サーチファンドにおける買収企業を絞り込むための手法
一般的なサーチファンドのプロセスにおいて、サーチャーは2年間の期間をかけて、買収対象となる企業を探しますが、そのためには事前に業界やどのような企業を買収するのかの基準を決めることになります。この基準として一般的に使われるものについて、A Primer On Search Fund (Stanford GSB) に記載があったのでまとめてみました。
当然全てを満たすことは難しい、という前提は書かれていますが、以下が記載されています。
望ましい業界の基準
・Fragmented Industry:圧倒的な大企業が存在しない、分散された市場/業界であること。
・Growing Industry:成長している産業であること
・Sizable Industry:既に一定程度の売上が存在し、一定の数の同業がいること
・Straightforward Industry Operations:シンプルな企業運営が可能な業界
・Relatively Early in Industry Life Cycle:業界の歴史が相対的に浅くこれから発展していくような業界
・High Number of Companies in Target Size Range:買収対象となるような企業価値の会社が多く存在すること
・Healthy and Sustainable Profit Margins (ROTC* > 20%):健全でサステイナブルな利益が出ていること
*ROTC = Return on Tangible Capital
買収対象となる基準として、非常にわかりやすい基準だなと感じました。スタートアップで言うところのPMF (Product Market Fit) が達成されていて、かつ、一定の利益が出ていること。そして大企業が入って来づらい市場でかつ伸びている市場で、似たようなサイズの会社が競合していること。つまり既存のキャッシュフローをレバレッジして、攻めの一手を打つことで、競合のシェアを奪うことも含めて売上の成長が可能であること。またオペレーションがシンプルであることからここも経営の工夫によって利益率をあげるような可能性があること。経営の仕方を変えることで企業価値が上がる可能性を大いにある基準ということと理解しました。
望ましくない業界の基準
・Highly Consolidated Industry:高度に統合されている業界
・Declining Industry:衰退産業
・High Competitive Intensity/Limited Barriers to Entry:参入障壁が低かったり、競争環境が激しい業界
・High Consumer Pricing Power:顧客のバイイングパワーが強い業界
・Unpredictable Exogenous Factors:外部要因で想定できない要素があること
望ましい業界の反対になってはいますが、こちらも納得感があります。買収後の成長シナリオを阻害しうるようなリスクを事前にスクリーニングの段階で弾いておくための基準となると思います。
続いて、業界だけでなく、企業の基準となります。
望ましい企業の基準
・Competitive Advantage:何らかの競争優位
・High Recurring Revenue*:(売り切り型ではない)継続的な収入
・History of Cash Flow Generation:ポジティブキャッシュフローを生み出して来ていること
・Motivated Seller for Nonbusiness Reasons:売り手が事業以外の理由で事業を売りたがっていること
・Fits Financial Criteria, e.g. $10M to $30M in revenues and greater than $1.5M in EBITDA:財務的な基準に合うこと。例えば、売上が約10億円〜30億円で、EBITDAが1.5億円以上あること
・Multiple Avenues for Growth:成長への道が複数あること
・Solid Middle Management:中間管理職がしっかりしていること
・Available Financing:資金調達の手段があること
・Reasonable Valuation:合理的な(高過ぎない)バリュエーション
・Realistic Liquidity Options in Three to Six Years:3-6年以内の現実的なExitの選択肢があること
*Recurring revenue can be defined as regular monthly, quarterly, or annual payments for services received every month or quarter from customers who stay for at least 18 months:リカーリングの定義は、例えば、月額などの形で、継続的に顧客から得られる収益のことで、最低でも18ヶ月以上継続して上がる収益を指す。
企業の選定基準で印象的なのはReccuring Revenueがあることや中間管理職について言及されていることでしょうか。複数事業を観察/運営して来た身としては、短期的な未来の売上が予測できることは、事業の舵取りをする上で非常に重要となります。これがないとヒトモノカネへの投資の意思決定のリスクが高くなり、縮小均衡に陥りがちと感じています。限られた期間で投資家に対してリターンを返すために、一定のリスクは取らなければいけないと考えると、とても重要な条件であると考えました。また、中間管理職については、結局Executionの質を担保するために、重要な条件である思いました。いかに素晴らしい成長への道を描いたとして、仮にそれが正しい判断であったとしても、また経営者がいかに優秀であったとしてもExecutionの質が成否を分けると考えます。採用をするにしても、キャッチアップに一定の時間もかかったりするなど、既にその企業で働いている中間層の質が成否を分けうる一つの基準である、というのは納得感がありました。
望ましくない企業の基準
・Turnaround situation:業績不振、事業再生が必要な企業
・High Customer Concentration:顧客が(一部のプロダクトや地域などの何かに)集中していること
・High Customer Churn:顧客の離反率が高いこと
・Small Company - Less than $10M in revenues or $1.5M in EBITDA:小さすぎる会社。例えば売上が10億円以下だったり、EBITDAが1.5億円以下。
・Limited or No Management Bench Strength:管理職や経営関連職への次の候補が育っていないこと、限定的であること
・Competitive Auction:買い手候補が他にもあり、オークション方式での買収となること
・Public to Private Transaction:株式が公開されている会社
これも望ましい企業の裏返しとなっていると言えるかと思いますが、特に特に顧客属性について言及しているのは興味深いと思いました。顧客の離反率が高いことや、顧客が何かに集中してしまっていることは継続的な収益を上げるという点において解決しなければいけない課題となってしまうでしょう。また、当然いい会社をいい値段(高過ぎない価格)で買収するという意味において、オークション方式での買収や上場企業が対象とならない、相対取引で基本は行う、といったところが基準として明示されていると理解しました。
以上、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。