家族になる瞬間
「他人から家族になる瞬間ってどこなんだろうな?」
「うん?」
「ほら、子供っていうのは産まれた瞬間に、もう家族でしょ。でも、夫婦っていうのは元々、他人で、時間をかけて家族になるわけじゃない?」
「うん、そうだな。でも普通に考えて、家族になるのは結婚するときだろ」
「それって結婚式ってこと? それとも婚姻届を出したとき? でも最近は事実婚とか、届出を出さないカップルも多いよ? それに結婚っていう形式にまだこだわってるっていうのはどうなの? もう時代は令和だよ? 頭固くない、君?」
「……何が言いたいんだよ?」
「つまり、そういう形式的なことではなくて、どこかで『あぁ、家族になったかも……』みたいな瞬間があるのかなぁって。うーん……例えば、お互いがオナラを我慢しなくてよくて、むしろ笑い合えるくらいになった時、とか」
「ああ、なるほど。そういうことね。お互いが信頼できてるなぁって思えるような瞬間ってことね」
「そう。まぁもちろん、人とか家族の形によって色々だとは思うんだけどさ」
「うーん、そうだなぁ……。同じ歯ブラシを使うようになった時、とか?」
「え?」
「え?」
「え、いや。まぁ……なんというか。人それぞれだから、そこは。うん。まぁ、あんまり深くは突っ込まないけど……。えぇっと、そうだな。あっ! 『あれ取って』って言って『はい、醤油』みたいな。お互いが今欲しいものが何となく分かった時、とかね」
「わかる! お互いの考えが何となく分かってきたりするんだよな。うーん、そうだな。他には……。トイレに一緒に入るようになった時、とかね」
「え?」
「え?」
「……えっ? お風呂じゃなくて?」
「うん、トイレ」
「え?」
「え?」
「いや、まぁ……。いいんだけど。人それぞれだし。うん。……うん? えっ。え、何で? ……何で一緒にトイレ入るの?」
「そりゃあ、トイレに行く時間すらも離れたくないってことだろ。言わせんなよ、恥ずかしいな」
「あ、へぇ。うん。そっか、うん。うん、へぇー。げほっ。あ。あぁ、そうだな。他には……。あっ! 自分の両親とパートナーが仲良さそうなところを見た時、とか。やっぱりなんだかんだで、親との相性は大事って言うもんね」
「はいはい、それはあるな。親問題ね。あとは……あれか。お互いのスマホにGPSを入れて、常に居場所チェック。それからLINEで必ず報告。LINEは1日最低100往復。仕事場以外は1人で行かない。俺以外の誰かと1人で会わない。ま、当たり前なんだけど。これらを徹底てきるようになったとき、とかかな」
「ひぇ」
「え?」
「頼む、頼む……」
「え、どしたの?」
「頼むから、お前は家族を作らないでくれぇ」