「11か国がWBCタイトルを持つ日本のクビを取りに来る大会」プレミア12を戦う侍ジャパンの楽しみ方
2023年春、WBCが日本国内ではこれ以上ないレベルのフィナーレと盛り上がりを見せた中、ふと頭の中をよぎったことがある。
これだけ侍ジャパンだとかWBCに注目が集まったことを考えると、次に開催されるプレミア12という大会はどういう風に受け止められるのだろう、という点です。
野球界はメジャーリーグという明確に世界の頂点に君臨するリーグがあります。
そのMLBが主催することにより、大谷翔平選手をはじめMLBロースター内の選手が可能な限り出場することによってこのWBCという大会の盛り上がりが生まれていることは明白なことです。
だからこそ、彼らが出場しない中で「世界一」を決めようとする世界大会をどういうモチベーションで見たらいいか分からない。という野球ファンがいることも理解できることである。
WBCは、もはや私のような国際野球オタクやMLBファンがいちいち面白さを発信する必要のない大会になりつつあります。WBCと同様にプレミア12という大会を楽しみにしている私が、より多くの人にプレミア12という大会特有の面白さや楽しみ方を伝えられるよう以下に整理してみました。
○WBCより各国リーグの色が見えやすい大会
「明確に頂点に君臨する世界最高峰のリーグ」が不参加になることによって、この大会では逆に浮き彫りになる部分があります。
それは各国の国内リーグの色が見えやすいという点。
WBCで優勝を狙える位置にいる国は、NPB選手を中心に編成される日本だけが特異な存在であり、他の米大陸の強豪国はMLBかそれに近い位置でプレーしている選手で構成されます。
言ってしまえば、MLB選手を国別に振り分けて戦っているのがWBCにおける上位の戦い。各国のリーグの色というのは見えにくい。
一方で、プレミア12はNPB、KBO、CPBL、メキシカンリーグ、3A、キューバリーグといった国内リーグの選手で主に構成される各国が、最高峰であるMLBが排除されて世界の色んなリーグが横並びになった中で頂点を目指す大会です。
ある程度国際野球が分かる方ならば今挙げた各リーグもなんとなく頭の中に序列があるのかもしれないですが、大会を通じてリーグレベルの比較をする材料も出てくるし、結果がリーグのレベル通りになるとも限らない。メジャーリーガーが出ていないと思うよりは、世界各国の国内リーグ選抜が戦っている大会と思った方がいいしれない。その中で一番を決める大会だと。
かつてのオリンピック等はプロ選手が参加できない国際大会でしたが、プレミア12はMLB所属選手が参加できない大会。各国の条件が揃えられている中で頂点を目指すという意味では共通している。
(9月追記:「MLB40人ロースター内の選手が招集可能になるかもしれない」という情報が出回ったことがあったのですが〈後にその情報の発信元が否定〉、個人的にはMLBロースター外の条件下で戦うことがこの大会のオリジナリティであり面白さであると思っていたので中途半端にMLBが出られるようになってもな・・と正直思いました。「メジャーリーガーいない縛り」という中で戦って世界一を決めることも、MLBという明確な頂点がいる野球界の場合は意味があると感じています。)
世界ナンバー2のリーグはNPBだろ?と思う人は多いと思うし、客観的に考えてもそうだとも思うのですが、それはWBCにおけるMLBの立場と同じとも言える。そして過去のオリンピックの苦戦を見ても、決してそうとは言えない結果になったことも多かった。私個人の場合、アテネや北京における日本の苦戦をリアルタイムで見ているので、メジャーリーガーのいない世界大会で勝つことのしんどさを見ているのもこの大会が好きな一因なのかもしれない。
ただ、NPBのブランド力が現在最高潮に達しているのも事実。
そしてその点が今回のプレミアの特徴とも言えます。そこそこ高い値札をつけられMLBに移籍した日本人選手の多くが期待通りの数字を残していることに加えて、直近のWBCタイトルを持っている。
他の11か国からすれば、WBC王者日本を倒すことはWBCで優勝することとニアリーイコールになってくる。
例えるなら、国際大会にアマチュアしか出場していなかった頃のキューバ代表に対するような位置づけです。
「11か国がWBCタイトルを持つ日本のクビを取りに来る」中でそれを振り切り、NPBは世界ナンバー2リーグにふさわしい結果を残せるのか。明白なナンバーワンが取り除かれた中で、世界の野球界から見ても「ナンバー2」と思われている日本のプライドを守るための戦いとも言いましょうか。プレミアや過去のオリンピックはこういった見方を一つの軸に私は楽しんでいました。
侍ジャパンは別にして、国際野球オタクとして楽しむのなら各リーグのレベルや特色を知る機会として楽しんでいました。
例えば、3Aの野球ってみんなNPBにやってくる助っ人外国人を通じてなんだか知ってるような気分になってしまいがちですが、あれは一部分に過ぎない。
NPBにはやってこない3Aの中では平均的なレベルの選手も当然いるし、日本には来ないようなタイプや年齢層の選手もいる。それもひっくるめての3Aなんですよね。だいたい、3Aの試合をまるまる見たことある人って日本にどれだけおんねん、という話でもある。リーグの平均球速がNPBより速いなんてのも最近知ったし(計測機器の差異はあれど)。本当の意味でリーグ全体のレベル感や特色を掴むのって結構難しい。日本人にとってMLB以外の海外リーグの印象は、NPBにやってくる助っ人外国人のイメージに引っ張られてしまいやすいですからね。
話はそれましたが、色んなMLB以外の海外リーグを比較しながら一括で知ることの出来るお得な大会でもあります。MLB=「世界の野球のすべて」ではない、という感覚がどこかにある人なら、日本戦以外もいろいろ知れて楽しめる大会だと思います。
○WBC中間年の強化の場としてのプレミア12
阿部、プエルトリコ投手陣は「今までと格が違った」=WBCプエルトリコ戦試合後コメント - スポーツナビ (yahoo.co.jp)
これは侍ジャパンが代表常設化される前の最後のWBCである2013年大会の準決勝直後の阿部慎之助の試合後のコメントです。
この試合のプエルトリコの継投が、バリバリのMLB選手による豪華継投だったならば素直に受け止められるコメントなのですが、先発のマリオ・サンティアゴや2番手のデラトーレらは3Aを主戦場として投げている投手。
潔く日本打線を封じた相手投手を称えるニュアンスが含まれていることは加味したとしても、オランダ戦以外はなかなか打線が振るわなかったこの大会の日本打線を象徴するような言葉でした。思えば、同大会で日本を苦しめた台湾の王建民も、あの時点では球速が全盛期より10キロ落ちて3A暮らしの投手だったわけだし、ブラジルの投手にもだいぶ苦戦していた。
この準決勝の試合で示唆されていることはたくさんある。
先発サンティアゴが昔から日本が苦手にしていた「ボールを動かすタイプ」の投手だったことをなんとなく覚えている人は多いと思いますが、このピッチャーが後に阪神でプレーしていることを知っている人はたぶん多くない。
国際大会で日本が相手投手に苦戦した時は、「動くボール」を打てなかったと、大雑把にまとめられることが多かった。動くボールと言ってもシュート系、カット系、シンカー系など色んな分類があるし、ナチュラルなのかインテンショナルかの違いもある。「動くボール」の指すものは幅広く、大半の海外投手に当てはまるものでもある。
ただ単純に「動くボール」を日本人打者が打てないのだったらNPBにやってくる助っ人投手はこの手のタイプばかりになるはず。そして、このサンティアゴも阪神で活躍したはずです。
現実には、サンティアゴは日本やそれ以前に在籍した韓国でも活躍できていないし、NPBで活躍する投手も「ボールを動かす」タイプばかりではない。
おそらく、日本の打者は6球団の間で同じ投手と何度も対戦するNPBの仕組み上、初対戦の投手に弱い。そして、モーションの大きさやステップ幅の違いから間合いやアングルも日本人投手と違ってくるし、球質にクセのある(=動くボール)投手もいる。こういった要素も「初対戦」に上乗せされて苦戦するケースが多かった。それを一口に「動くボールが打てなかった」と片付けられてきたように思う。
一方でMLBでプレーしている野手は、そもそも「初対戦」が日常の世界ですよね。
球団数も多い上に、選手の流動性も高い。メジャーに昇格する以前は、さらに流動性があって相手の情報量も少ないマイナーリーグで初対戦を重ねて結果を残している選手たちでもあります。
東京五輪でも、おそらく米大陸のチームが打ちにくいのではないかと期待されて選出されていた青柳晃洋、コ・ヨンピョ(韓国)という二人のタイプの違うアジアのサイドアームをきっちりアメリカ代表のマイナーリーガーたちが打ち込んでいたのが印象的でした。そして、そのコ・ヨンピョに準決勝で日本打線はきっちり抑えられてしまうという。
この初対戦の外国人投手への対応力の差を埋める場として、プレミア12のようなWBCの中間年に行われるいろんな国と対戦できる国際大会は貴重なように思う。
個人を例に出すと、WBCで主力打者として活躍した吉田正尚や近藤健介は好例です。
2019プレミア12の二人の個人成績は
吉田正尚 打率.200(20-4) OPS.438
近藤健介 打率.190(21-4) OPS.700
プロ入り後初の国際大会だった吉田は長打がゼロで決勝戦ではスタメンから外されている。
近藤は四球9つ取っているのでOPS自体は悪くない数字。
1年半後の東京五輪では吉田は決勝戦でタイムリーを放つなど金メダルに貢献。
近藤はほとんどベンチスタートでした。
そして、2023WBCでの二人の活躍はご存じの通り。
もちろんWBCでの活躍全てが、プレミア12や五輪での経験があったからと結びつけるつもりはない。
五輪を除けば国際大会はオフシーズンに行われるので、単純な個人の状態の違いもあるでのしょう。
それでも、WBC準々決勝イタリア戦では3A以上の階級でプレー経験を持つ7投手の総力戦の細かい継投をあっさり跳ね返し、準決勝メキシコ戦でも3A格の投手が継投に交じってきた途端に初対戦とか関係なくチャンスとばかりに打ち込んでいました。10年前のプエルトリコ戦や、かつてオリンピックでちょっと苦手なタイプのマイナー投手が出てくるとあっさりやられていた過去を考えると隔世の感がある。
このギャップを感じていると、プレミア12のような国際大会をWBCとWBCの間に経験しておく効果は大きいのではないかと思わずにはいられないわけです。
いま日本が獲得している「3Aくらいの投手なら初見だろうが対応できる」という状況を手放したくないのなら、この大会を軽視することはできない。
史上最強と言われた2023WBCの日本打線は、単純にラインナップに名を連ねる選手のネームバリューだけでなく、「代表常設」の上に成り立っていたように思う。
○世界の野球との距離感をこまめに掴む
2023年WBCの日本の空気感はちょっと怖かった。
1次ラウンド、準々決勝突破はノルマで、メジャーリーガーを多く抱える国と当たる準決勝以降が本当の勝負、みたいな空気。そして、実際に今回もそうなってしまった。しまったと言うのはおかしいか。
組み合わせ的に、オーストラリアと韓国両方に敗れて1次ラウンド敗退、というのは確かに確率が低かったように思う。でも準々決勝のイタリア戦はほぼ試合前は五分五分くらいの戦いになると捉えていました。イタリアの力量的に東京五輪のアメリカくらいのものは揃えていると思っていたので。
準々決勝までは当たり前のように全勝で危なげなく勝ち切って、準決勝と決勝では強豪国相手に劇的な試合を制して優勝。この高揚感と期待感のまま、次のWBCに向かうのちょっと怖い気がする。MLB組を多く擁する国をどうやって倒すか、という部分ばかりに意識が向いてしまっている感じ。
WBCって、日本が準決勝より手前で敗退するシナリオを具体的にイメージしている人って結構少数派なのではないかと思う。
ワールドカップとワールドカップの間に国際試合の公式戦がたくさん用意されているサッカーの日本代表と比べたら分かりやすいかもしれない。
世界のサッカーのトップレベルとの差が縮まり、今度こそアジアで苦戦することはそうそうないんじゃない?と思えてきたタイミングでアジアで痛い目に合う、のお馴染みのサイクル。これはそもそも、野球と違ってそういう場がたくさん用意されていることが大きい。もしアジアカップやワールドカップ予選がなければ、ドイツやスペインを倒した高揚感と期待感のまま次のワールドカップに向かうことになる。
WBCの韓国戦の大勝。この印象で韓国野球の現状のイメージは日本で上塗りされてしまってますが、そのさらに1年半前の東京五輪準決勝では8回2死までどっちが勝つか分からないような試合でした。
野球はプロの国際大会のサンプル数が少ないので、何年も前の国際試合の1試合の結果やNPBにやってきた助っ人の活躍度と出身リーグでイメージが形成されてしまいやすく、それが時に日本のクビを締めることがあるように思います。
2006年のWBCはまさにそんな印象でした。当時は韓国とトッププロ同士の対戦歴が03年のアテネ五輪予選の一度しかなく、韓国は格下として勝たなければならない相手という空気感が強かった。実際に韓国が強かったというのは前提として、あの空気感がかなり重荷になっていましたよね。
色んな国と戦って適度に苦戦して、反省点も炙り出しておいた方がいい。そういう意味でプレミア以上の場所はない。
前回のプレミア12でも結果は優勝しましたが、アメリカ戦では敗れているし(東京五輪、WBC、APBCと全勝優勝なので、現状最後の侍ジャパンの敗戦)、ビハインドを背負った重い試合もいくつかありました。WBC以上に勝って当たり前という空気感の中で戦い、「サンプル数」を確保する場としてもこの大会を活用していきたい。
○日本の場合、過去のWBCよりも大変な1次ラウンド
プレミア12は今回で3大会目になるのですが、3大会ともフォーマットが違います。
2015年の第1回大会は、6チーム×2組による総当たりの1次ラウンド→各組4チームが突破し準々決勝から一発勝負のトーナメント。
東京五輪の予選としても開催された2019年の第2回大会は、4チーム×3組の1次ラウンド→各組上位2チーム(全6チーム)がスーパーラウンド進出→上位2チームが決勝戦
という形式でした。
対して今大会は6チーム×2組→各上位2チーム(計4チーム)がスーパーラウンド進出→上位2チームで決勝戦。
元々上位12チームに絞られている大会な上に、次のラウンドに進むまでの道が細めに設定されている。
簡単に言えば、気の抜ける試合は存在しない。
従って、過去のWBCにおける日本が所属するグループの感覚のまま今回のプレミア1次ラウンドに入っていくと結構怖い。
ここ2大会WBCで同組だったオーストラリア代表戦(プレミアでは初戦にバンテリンドームで対戦)の位置づけの違いを考えたら分かりやすい。
2017WBC(日本、キューバ、オーストラリア、中国)、2023WBC(日本、韓国、オーストラリア、チェコ、中国)におけるオーストラリア戦は、日本目線から見ればライバルとしては2番手格なので、1番手格(キューバ、韓国)に敗れてもオーストラリアに負けなければ2チームが進める1次ラウンド突破圏内に入れる。
”オーストラリアにさえ負けなければ次に進める”
というイメージなのに対して、今回のプレミアにおける日本の属するグループBにおいてのオーストラリアは6番手の位置づけなので、上位2チームがスーパーラウンド進出というシステムを考えると正直ここで星を落としている場合ではない。
ただ、"6番手”という評価はあえて序列をつけるのならそうなるという話なだけであって、難しい試合になる可能性が高い。
11月の国際大会の序盤戦は、ポストシーズンを戦っていない選手らは一か月以上公式戦から遠ざかっているために難しい試合になりやすい。それに加えて、国際試合1試合目特有の重苦しい空気感もある。
2019年プレミア12初戦のベネズエラ戦(2点ビハインドから8回裏に四死球絡みから一挙逆転)や2021年東京五輪初戦のドミニカ戦(9回裏に逆転サヨナラ勝ち)のようなイメージの試合が頭に浮かぶ。
WBCのように初戦に実力差の大きい中国戦から入っていけるというアドバンテージはない。
オーストラリアという相手そのものも難しい。
特に前回大会(2019)のオーストラリアは五輪ともWBCともルールが違うことを生かした戦術がハマっていました。
オリンピック(24人)より4人登録ロースターの人数が多いことに加えて、WBCのように球数・連投制限がない。ブルペンデー的な運用を多くの試合で行っており、日本戦もまんまとハメられて苦しい試合(先行を許すも7回に周東の2盗塁と源田のセーフティーで同点、8回に押し出しで勝ち越し点)に持ち込まれている。
プレミア12や東京五輪で使用されたWBSCの公式球(SSK)は当時のNPB球より飛ばないボールとされており(by松田宣浩、鈴木誠也)、一方で2023WBC公式球は当時のMLB球やNPB球よりも飛んでいたと打者は証言している(by吉田正尚、山田哲人)。
今回のプレミアで使われるWBSC球がどのような性質のものなのかは分かりませんが、19年大会と同様のボールが使われたうえで、オーストラリアは伝統的に左投手やサイドの人材も多い。タイプを散らしながら初見投手たちにブルペンデー的な継投をされたらロースコアの重たい試合展開になることが目に浮かぶ。細かいことはリサーチせずに感覚を優先して戦う中南米勢と違って、アテネで日本を破った時の正捕手だったデーブ・ニルソン(元中日ディンゴ)監督のもと、きっちりスカウティングした上で戦ってくる国だという点も、準備期間のある初戦の相手としては不気味ですよね。23WBCの韓国戦もそうだったし。
これらの点を踏まえると、この試合の直前に同じくバンテリンでチェコ代表と強化試合を行う意味は大きい。タイプ的にはまさしくオーストラリアの下位互換と言ってよく、特に投手は同じようなタッパ、球筋、球速帯の投手も多い。少々質は落ちようが、勝手知ったるNPBの日本人投手と対戦するよりずっといい。チェコ側としては強化試合と言えどもモチベーション高く戦ってくれそうな点もメリットの一つだし、その後の戦いがあるわけではないのでWBCと違って日本戦でも序列が上の投手からどんどん投入もしやすい。チェコもシーズン終了が早いために試合勘の問題がありますが、先に台湾代表とも強化試合を行ってきてくれる点も大きいと思われる。
ここまで初戦のオーストラリア戦の難しさを列挙してきましたが、なんだかんだで接戦になりながらも最後は地力の差が出て勝つんじゃないかとも思う。23WBCで直接対戦した時の大勝は忘れた方がよさそうですが、終盤まで接戦になりながら競り勝った2017WBC(先制を許すも、7回に中田翔の一発で勝ち越し、4-1で日本勝利)や2019プレミア12のような形になるんじゃなかろうか。
初戦の話が長くなってしまいましたが、この先も難しい試合が続いていく。
13日に名古屋でオーストラリア戦を終えた後、台湾に移動して中一日でまず韓国戦となる。
日本の球場以外で日韓のトップチーム同士が対戦するのは2009年のWBC決勝以来であり、台湾での対戦となると2007年秋の北京五輪アジア予選(アジア選手権)以来となります。
この試合もWBCで対戦した時のことは忘れて、東京五輪準決勝や昨年のアジアプロ野球CSで対戦した時のようなイメージを持っておくべきだと思われる。ここも距離感を見誤ってはいけない。
私が韓国戦を「ある意味」恐ろしい、という風に捉えたのは先ほどから触れている東京五輪の準決勝でした。2021年の韓国球界は2010年代から長く先発投手が全く台頭しないという状況が維持されたまま、頼みの綱だったキム・グァンヒョンとヤン・ヒョンジョンが米球界へ移籍。KBOで傑出した代表らしい成績を残している先発投手は全くいない中での選手選考は、高卒ルーキーだったイ・ウィリを選んでいたことからも苦悩の色が伺えます。
そして迎えた準決勝。韓国の投手陣の人材不足を考えると、今回はあっけなく日本が勝つのでは?と考えていました。結果と試合展開は多くの人が知っているでしょう。技巧派サイド、コ・ヨンピョから細かい継投でゲームメイクし、打線も山本由伸から2得点。8回2死から山田哲人のフェン直タイムリーで勝ち越しましたが、あの一打が出る瞬間まではどちらが勝ってもおかしくない重苦しい試合でした。ここまで人材的に差があった2021年でさえ、一発勝負になるとああいう試合になってしまうのかと思った記憶があります。
日韓戦はなんだかキム・グァンヒョンばかり投げているイメージが植え付けられていますが、決してそんなことはない。1点差で日本が競り勝った2007年の北京五輪アジア予選の先発はそのシーズン8勝防御率4点台の技巧派左腕チョン・ビョンホからの継投策だったし、2015プレミア12の準決勝も9回の継投のことばかり永遠に言われてしまいますが、先発のイ・デウン(元千葉ロッテ)から小刻みに繋いで粘って3点に抑えていたことも大きかった。大谷とイデウンが先発で、イデウンが先発した方が勝つ。これが日韓戦の難しさですよね。WBCの大勝で、日韓の間には差があるという論がだいぶ増えてきていますが、実際に差はあります。差はある。でも試合では五分になる。それが日韓戦なのだと思います。
だからこそ、五輪から若い投手も徐々に出てきていた2023WBCでの対戦結果は意外なものになったのですが、心構えとしては東京五輪のような展開になると思っておくべきでしょう。しかも今回は久々にホームではない地での対戦となります。
難しい相手はまだ続く。
3戦目の台湾戦は日本が経験値として少ない所謂アウェー状態での戦い。
新しい台北ドームにWBC王者を迎え入れる、というテンションで戦ってくると思われるので、現地は報道も含めてかなり盛り上がると思われる。できれば1敗した状態でこの試合は迎えたくない。
ただ、今まで国際大会で戦ってきた台湾の野外球場みたいな土のグラウンドで打球が跳ねまくったり、照明が暗くて見辛い、みたいな意味でのアウェー感は少ない。人工芝のドーム球場なので、NPBでプレーする選手には慣れた環境だと思われる。戦う相手はシンプルに相手の戦力+応援(観衆&鳴り物など)ということになりますが、打高が落ち着いた今の台湾はマイナーでプレーする有望な選手も含めれば投手に人材が多いので、古林睿煬(統一)に好投された昨年のアジアプロ野球CSのような展開をイメージしておくべきでしょうか。彼のことに限らず、ここ数年は韓国より投手の人材が揃っているという状況が続いている。
とにかく今回のプレミア12、「楽な試合」がありません。
WLとの兼ね合いからWBC以外の国際大会ではリクルートが下手だったドミニカですら、40人ロースター外の制限下の中で強そうなチームを作りそうな雰囲気です。
事前の予想では今回のプレミアは五輪予選ではないので、WLもあるドミニカがどこまでメンバーを揃えられるかは未知数でした。とはいえ、同じく五輪予選ではなかった2015年大会もミゲル・テハーダ監督のもとまずまずのメンバーが集まっていましたし、同じMLB不参加系の大会である東京五輪でも銅メダルを獲得。MLBロースター外の中でも「まずまず」くらいの面子で韓国に勝ってメダルが取れてしまうんだから、恐ろしい選手層の国であることを実感する。7月にはこの大会に向けてGMが招へいされるなど、初動も悪くなかったのですが、アジアのプロ野球やメキシコでプレーする実績ある選手たちや、DFAされたばかりの大物など、今までのWBC以外の国際大会とは違う様相を見せています。そもそも侍にとって2015年のプレミア、2021年の東京五輪とドミニカ戦は共に最終盤にどうにか勝ち越して振り切ったような相手でもある。
またこの試合から再び場所が変わって野外の天母球場になることも懸念材料の一つと言える。もし1敗で2敗している状況で当たる相手としてはかなりプレッシャーを感じる戦力を携えていそうですよね。
東京五輪の3位決定戦では既に国民からバッシングを受けていて、兵役免除がかかっている選手もいる韓国と、「背負っている感じゼロ」のドミニカとのコントラストがなかなか印象的でした。
日本にとってもプレミア12ってWBC以上に負けることが許されていない空気感の大会でもあると思うので、負けが込んだ状態で戦う相手としては一番やり辛い相手かもしれない。
1次ラウンド最後の相手はキューバ代表。
キューバとは頻繁に国際大会で顔を合わせているような気がしてしまいますが、対戦するのは2017WBC以来実に7年ぶりとなります。7年前の時点では亡命による選手の流出が相次ぎ弱体化が進んでいましたが、当時と比べると変わっている部分が何か所かあります。
主に挙げられるものとしては
①一部の有望な若手選手をNPBやメキシコなどでプレーさせるという形で流出させない
②亡命した選手の国内リーグ復帰
③亡命し海外リーグでプレーしている選手の代表入り(2023WBC)
の三つが挙げられます。①に関しては7年前の時点でもそれに該当する選手はいましたが、よりNPBでも定着してきた感じがします。まさかの1次ラウンド敗退に終わった前回大会(2019)は戦力的にかなり底に落ちてしまっていましたが、①から③によって少し持ち直してきており、2023WBCではベスト4進出を決めている。2023WBCではメジャーリーガー含めた亡命選手の代表入りが話題になりましたが、ヨアン・モンカダとルイス・ロベルト、二人の野手のメジャーリーガーよりも投手陣に加入した多くのAAAクラスの投手たちの存在の方が大きかったように思う。
2023WBC-(モンカダ、ロベルト、ジャリエル)=の戦力で、もしプレミア12を戦えるのなら大会のダークホースにもなり得るのですが、WBCではない大会でどこまで亡命選手をキューバが集められれるかは未知数な部分が多い。ただ、ベテラン国内組だらけのメンバーでも2017年WBCで全盛期菅野をノックアウトするなど打力に底力はありそうですよね。デスパイネもNPBで通年で活躍する力はもうないかもしれないですが、彼らにアリエルマルティネスや②の選手らも加わったおじさん打線は意外と怖さがある。
ビビらせるような書き方でここまで書いてきましたが、どの対戦相手においてもプレミア12の場合日本の方が力は上です。ただ、それなりに負ける可能性のある試合がずっと続いていく大会でもあります。
6割から7割くらいの確率で勝てる相手と1次ラウンドは5回ガチャを回して、最終的に何敗になっているか。1試合単位の話だと単純に日本が強いという話なだけになってしまいそうですが、これを5回繰り返せば手痛い1敗や2敗を許してしまっている可能性は十分にある。そして無事スーパーラウンドに上がれたとしても、さらなる難敵が待ち構えている。
○スーパーラウンドで当たりそうな難敵① メキシコ代表
メキシコ戦と言えば誰もがWBCの準決勝を思い浮かべる人が多いと思いますし、MLB選手も多かったあの時のメキシコ代表と全然違うチームがくることを理解している人も多いでしょう。
ただ、プレミア12の方がある意味メキシコの本領が発揮できる大会なのかもしれない。
中南米勢でありながら、夏季にプロリーグ(メキシカンリーグ)を保持していることが特徴のメキシコですが、今年はさらにチーム数が20球団にまで増えています。
このチーム数で3Aの少し下レベルくらいあるとされているのが地味に凄いことで、ここからロースターの28人を搾り取れば全員が3A超級の強いロースターが作れます。
さらにメキシカンリーグにも、米マイナーにも多くのメキシコ系選手が存在している。2015年大会ではプロリーグと代表の統括組織の不調和によってアメリカでプレーするメキシコ系選手だけで戦ってベスト4にまでなっています。米マイナーにはメキシコ出身のプロスペクトもいるし、とにかく膨大な選手層の中から選手を選べる。メキシコは夏冬に大きなプロリーグがあって色んな野球組織が存在するため足並みを揃えるのが難しかったのですが、揃いさえすれば強い。それが前回アメリカに3位決定戦で勝利し東京五輪出場権を手にした前回大会だったように思います。新しい代表の統括組織が出来て、代表常設の動きも出てきているので、今回もいいリクルートが出来るのではないかと思われる。アメリカ代表がもう1チームある、くらいの解釈でよい。
非MLBの大会で米大陸系の強いチームが増えたという意味では、WBCまで見据えて戦う日本にとっては最高のシミュレーション相手です。スーパーラウンドまで進めばお互いにチーム状態は仕上がっているだろうし、言い訳の余地はない。対戦が実現すれば気づきの多い試合になるのではないでしょうか。
○スーパーラウンドで当たりそうな難敵② アメリカ代表
プレミア12・オリンピックのアメリカ代表(全40人ロースター外)と、WBCのアメリカ代表(全アクティブロースター内)が戦ったら、どれくらいの確率で前者が勝つと思いますか?
私は5試合くらいやれば1回は前者が勝つんじゃないか?と思ったりしています。もっと勝てるかもしれない。これが、国際試合の面白さだと思う。
WBCでアメリカ代表は2017年大会、2023年大会と2大会連続でコロンビア戦に苦戦しましたよね。
コロンビアはメジャーリーガーが増えている国ではありますが、全体的に平均化すれば出てる選手は3Aくらいと言っていい。両方と対戦してる日本を基準としても、2019プレミア12ではアメリカは日本に勝っているし、東京五輪で対戦した2試合とも接戦で敗戦。WBC決勝で対戦したときも接戦負け。
この「メジャーリーガーのいないアメリカ代表」をどう捉えるべきか。
私は東京オリンピックの総括でブログにはこう書いていました。
戦前から言われていたように好チームでした。
日本以外には全勝し、日本には2敗しているので、紛れもなく銀メダルのチームと言っていいでしょう。2000年のシドニー大会以来の決勝の舞台にも立ちました。
層の厚いアメリカが「MLBロースター内の選手は出ない」という条件下で考えうる最高の準備をしてきたチーム。それが今回のアメリカ代表だったと言えると思います。
選手選考、スカウティング、監督コーチの人選、選手のモチベーションと全ジャンルに渡って。
AAAで数字を残している中堅、トッププロスペクト、FA状態の元オールスター選手をバランスよく配分した選手構成に、対戦国の膨大なスカウティングレポート、現在フリーの監督の中で最もMLBでの実績を持っているソーシアの抜擢、周りを固めるコーチも躍進した17WBCのイスラエル代表監督ら多士済々の面々。
決して、日本にとって「勝って当たり前」と言えるような準備をしてきたチームではなかったという点は試合を見ている人には伝わったのではないかと思う。
(中略)
層の厚いアメリカが準備してきた「MLBロースター外で作れる最高のチーム」を振り切って勝ち取った、世界ナンバー2のプロリーグを有する日本の金メダルは、日本の野球にとってだけでなく国際野球にとっても、意義は非常に大きいものだと思う。
マイナー編成のアメリカ代表は「合理性」が特徴です。誰が選んでも選手がそう変わらない層の薄い国と違って、膨大な選手数が対象なので選ぶ側にセンスが問われるのですが、そこで「勝ちに来てる」って感じのソリッドなチームを作ってきます。3Aで成績のいいやつを順番に連れてきた、みたいなことはしない。
今のマイナーリーグ、特に3Aは近年細かいトラッキングデータが開示されるようになっています。
ピッチャーの継投でいえば、WBC決勝で日本がやったことの「逆」をされる可能性がある。
WBCの決勝では、アメリカ代表野手と対戦歴のない、NPBの若手投手たちを一回りする前にどんどん変えてく継投策がハマりました。最近は「周回効果」というセイバーメトリクスのワードを聞く機会も増えてきていますよね。NPBの選手より初対戦慣れしているアメリカ代表の選手相手でさえ効果的だったわけです。
マイナーでのトラッキング系データを元に、日本の打者が慣れてなさそうな球質、アングルを持つピッチャーを、ちょっとずつタイプをズラしながら細かく投入されたら打つことは簡単ではないと思われる。イメージしやすいように今年のNPBの助っ人投手で例えてみると
ヤフーレ(3回)→ケイ(2回)→ゲラ(1回)→アブレイユ(1回)→マーフィー(1回)→マチャド(1回)
※あくまで例えなので、アメリカ出身ではない選手が混ざってるのは許して
92-3マイルのシンカーを軸に、多彩な球種を操るヤフーレをSPにして、左投手のケイを挟んで155キロ級のリリーフが1イニングずつ出てくる。最後の4人は同じ括りといえるので、タイプをズラした方がもっと効果的かもしれない。
一つポイントとなるのは、実際の対戦では「初対戦」となること。例えば4月に4連勝したヤフーレ(ヤクルト)や序盤快投を続けるもその後撃ち込まれて一度抹消されたゲラ(阪神)の「初対戦時ver」のような投手とプレミアでは対戦することになります。さらにWBCともなれば、この継投の上位互換バージョンと準々決勝以降では対戦していくことになるわけです。
卓球の世界だと、層の厚い中国がライバル国のライバル選手に近いプレースタイルの実力者をピックアップして模倣させ、代表選手の練習パートナーにする「コピー選手」が有名です。
プレミア12アメリカ代表は、WBCアメリカ(+中南米各国)代表の「コピー選手」になるポテンシャルを持っている。アメリカが「仮想アメリカ」をやってくれるわけです。
2019プレミア12のアメリカ戦。日本が現時点では最後に敗戦した国際試合ですが、この試合のアメリカ代表の先発投手を見たとき、ふと「くくりでいうとロアーク(17WBC準決勝のアメリカ先発)と同じだなあ」と思った記憶があります。敷いてくる守備シフトからもNPBを研究している様子がうかがい知れました。
今回のアメリカがどこまで日本を意識したオーダーメイド的なチームを作ってくるかは分からない。
ただ、かつてキューバのオリンピック連覇を阻止して金メダルを獲得したシドニー五輪のようなモチベーションでチームを作ってWBC王者日本に対して戦ってきてくれるのならば、日本にとって試金石となるこのカードの値打ちはさらに上がります。
○その他のライバル国③ パナマ代表・オランダ代表・プエルトリコ代表・ベネズエラ代表
基本的には先に挙げた2か国がSRまで勝ち上がってくる有力候補です。
ただ、A組は読めない部分も多い。
A組のメイン球場となるメキシコのハリスコは17WBCでも1次ラウンドが開催されましたが、メキシコではおなじみの標高が高い場所であるため乱打戦が頻発。メキシコの守護神だったロベルト・オスナがイタリア相手に大炎上して逆転サヨナラを許すなど、地の利を生かせるはずの開催国でさえ苦労してました。今回もイレギュラーな展開が起こるかもしれない。
アメリカ、メキシコ以外で前評判が高いのは初出場のパナマです。出場するかは不透明ですが、バルドナードやゲラ、メヒアとNPBでプレーする助っ人投手も多い。
パナマは元々U18やU15などの年代別の国際大会に力を入れており、この大会の前身とも言えるIBAFワールドカップ(旧称:世界選手権)でも常連国の一つでした。2011年に開催された最後のワールドカップの開催国でもあります。ドミニカやベネズエラのような選手層の厚さはありませんが、いいロースターが組めれば台風の目になる可能性はある。
ベネズエラはちょっとメンバーが読めない。五輪予選を兼ねていた前回大会のように現役の2A、3Aの選手が多くを占めているロースターならアメリカやメキシコを食ってもおかしくないのですが、米傘下外のメンバーが多い構成なら上位の2か国に食い込むのは厳しいか。(10月追記:ベネズエラもドミニカ同様にMLBロースター外では最高峰のメンバーを揃えてきました。WLにも出ている3A級の実力者が並んでおり、本当にアメリカやメキシコを食ってもおかしくない面子です)
WBCでは4強や準優勝を複数回経験しているオランダやプエルトリコも、プレミア12になると選手層、特に投手層の薄さが際立ってしまい苦戦する傾向にあります。MLB組がいないためそれを取り返せる打力があるわけでもない。ただ、プエルトリコは2015年大会で地元の台湾を破って8強入りしているし戦いようはある。オランダはWBCに向けても、国内組の選手を世界大会で試す場としても貴重な機会だと思われる。2011年の旧ワールドカップ最後の大会では国内組の戦力が充実しており、キューバを破って優勝を飾っています。
○世界の野球界におけるプレミア12の存在意義
ここまでは主に日本視点でプレミア12の意味や価値について書いてきましたが、世界の野球界においてこの大会はどういう存在意義があるのでしょうか。
色んな見方があると思いますが、私個人の考えとしては「世界の野球のバランスを取るため」と答えています。
世界の野球界のパワーバランスは皆さんもご存じのように特殊で、プロリーグの一つであるMLBが国際競技連盟である世界野球ソフトボール連盟を上回る影響力を持っていて、主導権を握っている。
MLBが実質的に主催するWBCが現状では「世界一決定戦」になっている状況は確かに歪である一方、この形でないとMLBの選手が揃う国際大会を開催することは現実的には不可能であることも受け入れるべきだと思うし、彼らがWBCを育てることによってメリットを享受する立場にあることも大会の発展を考えればそれほど悪い状況ではないと思っています。
よくも悪くもMLBは「自分たちに利益が帰ってくる範囲内で野球の国際化を推し進める、WBC以外の国際大会には消極的な世界最高峰のリーグ」です。
彼らに野球の国際化の全てを委ね、それに振り回されるだけ。それもベターな状況のように思いますが、決してベストな状況だとも思えない。
世界の野球界を政治に例えるなら、MLBは主導権や決定権を実質的に握っている与党のポジションですよね。
主導権を彼らから奪うことは現実味がない一方で、野球界を「野党がいない世界」だとか「野党が何もしない世界」にしてしまうこともいいことだとは思えない。
主導権を握ってないながらも、「野党」は野党なりに行動を起こし、時には自分たちの主張をすることによって世界の野球はバランスが取れる。「第一野党」であるNPBを含め、色んな野党が結束してプレミアのような国際大会を育てていくことも野球の国際化のためには重要なことなのではないかと思います。
極論を言ってしまえばWBCは「明日MLBがやめると言い出したら無くなってしまう大会」なんですよね。そこによっかかってしまっている現実がある。
アンバランスな野球界の重心を少しでも真ん中に戻すためにも、この大会は育てる価値があると思います。
○まとめ
今シーズン、シカゴ・カブスに移籍した今永昇太投手のセンセーショナルな序盤の活躍は、国際野球にとっても色々と示唆に富んだものでした。
活躍の理由として、低いリリースポイントからのホップ系の球質と左投手に少ないスプリット系のボールとの組み合わせが今のMLBにとっては有効だったと言われています。
相手にとっての「不慣れさ」や「ユニークさ」は、一発勝負で異なる国と対戦する国際試合においてリーグのレベルや実績をも超越する。
だからこそ、日本は「第二の今永」をもっと発掘しなければならないし、日本にとっての「今永」になりうる相手への対応力も上げていかないといけない。
以前の国際大会では、「変則枠」というものが設けられることが多かった。
誰の目にも分かる「投げ方」におけるユニークさを尊重した選考だったと思うのですが、この枠で選ばれた選手が意外とハマらなかったケースも多い。
今は時代が変わってきており、球質やリリースポイント、アングルといったところでのユニークさが可視化される時代になってきている。吉井コーチ曰くボールの「非常識さ」を軸に選考し、変則枠的な選出がなかった2023WBCはまさに変化の象徴かもしれない。癖やユニークさは一見分からないようなところにも潜んでいて、しかもデータ上それが分かっていても実際に対戦してみると想像以上の効果を発揮することがある。今永はまさしくそのパターンなのではないかと思われる。
初対戦の投手へ対応力が高そうなプレミア12の米大陸系のチームはそういった投手を試す場としても絶好の相手だし、野手においてもこの記事でも散々触れてきたように、日本が苦手な初対戦への対応力を上げる場としてプレミア12は適している場所です。
今のNPBのレベルは十分すぎるほど高い。と考えると国際大会で勝つには、レベル差ではなく、環境や相手のスタイル、シーズン中との役割の違いを埋めるチューニングの場が必要なんですよね。
国際試合という異物に対する適応力を上げて、抗体を得ておく。
WBCを侍ジャパンにおける一つのゴールとするならば、プレミア12という大会はそこで勝つためのワクチンみたいなものでしょうか。摂取したからといって、WBCで必ず勝てるわけではないし、摂取しなかったからと言ってWBCで必ず負けるわけでもない。でも摂取しないよりはした方がいいし、打たないまま次のWBCまで3-4年待つのも怖い。少しでも確率を上げたいなら打っておきたい。それが日本にとってのプレミア12という大会だと思います。
さて、ここまで色んな角度からプレミア12という大会について長々と語ってきましたが、この記事の本題である「プレミア12の楽しみ方」。今更ですがそれはもっと原始的なところにあるのかもしれない。
私は中学生のときに見た05年秋のアジアシリーズや06年春の第1回WBCが世界の野球に興味を持つきっかけだったのですが、それ以前にも野球の国際大会を見た記憶があります。
04年のアテネ五輪や03年のアテネ五輪アジア予選(アジア選手権)、そして最も古い記憶は台湾で01年に行われたIBAFワールドカップ。99年~02年の日本代表は過渡期で、色んな国際大会をプロアマ混合チームで戦っていた時期。予選リーグは全勝で突破するも、準決勝で世界最強のキューバ、3位決定戦では地元台湾が擁する張誌家に完封されるなど、4位だったシドニー五輪の雪辱を目指した戦いは再び世界の壁に跳ね返されました。
あの頃は純粋にプロ野球ファンの一人として日本代表を応援していました。ワールドカップに関しては試合経過や詳しい内容はリアルタイムの記憶としてはほぼ覚えていないし、高橋由伸や阿部慎之助、高校生の寺原隼人が選ばれていたことなど断片的なことしか頭に残っていなのですが、なんとなくあの戦いを見てわくわくした感情を持っていたことは原体験として心に刻まれている。
WBCは影も形もない頃で、プロ野球選手が世界大会を戦うこと自体にも新鮮味があった時代。という要素もあるのですが、純粋に「NPBオールスターが真剣勝負の場で戦う」ということ自体を楽しみにしていたような気がする。私がここまで書いてきた視点は、後付けされた補完材料でしかないのかもしれない。NPBオールスターが真剣勝負の場で戦うこと。そしてその戦いは最高峰の舞台であるWBCにも繋がっている。長い文章の末路としてはシンプルすぎるかもしれませんが、この大会の楽しみ方のベースはそこに尽きるように思います。ここに記した「補完材料」でさらにこの大会を楽しんでくれる人が一人でも増えることを期待しながら、この文章を締めくくろうと思う。