吉田正尚もプレミア12では全然活躍できず、決勝戦では先発から外されている。常設された代表での経験の延長上に、「史上最強」と言われた侍ジャパン打線があったように思います。WBCを制覇したからと言って、MLB選手が出ていない今後の国際試合を軽視してはいけない。


一方で、ではプレミアはWBCと同じくらいの意気込みで戦うべき大会なのか?と聞かれると答えに窮します。強化の場として考えても野手と違って投手はうまみが少ないし。

MLBが主催するWBCに依存するだけでなく、WBSCが主催し世界ナンバー2のプロリーグがけん引する世界大会を育てることは世界の野球界にとっても、侍ジャパンと言うコンテンツを発展させる上での重要なことであるし、小久保監督や稲葉監督はプレミア12での経験をWBCや東京五輪でのチーム作りに生かして結果を残している。東京五輪でもWBCでも全勝優勝を飾った侍ジャパンが、最後に公式戦で土をつけられたのも3Aやプロスペクトを中心に構成された2019プレミア12のアメリカ代表戦でした。再三言っていますが、強化の場としては欠かせない大会です。


ただ曖昧な答えになってしまいますが、プレミア12はジャパンのコンテンツとしても強化の場としても「上手く利用していく」大会であるように思います。その時その時の都合に合わせて使っていけばいい。
WBCと同じ価値を持つ大会ではないけれど、WBCで勝つことをゴールにするならば必要な大会。
若い選手も混ぜながら、出場する選手を選ぶうえで選手の負担も考えながら、試合をすれば公式の世界大会として当然勝ちに行く。そんな位置づけがちょうどいいような気がします。
報じる側としてもWBCと同格の大会のようにしてしまうより、WBCをゴールにした強化の過程の一つにしてしまった方がファンもついてきやすいように思う。
WBCと同じような大会なのではなく、WBCに繋がる大会なのだと伝えた方が大会の存在意義を感じるファンは増えるのではないでしょうか。


一方、WBC開催年の秋に若い選手中心で戦うアジアプロ野球チャンピオンシップ(17年に続いて、今年秋に第2回大会が開催予定)はWBSCやアジア野球連盟主催の大会ではない。NPBを中心としたアジアのプロリーグの共催という形を取っているので、ある意味自分たちで都合よく大会の形をカスタマイズしやすい大会でもある。

例えば、大会球をWBCのボールにしたり、球数制限を加えてあえてWBCに近い戦いにすることも出来る。今年の大会ではオセアニア野球連盟に所属するオーストラリアが参加国に加わりますが、出場資格をWBCと同じようなものにして、欧州野球連盟に所属するイスラエルを加えるようなことだって出来るし、昨年あたりからフィリピン系選手のリクルートに力を入れ始めたアジア野球の古豪フィリピン代表が「化ける」可能性もある。

アジア勢は自国のプロリーグに主要な選手の多くが属しているので、MLB組がいなくてもプレミアと違って参加している選手のグレードに差が生まれにくいし、世界大会であるWBCとの差別化もしやすい。

そして、この大会が持っている密かなポテンシャルはMLBロースター内の選手に参加の可能性があることです。プレミア12やかつて行われていた世界選手権であるワールドカップなどWBSC(旧IBAF)が主催する国際大会及びオリンピックではMLBのアクティブロースター内の選手は出場できない。国際球界の主導権を握り続けるために、MLBは完全にルールとしてそこに一本線を引いている形です。

一方でアジア競技大会や中南米各地で行われているウインターリーグなどでは、「所属球団の許可が出れば出場可能」という融通を見せてくれています。MLB主催イベントではありますが、日米野球もそれに近い。16年11月に行われた侍ジャパンの強化試合シリーズでも、メキシコやオランダ代表はMLBのロースター内の選手が出場していました。
アジアプロ野球チャンピオンシップも、WBSCや傘下の大陸連盟主催のイベントではないし、米大陸の強豪国ように多くのメジャーリーガーに影響が出る大会でもない。怪我した場合の保険料の問題をクリアしたうえで(今大会の宮崎キャンプや序盤の強化試合ではMLB選手が参加した場合の保険料の負担額はNPBで確保できていた模様)、NPB(+KBO、CPBL等)がMLBと上手く交渉できれば「所属球団からの許可が得られれば出場可」を引き出せる可能性は十分にあります。

WBCは「健康上問題のない選手が、出場を望めば球団が強制力を持って阻止できない」大会なので、そことの違いはありますが、WBCのように2週間から3週間戦う大会でもないし、3月開催と比べれば11月の大会はシーズンへの影響を与えにくい。日米野球に出場する日本人選手のように、APBCに日本人のMLBプレーヤーが出場する可能性は十分に出てくる。
発展させる上での自由度を考えても、WBCとWBCの間にある国際大会ではAPBCが最も将来性があるように思います。現在は年齢制限もあって若い選手が出場する大会でありますが、韓国が日本との定期戦を望んでいるという報道もあり、この大会を代表トップチームの大会に引き上げることもあるかもしれない。

タイトルには4年間のサイクル、と書きましたが次回のWBC開催は3年後。
元々のWBCの開催年サイクルに戻ることを考えると、その次のWBCも3年後の29年になる可能性が高い。ここにもしかしたら28年のロス五輪で野球競技が採用されたりする可能性もあります。そうなると、予選なども代表活動に絡んでくる。
コロナがなければ基本的にWBCとWBCの間の4年間はAPBC→日米野球→プレミア12のサイクルで回していく流れを作っていました。この流れに戻るのはいつのことになるのか分かりませんが、WBCが盛り上がった今、WBCとWBCの間の侍ジャパンの4年間(3年間)をどうするか。この点もWBCの在り方と同じくらい野球界にとって議論が必要なことだと思います。




〇その他の参加国短評

・台湾代表

反発係数の見直しや、国内組の投手が充実してきたこともあり打高投低だったCPBLの投打のバランスは大きく様変わり。それに伴い今回の代表チームも投手と守備を中心としたチームに変わっていたはずなのですが、WBC球が比較的飛ぶボールだったこともあり数年前の台湾プロ野球のような打ち合いを見ることが多かったのは皮肉だった。初戦・パナマ戦のショッキングな敗戦から立ち直って難敵であるイタリア・オランダから2勝を記録したのは流石ですが、失点の多さが響いて2勝2敗ながらプール最下位で次回大会は予選スタートに。2012年の予選と違って、今のフォーマットでは予選敗退の心配を過度にする必要はないと思われる。予選スタートから8強進出を果たした第3回大会の流れを再現したい。
若くていい投手は出てきているので、まずはAPBCが楽しみ。


・オランダ代表

2大会連続の4強で世界的な評価が上がって来た一方で、6年前から野手の世代交代が進まず、投手のコマ不足も加速した中で迎えた今大会。投手陣が予想以上に粘りキューバ、パナマに2連勝スタートするも、最後の2試合で不安材料が一気に吹き出る形に。オランダ代表といえばキュラソー・アルバ組で構成されるMLB打線というイメージが強いのですが、結果が出ているときはオランダ本国組出身の投手や、オランダの国内リーグでプレーしている投手が充実しているときなので、やはりまずそこから立て直しを図りたい。


・パナマ代表


繋ぎがメインのスモールボール型の打線と投手力がメインのチームですが、初戦の地元台湾戦では2度のビッグイニングを形成し大勝。とはいえ、ビッグイニングも本塁打はなく打線が繋がった結果であったし、好守も飛び出すなど「らしさ」が詰まっていた快勝だった。
パナマは過去に参加していた06年と09年の本大会では未勝利。どれだけ野球が盛んだろうと、自分の国が勝たないと盛り上がらないのがWBC。17年越しの大会初勝利に加えてイタリアからも2勝目を記録したパナマが3年後さらに熱量を上げてWBCに戻ってくるのが楽しみ。


・イタリア代表

「伏兵」とか「ダークホース」と日本と対戦する前は評価する声も多かったのですが、主力がほぼ3AかMLBの選手なので戦力的には東京五輪銀メダル時のアメリカ代表以上。
混戦のプールAを抜け出したのも妥当な結果と言えるし、そこにあっさり勝ったあの試合の日本はもっと褒められてもいい。同じく8強に進んだ13年と比べるとイタリアの国内リーグ組はずいぶん減らした編成になってしまっていたが、イタリア育ちの3投手はいずれもMLB傘下でプレーする実力者。マエストリ(元オリックス)のようなイタリア系選手に負けない選手も出てくるはずだ。


・キューバ代表

大会後の事も含めて、フィールド内外で色んな話題があるものの、結果としては17年ぶりの準決勝進出を果たした。
代表の主力選手をNPBに派遣する形で国内に留める手段が定着してきたことに加えて、ついに最終手段である亡命者の解禁にまで踏み切った。
それでも「キューバ出身者オールスター」に行き着くには政治的なものも含めて色んな壁があることも思い知らされた大会でもあったのだけど、3年後には今よりは強くなってそうなのも間違いない。
ノウハウがなかった亡命MLB選手のリクルーティングがやはりカギを握ってきそう。

・韓国代表

東京五輪に続く惨敗。日本戦の大敗もショックだったでしょうけど、油断せず準備して臨んだ初戦のオーストラリア戦の敗戦はダメージがデカすぎる。

これだけ国際大会で失敗が続いているので説得力に欠けるでしょうけど2010年代後半と比べれば若い先発投手がかなり出てくるようになってきました。人材的には「底」の時期を脱しています。一時期のヤンヒョンジョンとキムグァンヒョン頼みからはようやく脱却しつつあった。だからこそWBCのこの結果がショックだとも言えますが。


この結果なら感情的になるのも仕方ない部分もあるだろうけど、韓国メディアの卑下はちょっと行き過ぎてる感もある。「韓国野球の凋落」みたいなタイトルが並ぶ日本のネットニュースも同様。

「凋落」はとっくの前にしていて、少し人材的に上向きになってきたタイミングでこの結果になってしまった。というのが個人的な印象でしょうか。国際大会の結果よりは、私は不祥事の多さの方を心配してたりする。

このWBCを受けて日本のように代表の常設を視野に入れているという報道も出るなど、侍ジャパンにも影響がある動きも出てきそう。韓国野球がいい方向に向かって行くことを願っています。


・オーストラリア代表

大柄なMLB傘下経験者が並ぶ割に爆発力のない打線と、多彩な継投でロースコアに持ち込むのが得意パターン、という印象が強かった近年のオーストラリア代表。過去のチームと比べても戦力的に充実していたわけではなかったが、初戦にして大一番だった韓国戦では2本の3ランを含む3本塁打とまさかの大爆発で空中戦を制し逆転勝ち。飛ぶとされるWBC球を味方につけた勝利だった。中国に大勝し、チェコ戦も取りこぼさず。序列が上の投手を使えなかった日本戦は完敗だったが、準々決勝のキューバ戦でも食い下がった。現役MLB組がいない中で、初の8強進出に加えてベスト4の可能性まであった戦いぶりだった。


・チェコ代表

本大会残留を争う中国戦でどうにか1勝を挙げ、他の国相手にはどれだけ食い下がれるか。が目標といった中で、中国戦では9回にムジークの逆転3ランで劇的なWBC初勝利。日本戦でも佐々木朗希から先制点を奪うなど目標通りの戦いを見せていた。

ただ、今後のベンチマークにしたいのはオーストラリア戦。野球のスタイルも、国内の野球の位置づけも環境も似通っていながら、全ての面でオーストラリアが少し先を行っている印象。
終盤まで接戦ながら最後に突き放されたが、チェコ野球の近未来とも言える存在との戦いから得られるものも多かったはずだ。


・中国代表

09年は辞退者も多かった台湾から金星、13年は日本戦やキューバ戦でいい投手を使ってしまっていたブラジルの隙をついて1勝。17年はついに全敗に終わるも、参加国拡大に救われ本大会残留。と謎の「残留力」を発揮してきた中国代表ですが、今大会も全敗に終わり今度の今度こそ次回は予選からのスタートになりそう。唯一勝ち目のある相手だったチェコ戦では最後の最後にひっくり返されてしまった。

一方で17年からの進歩した部分も。17年WBCは3試合で1得点に終わり、「ストレートに100パーセントに張ってマン振り」しか出来ない、かなり一本調子な打線でした。ちょっと曲げたり落としたりすれば抑えられる、というレベル。ただ、18年から19年に米独立リーグで修業した選手が多いのもあってか、トップレベルの投手に対する対応力やアプローチは変わっていました。
特に日本戦の7回2死1、2塁のチャンスで大砲タイプの曹傑(江蘇)が戸郷のストレートとフォーク両方についていって粘っていた場面は6年前を考えると信じられないくらいの光景。戸郷がアメリカとの決勝で好投する姿を見た時もこれを思い出していました。トラウトより上やんとか思っていた。
それはさておき、実戦の機会の少ない中国野球は、強化の場をどうやって確保していくかが大事なんだなー、ということを改めて感じた場面でもありました。曹傑も独立経験組ですからね。


日本に先発した王翔は制球が定まりませんでした。WBC日本代表を抑えるには全然力不足でしたが、左で139キロまで計測した球威や、シュート系のボールで左打者の内角を突いていく投球。
彼は19歳でしたが、例えばU18アジア選手権の日本代表だったら荒れ気味の投球で抑えていくイメージは出来る。MLBDCも出来てからアンダー世代の代表でも守備はしっかりしてきたし、WBC日本代表と互角にやりあうのはまだ遠い未来になりそうですが、U18の国際大会で日本を苦しめることは近い将来でも起こりそうな気がします。

ついに中国は予選に回ってしまうわけですが、予選に出ている欧州勢や中南米勢は本大会に5大会連続で出場した中国から見ても戦力的に同格や格上だらけ。厳しい戦いが予想されますが、レベルが近い相手とやり合うことは本大会に出場するよりも得られるものも多いかもしれない。


・ドミニカ代表

前回大会と同様「ロースター上は参加国中最強」と言われながらも敗退。
厳しいグループの中で戦って今回は勝てなかっただけ、と言われればそれまでだけど。
1番から9番まで「全員ドミニカ人」という打線はネームバリューの豪華さと対照的に結構淡白になってしまう印象は今大会も否めなかった。各々が個の力で状況を打開しようと力んでしまって打線として機能しない感じ。
前年サイヤング賞投手アルカンタラとクエトの先発の柱二枚が大事なベネズエラ、プエルトリコとの直接対決で打ち込まれたのも痛かった。


・ベネズエラ代表

アメリカ、ドミニカに次ぐメジャーリーガー輩出国。抱えているタレント的には一回くらい決勝に進んでいてもおかしくないのに、突っ込みどころのある采配やボーンヘッド、拙守などが絡んだりとちぐはぐな戦いになるケースが多かった。それだけに「死の組」を全勝通過した今回は最もチームとして機能していた大会と言える。その中でリリーフは不安材料の一つだったのですが、一発勝負となった準々決勝でターナーに逆転グラスラを8回に浴びて万事休す。

・プエルトリコ代表

もはや定着してきた「WBC巧者」ぶりを発揮して今大会も死の組を突破。
前回大会に続いてドミニカ代表に勝利しており、充実した戦力を上手く機能させられない同国とはWBCにおいて対照的な存在と言える。
投手層がドミニカやベネズエラほど厚くない中で、決してバリバリのメジャーリーガーと言えない投手を細かい継投で繋いでいって最後はエドウィン・ディアスで締める。直接戦ったドミニカ戦はまさしく巧者ぶりの真骨頂と言える試合だった。


・イスラエル代表

ドミニカ、ベネズエラ、プエルトリコの三つ巴に注目が集まる中で、このグループのキーになる存在だと思われていた伏兵。ここで取りこぼしたり苦戦するチームが出てくると思っていたのですが、初戦のニカラグア戦をどうにか逆転で勝ったあとはプエルトリコに継投ノーノーで8回コールド負け。続くドミニカ戦もわずか1安打&コールド負けと投打に完敗。最後のベネズエラにも危なげなく勝ち切られており、対戦相手が強いことを差し引いてもパフォーマンスは前回と比べて低調だった。


・ニカラグア代表

次回大会の予選免除がかかったイスラエルとの直接対決では、国内組の投手を継投で繋いでいって1-0でリードを守るも、このチームの顔とも言えるロアイシガ(ヤンキース)が8回に3失点と捕まってまさかの形の逆転負け。投手はまずまずのレベルの投手が揃っているので、中南米3強との戦いにおいても大敗はしなかったものの、「同タイプの野球の上位互換」とも言えるチームとの戦いなので、なかなかアップセットを起こすのは難しかったか。再び次回は予選からのスタートとなる。


・コロンビア代表

年々MLB選手が増加中。前回大会はカナダに勝利、ドミニカ、アメリカに惜敗と右肩上がりに成長してきた印象ですが今大会は小休止。

準々決勝進出に向けて一番大事な初戦のメキシコ戦で先発が予定されていたエースのキンタナが大会直前に辞退するという激震が走るも、エースのウリアスを立ててきた同国相手に勝利。
ただ2戦目で初出場のイギリスに不覚を取られ、カナダ、アメリカとまさかの3連敗でフィニッシュ。
乱高下の激しい大会となった。エースを投入してきた4強のメキシコに勝利し、後がない準優勝アメリカとも1点差の好勝負をしたにも関わらず、プール最下位で次回大会は予選からのスタートとなる。

・イギリス代表

予選を突破し今大会が初出場となるが、出場資格を満たしたマイナーリーガーや独立リーガーで構成されるため、前回のイスラエルのようにそれなりに戦えるはずという前評判通りの結果に。
3戦目でコロンビアから大会初勝利を掴むと、メキシコとも1点差の好ゲームを演じた。
決して扱いは大きくないが地元メディアでも取り上げられており、今年から復活するMLBロンドンゲームも併せて、イギリスの野球発展に繋がる一年になりそう。もちろん、次回大会の出場権を得たことも大きい。


・カナダ代表

眠れる強豪国は今大会も目覚めず。
多くのメジャーリーガーを輩出しながら、これまでの大会で勝てなかった原因は投手のMLB組の足並みが揃わないことと、状態の悪さにあった。

今大会は前年に15勝を記録しているクアンリトル(ガーディアンズ)が参戦し風向きが変わるかと思われたが、イギリス戦に先発して初回に3失点でノックアウトと酷い有様。

3シーズンプロではプレーしていないスコット・マシソンのストレートは最速で145キロとかになっていて、彼のカナダ代表への思い入れの強さは知っているけどカナダの投手陣の駒の少なさの象徴のような存在になってしまっていました。
それでもコロンビアとイギリスから勝利するのは流石ですが、WBCの発展に向けて重要な国の一つなのでそろそろ目を覚まして欲しい。


・メキシコ代表

ダークホースと毎大会言われてきましたが、今大会ついに本領発揮。
もともと中南米の国でありながら投手に比較的人材が集まる国だったのですが、今大会は野手陣が充実。過去の大会はエイドリアン・ゴンザレスを除けばNPBでプレーしたルイス・クルーズ(元ロッテ)やエフレン・ナバーロ(元阪神)、ラミロ・ペーニャ(元広島)といったような選手がスタメンに名を連ねており、メキシコ系のブランドン・レアード(元ロッテ)をわざわざ日本から招集するくらいだったのですが、今大会は上位から下位までMLBのレギュラークラスが並ぶ。従来からの強みだった投手力の高さも維持しており、投打に充実した陣容は前評判から高かった。すそ野の広さや育成組織の充実、夏冬のプロリーグを抱えているという地盤の強さに加えて、足りないピースはメキシコ系で補える(今大会だと主砲のテレスや正捕手のバーンズがそれにあたる)というアドバンテージもあり、今後も強さは維持されそう。

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