影響されやすい人の夢
「少年はみんな、野球選手になりたいものじゃん?」
「みんながみんなじゃないけど。夢としてはメジャーだよな」
「いや、メジャーじゃなくて、日本でだよ。何言ってんの」
「いや、そういうことじゃなくて……。まぁいいや、それで何の話?」
「俺も例に漏れず、野球選手になりたかったわけ」
「うん」
「でもさ、ある日テレビで警察24時みたいなのを観て、薬物取引現場に突入するシーンでさ。カッコいい! って思ってさ」
「そんな物騒なシーンで胸がときめいたの?」
「それで、警察になりたいなぁって思って」
「影響されちゃうってことだろ。まぁよくあるよな」
「そう、俺自分で言うのも何だけどさ。めちゃくちゃ影響されやすいんだよ!!」
「そんな威張ることじゃねぇよ」
「オリンピックでスケボーが盛り上がっててさ」
「うん」
「今からスケボー始めて、オリンピック目指そうかしら、とか」
「お前、スノボー怖くてできないのに、よく言うな」
「ドラマで医療物やってたから、よし! これから人命を救う外科医になるんだ! とかさ」
「お前、指先包丁で切っただけで大騒ぎしてたの覚えてないの?」
「繁華街歩いてたときに『職業、俺』っていう看板みたから、よし! 俺は第二のローランドになる! とかさ」
「ホストクラブの看板のやつな。うん、なんかもう色々間違ってるよ、おまえ」
「とにかく、何か話題になってるものとか、見たり聞いたりしたものに、すぐ影響されちゃうんだよなぁ」
「まぁ、気持ちはわかるけど。いい大人が割と本気で言い出したら、ちょっとな」
「でも、何かを始めるのに、遅いことなんてないっていうじゃん。年齢は関係ない! ってさ」
「そうだけど……。たぶん限度があると思うよ……」
「だからさ、小さい頃から、この歳まで。俺なりたかったものが、たくさんあるんだよなぁ」
「へぇ。まぁいろんなことに興味があるのは、悪いことではないんじゃない」
「ちなみに、お前は小さい頃の夢とかってあった?」
「公務員」
「え?」
「公務員」
「だけ?」
「公務員、だけ」
「え……。つまんな」
「つまんないって何だよ。現実的って言えよ」
「なんか、俺とお前を足して二で割ったら丁度いいのにな」
「そうだなぁ」
「あ、そういえば最近影響されたものがもう一個あったわ」
「なになに?」
「この前、コナンの映画観たんだけどさ」
「うん、探偵になりたくなったの?」
「証拠隠滅とかってスリリングでいいなぁって」
「犯人!?」