ロマンチックに恋して
「俺、普段からロマンチックなことをしちゃうんだよね」
「ああ、記念日とかサプライズをやりたいタイプだ。フラッシュモブとか。な、フラッシュモブだろ。あれって実際やられたら、めちゃくちゃ困ると思うんよな。なんか嬉しいっていう気持ちよりも、いたたまれなさが勝つ気がする。いや、絶対そうよ。だってみんな知らない人よ。嬉しいか? 別に嬉しくないだろ」
「フラッシュモブになんか恨みでもあるんか」
「いや、フラッシュモブでプロポーズして断られたとかではないよ、断じて。断じて……うん。……で、お前は記念日とかに凝った演出とかするんだ?」
「あ、いや、記念日とかっていうより、普段からついついやってしまうんだけどね」
「普段から? どういうこと?」
「うーん、なんて言ったらいいかなぁ……。ついついロマンチックなことをしてしまうんよね」
「ロマンチックなこと、ねぇ……。例えば?」
「街中を全力疾走する、とか」
「全力疾走? それがロマンチックなの?」
「ただ、走るだけじゃないぞ。アメリカに行ってしまう彼女に、最後に一言伝えにいくんだから」
「え? そんな彼女がいるの?」
「いや、いないよ?」
「は?」
「表情からも焦りと必死さが伝わらないとダメだぞ。恋敵の気持ちも背負ってるんだから。このタイミングを逃したら、次はいつ会えるかわかんないんだぞ」
「え? ちょっと何言ってるのか、分かんないんだけど……」
「あとは、終電ギリギリの時間に、駅の改札の前に行くんだよ」
「はあ……」
「それで最後の電車が終わって、人が全員改札を抜けて。そしたら『やっぱり、来ないか……』って呟くの」
「え? 誰か待ってたの?」
「いや、誰も待ってないよ?」
「は?」
「それで、ポケットに手を突っ込んで、空を見上げながら帰るの。涙が溢れないように」
「ちょっと、話についていけてないんだけど……」
「ま、ここまでは初級編って感じかな。1人でできるやつだし」
「初級編ってなんだよ。もうお腹いっぱいだよ」
「少しレベルをあげるよ? 花屋さんに薔薇を一輪だけ買いに行くんだよ」
「はあ……」
「そしたら店員さんが『プレゼントですか?』って聞くだろ?」
「いや、必ず聞くとは限らないと思うけど……」
「そしたら『ええ、そうなんです。……もう……会えないんですけどね……』って寂しそうな顔で言って、『えっ?』ってなってる店員さんを尻目に、そのまま店をあとにするの」
「ついには他人を巻き込みだしたな、このやろう」
「あとは、レストランで入店したときに『あとで、もう1人来ます』って伝えとくの。待ち合わせなんでってね。それで1時間くらい1人で過ごしたら、席を立ってお会計をするの。そしたら、店員さんは不思議そうな顔をするだろ?」
「うわぁ、やめろ」
「そしたら『一年前に約束したんですけどね……。今日、この日に、この場所でもう一度会いましょうって……』って切なそうに言うのよ」
「その店が忙しい時間帯でそれやってたら許さねぇからな」
「いやー楽しいぞ? ロマンチックごっこ」
「もう、ついていけないわ……」
「ふふふ。最初はみんなそうさ。ほらっ、海へドライブへ行こう。赤く染まる水平線に向かって、あのとき言えなかった気持ちを叫ぼうよ」
「あのときって、どのときだよ……」