非在住者をスターター2人までに制限する「Import Rule」についての議論:地域リーグやチームの在り方はどうあるべきか
例年、NAを強くするためにはどうすればよいのか?という話題はWorlds終了後の定例行事のようにファンの間で交わされる定番のテーマだ。しかし、今シーズンのLCSではシーズン開始直後から「LCS参加チームからRiotに、非在住者選手の制限撤廃が要請された」というニュースが取り上げられ、大きく波紋を広げている。
この話題の根底には、10年間の競技シーンにおいてNAという地域が国際大会で優勝したことが無いという現状が横たわっている。最も古い競技地域であり、大きな投資も進んでいるリーグでありながら、国際大会での優勝に未だ手が届かないという状況はファンにとっても、チーム運営にとっても一つの懸案事項なのだ。
現状、LCSは国際大会で他の3地域と比べて結果を残せていない。LECはG2のMSI優勝や何度かのWorlds決勝進出、LPLやLCKはWorlds優勝を何度も経験しているが、LCSはWorldsグループステージでの敗退が続いている。もちろん選手を発掘するために、アマチュアあるいは大学リーグの整備や、Scouting Groundの実施をここ数年進めてきているが、投資規模の大きさに対する結果を今すぐにでも欲しいという声も一部には出ている。
▲Worlds 2020 グループステージにて、LCS第1シードで出場したものの全敗で敗退という最悪の結果となってしまったTeam SoloMid。ミッドのBjergsen選手とADCのDoublelift選手は、この大会を最後に現役を引退した(LoL Esports Flickrより)
大規模な変更、例えば全面的な制限の撤廃が行われた場合、全世界を対象に選手を集めることが可能となる。チームによっては、全員がその時点での最強の地域出身の選手となる可能性も十分にある。また、強い選手を供給する地域以外では、アマチュアシーン運営や人材発掘への投資が低調になり、その地域でLoLというゲームそのものを楽しむ人間が減ってしまうのではという危惧もある。
地域外選手枠への変更は、必ずしも全廃/現状維持の二択ではない。現在、オセアニア地域のリーグ終了に伴ってオセアニア地域の選手はLCSにおいて居住者と同じ扱いを受けている。このような、制限の緩い地域を増やすという方式も考えられる。ラテンアメリカやオセアニア、日本などのいわゆる「マイナーリージョン」から選手を見出すということになるやり方だ。メジャーリージョン外の選手としては、Suning(LPL)のSofM選手がベトナム出身プレイヤーとして初めてWorlds決勝の舞台に立つ、という結果を2020年に残した。
このトピックについて、LCSを長年取材しているジャーナリスト・Travis Gafford氏は、放送において各チームの関係者に対してインタビューを行い、いわゆる「import rule」に対するチームの姿勢などを取材した。それらはクリップとしてまとめられ、Twitter上で公開されている。そこでは各組織の様々な考えを示しており、それぞれに何を重視しているのかも垣間見える内容となっている。
▲2021年春よりFlyQuestに加入したJosedeode選手。LLA(ラテンアメリカリーグ)でトップクラスのジャングラーであり、北米チームへの移籍後も地元のファンからの応援を背に受けてプレイする(LCS公式YouTubeチャンネルより)
積極的な解放路線
いくつかのチームは、積極的に制限の緩和や撤廃を求めているようだ。彼らは、LCSが世界のリーグでも最大規模の投資を受けている一方で、国際大会での結果が奮っていない現状を、選手の補強で改善できると考えている。そのやり方は、単純に実績ある強い選手を獲得するというものもあれば、現状のアカデミーリーグやScouting Groundそのものが全世界対象になるべきだという意見のチームもある。いずれも見据えているのは北米地域だけではなく、LCSを世界を対象としたリーグに拡大させ、その上で競技的な成功やファンの獲得、市場の拡大に繋げたいという意図が見える。
常に取りうる手段の中で最善を
ルール変更に対する直接的な回答とは別に、チームを強くするための人材発掘については、取りうる限りの手段を模索しているというコメントも多かった。LCS主催のScouting Groundとは別に、チーム独自のトライアウトを実施している組織や、アカデミーチームに加えて第3チームを立ち上げているチームもある。一方で、LCSチームの中でも特に大きな組織は、世界各地に様々なタイトルの選手やチームを運営しているので、可能であれば人材発掘の対象は全ての地域を検討するという考えもあるようだ。
積極的な推進とは別に、今後の変化への対応
制限の緩和は、単なる選手獲得の問題にはとどまらないという言葉もあった。仮にLCSチームが全世界から選手を集めるようになれば、選手の出身地域から、LCSに注目する視聴者も出てくるだろう。そういった視聴者を新たにチームのファンとして獲得するためには、チームの情報発信を多言語化させる必要がある。たとえば、FlyQuestはJosedeodo選手の加入に伴い、彼を追ってLCSを視聴するであろうラテンアメリカ地域の視聴者向けにチームのWebサイトの表示言語にスペイン語を追加し、スペイン語での試合同時視聴配信もスタートしている。近年になってTeam LiquidやFnaticが公式日本語Twitterを開設したのも、同様に新たな地域のファンを獲得・強化していく狙いがあるはずだ。
▲2年連続でWorlds優勝を決めた中国LPLより、2020年にサモナーズカップを奪還した韓国のDAMWON Gaming(現DWG KIA)。LoL Esports 10年間の歴史の中で、アジア以外のチームが優勝したWorldsはSeason 1のみ。移籍制限がなくなれば、こうした強豪地域出身の選手で世界中の地域リーグが満たされるのかもしれない(LoL Esports Flickrより)
「我々が北米を信じないでどうする!」
北米という地域に強く立脚した考えを持っているチームにとっては、今回の話題や、ルールの変更の可能性は大きな問題ではないようだ。彼らは、地域外の選手を多く集めたとしても、国際的な競技シーンにおいてLCSの位置が急激に向上するとは考えておらず、地域の才能を見出して育て続けるという道を選んでいる。「我々(地元チーム)が北米のタレントを信じて育てなかったら、誰がそれを行うのか?」という言葉は、多くの地域においても同じように重みがあるだろう。
この議論にシンプルなゴールは無い
インタビュー上でも、多くのチームはルール変更の是非について明確な回答をしているわけではない。そもそも、このようなレギュレーション変更は水面下で協議される話題であるということもあるし、LCSという地域の在り様を大きく変えてしまうテーマということもある。ルールは将来的に変化していくと多くのチームは考えているが、それがどのような内容と規模になるのかはもちろん、戦場の霧の中だ。すべてのチームが、それぞれに考える最善を模索し続けているのだ。そこにはファンや選手、リーグの行く末も含まれているのだから、明快な答えを出すのは難しい。
LCSが抱える問題を一挙に解決できる”銀の弾丸”は存在しないのだ。
終わりに
非在住者制限の変更に関する話題は、LCSで多く取沙汰されるテーマの一つだ。しかし、もしもルールが変更されればその影響は全世界に及ぶ可能性があり、マイナーリージョンもその例外ではない。地理的な条件もあって韓国出身の選手を多く採用している日本のLJLにとっても、議論の内容そのものも含め、非在住者制限の行く末は重要だ。今後も、さまざまな地域でさまざまな立場からの議論が行われていくだろう。
執筆:ユラガワ(@yuragawa_lol)&山口佐和子
タイトル画像出典:LoL Esports Flickr
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