ネタバレ全開研究「野獣死すべし」大藪春彦(集英社冒険の森3)……ゴルゴ読んどけばいいんじゃね?
評価 ? わからない(5点満点)
1958年に発表されたこの作品が衝撃を持って受け止められ、その後の小説、映画、漫画などに多大な影響を与えたことは想像に難くないでしょう。
詳細に研究していきます。ネタバレ全開で行きます。結末を知りたくない方はここで左様なら。また会う日までお元気で。
【プロット】
警官を殺害する。盗んだ車のトランクに乗せ、盗んだ場所に車を戻す。
邦彦の半生。ハルビンで社長の息子として生まれる。会社を乗っ取られ北京、平壌など転々とする。
脱走からがら汚い船に乗って母、妹と脱出。佐世保に帰国。
四国で父親と再会。父親は急死。
新聞製作で思想をぶちまける。演劇部で3人の女生徒と恋に落ちる。一人は自殺。
ロシア文学に傾倒、美術にも造詣が深い。
東大落ちてキリスト教の学校に入る。
私学に入る。早大か。アメリカミステリーに傾倒。射撃部で銃にのめりこむ。バイトをする。
警官殺しのニュース、新聞に載っている。
チャーリー珍、レディキラーの徹を襲う。20万円、2000ドルを奪う。
大学の入学金に照準を定めている。
大学院に通っている。
翻訳のバイトをしている。金をためて留学してほとぼりほ冷まそうと考えている。
タクシー運転手を襲いタクシーを奪う。
現金輸送のトラックをタクシーでつけ、銃でタイヤを撃ち、警備員と運転手を射殺する。
タクシーの運転手を殺す。
徹と手下に銀座で会い、尾行される。邦彦はゲイボーイを連れて共に歩く。途中で車を盗む通たちもタクシーを捕まえて追いかけてくる。レンガの裏に隠れる?ゲイボーイを先に逃がし徹たちに打たせる。その隙に徹と手下を撃ち殺す。
警官とカーチェイスになる。確かな運転術と拳銃の技術で次々と警官達を倒してゆく。
住宅地で車を停めるゲイボーイを運転席に乗せトラックに溜まったガソリンに火をつけて発進させる。
大きな屋敷の煙突から忍び込む。煙突の中で朝まで待つ。次の日の夕方、そこの出身が出てゆく。女中を殴って気絶させ、風呂場で体を洗う。
大学の同級生真田と会う。真田は邦彦に借金をする。ギャンブラーなので借金はどんどん溜まっていく。そんな真田に邦彦は優しい。
邦彦は真田を相棒に決める。口が堅いと思ったからだ。関東大学の入学金を狙う。
邦彦は真田に自分が癌だと嘘をつく。文学書が500冊以上ある真田の部屋で計画を練る。
入学金受付の最終日の夜、計画は実行される。締め切りが過ぎた夜に真田が事務室を訪れる。
北海道の島から来たのですが、電車が遅れてこんな時間になってしまいました。
入学願書を出すふりをして爆弾をたくさん投げつける。
邦彦が現れ、銃を乱射する。警察官を殺す。事務員も何人か殺す。
車で逃げる立教大学裏の空き地に行き、ナンバープレートを取り替える。来ていたものを古井戸に捨てる。
真田に睡眠薬入りのウイスキーを飲ませ、酔ったふりをしろ。という。検問には何とか引っかかるが疑う者はいなかった。
短波放送で警官が検問をしている一を聞き、道を避けた。警官がやってくる道をつかみ、路地裏で待機した。
自宅ガレージに戻ってくると、真田は熟睡していた。真田を撃ち殺さなければいけない真相を知っているのは彼だけだからだ。精子を共にした佐奈田該当しくなってきた生涯の伴侶のように思えてきた一緒に語り合った日日思い出した。しかし、眠っているうちに楽なまま行かせてやる。と思った邦彦は心臓を撃ち抜いた。
真田の顔を潰し、コンクリート詰めにして海に捨てた。
数か月後、ハーバード大学で。目を輝かせながら美術を語る邦彦の姿があった。
【復習篇】
邦彦の妹が、かつて父親の会社を乗っ取った男の息子と婚約した。復讐を誓う。
白タクの運転手になりすまし商事会社の社員を殺して、線路に突き落とす
大学に行き教授に挨拶する。惜しがられる。町田を紹介される。矢島の会社の設計をしたとのこと。
商事会社に就職する。優秀な社員として高い評価を得る。
社長に挨拶する。
社長の秘書で愛人の貴美子を殴って犯す。貴美子は邦彦に惚れる。(んなアホな)
悪徳弁護士の水野を縛って脅す。
水野が料亭で社長から現金を受け取る。
銃撃戦になり水野は死ぬ。
貴美子殺す。君が好きだ。でも君がいたら捕まる。
京急の社長のお叱り。
妹の秋事、野島の御曹司。明子は妊娠するが、矢島から下ろしてくれとしつこく言われる。
幻想者。警視庁近くの喫茶店が。馴染みの店。
新聞記者である正田と再会する。大学時代の同級生だった。
組み立てる目隠ししても組み立てられる。
玲子が邦彦の家にくる雅之と九条財閥の婚姻の話を聞く。
船のパーティーモデルなどもやってくる。和彦遅い。気絶させ。家で落とす。
喫茶店のウェイトレス真紀子をものにする。
喫茶店のマスターの父親が危篤と嘘の電報を打つ。
真紀子と幻想者の運転手を殺す。
町田とペーパーカンパニーを作る。
晶子が流産で死ぬ。
昌幸の妻を落とす手形を切らせ。
雅彦の前ですべてを話す。九条の娘は無理心中をして雅之と一緒に死ぬ
町田がタクシーの運転手を射殺してタクシーを奪う。
三星銀行頭取の娘を邦彦がデートに誘う。
タクシーで家まで送ると言って、町田の運転するタクシーに乗せて監禁する。
娘に父親を呼び出させる。
父親の前で娘を半裸にして脅迫する。
三星銀行から87億円を奪う。
莫大な金や株価操作などで京急グループを揺さぶり最後は乗っとる。
正田に自首を勧められる。正田を殺す。
警官に囲まれて銃撃戦になる
【ハードボイルド史上重要な作品なんだろうが……】
日本のピカレスクロマンの原点といえる作品だろう。1958年に早稲田大学の学生によって発表された本作品は大きな衝撃を持って受け止められたことは想像に難くない。
私は大の『ゴルゴ13』好きで、単行本も30冊以上持っているが。(まあ、単行本は120巻以上出ているので、大ファンと言い切るのにははばかられるが)推測ではあるが、『ゴルゴ13』にも大きな影響を与えていることだろう。
そんな本作品ではあるが、正直に言って私には少々退屈だった。
乗れなかった一番の原因は殺される側の人間だ
『ゴルゴ13』ではデューク東郷に標的とされる人間には、悪い人間もいい人間もいるが、すべての人間が殺される理由というものを持っていた。
しかし、この作品の主人公である伊達邦彦は。無差別に、邪魔な人、利用し終わった人、そこに居る人達を殺しまくる。京急グループの矢島一族や賭博グループのチャーリー陳の手下などの悪党もいるが、殺す大部分はタクシーの運転手や、サラリーマンや、ものにした女や事務員や警備員など普通に労働している一般市民である。
そういえば『ゴルゴ13』では殺されるものが主人公になるエピソードが多いが誰もがそういう行動をとることには切実な理由があった。そうしたくないのにせざるを得ない事情を抱えているものもいた。
ゴルゴは肉体的にも頭脳的にも超一流だった。本作品の伊達邦彦のように。
ゴルゴは政治、経済、宗教、紛争、芸術など世界情勢のありとあらゆることを教えて知れた。
ゴルゴがまだ読みたくなった……おっと『野獣死すべし』の章だった。
大藪春彦の『野獣死すべし』はハードボイルドの金字塔として、小説かを目指す人や文学の歴史を学びたい人は抑えておくべき作品なのかも知れないが。そうでなければ
……ゴルゴ読んどけばいいんじゃね?
【しびれた文章】
彼の中にあった一切の人間的なものを無慈悲に奪い去った巨大な機構に対して飽くことなく、執拗な反逆を企てるのだ。
現世の快楽を極めつくし、もうこの世に生きがいが見出せなくなった時が来たら、あとはただ冷やかに人生の杯を唇から話し、心臓に一発打ち込んで。生まれてきた虚無の中に帰ってゆくだけだ。
彼にとって快楽とは何も酒池肉林のみを意味するものでなかった。キャンバスに絵具を叩きつけるのも肉体的快楽でありえたし毛布と一握りの塩とたばこと銃だけを持って狙った獲物を追って骨まで凍る荒野を何ヶ月も跋渉することだって、彼には無上の快楽となり得た。
快楽とは、生命の充実感でなくして何であろうか。
【結局私にはわからん】
私は退屈だと感じつつ読み進めたのだが、最終盤、銀行頭取の娘を拉致して、父親の目の前で半裸姿でロープで縛って脅迫するシーンで読む気が失せた。(あと少しだったのでなんとか読了したが)
この品性のなさは何?
レビューを読むと「ハードボイルドの名作」とか「研ぎ澄まされた文体」とか「孤高の精神」とか高い評価が並んでいるが絶賛している読者はどこに面白さを感じているの? レ〇プもののAVを見て興奮するようなものなのだろうか? さっぱりわからない。
鬱屈からの解放、というレビューがあった。高度成長期のものすごいスビードで変化していく社会についていけないものも多くいただろうが、そういった人々の心を代弁しているということなのだろうか? だとしても邦彦が殺しているものの多くは立場の弱い庶民だ。「スカッとした」読者と同じような境遇の人々を殺す話を面白いと感じているのだろうか?
法の裁きを免れたわるいもの、強いものをたおしてすっきりすのだったらわかるが、タクシーの運転手を殺してすっきりするか?
ロシア文学を好み、美術に造詣が深く、ボクシング、射撃などスポーツも万能。仕事帰りにはジムに通い体を鍛える、というストイックさ。
……たしかに魅力的ではある。
銃に関する描写が詳細。日本では銃は持てないから憧れる男子もいる。
……昔は銃に関する情報は少なかったが、いまはYouTubeで配信している人がいくらでもいるしな
現実にもこの作品の主人公に似たような者はいる。17名を死傷させた秋葉原通り魔事件のKとか、付属池田小事件のTとか、やまゆり園の相模原障害者施設殺傷事件のUとか、本作品の主人公伊達邦彦とどう違うのだろう? それとも彼らのしたことも「鬱屈を開放させるスカッとすること」なのだろうか? KやUやTの立場に立って彼らの背景に光を当ててなにか物語ができるのかもしれないが……。
私はバイオレンスを嫌悪しているわけではない。繰り返しになるがゴルゴ13や北野武の映画は大好きだ。松田優作主演の映画も見たが悪くなかった。鹿賀丈史のゴリラっぷりは良かった。
発表されたのが1958年であり当時は物珍しさがあったかもしれないが、この作品が現在でも多くの人々から評価されていることが私には理解できなかった。