VC (Venture Capital) と サーチファンドの違い - ゼロイチ起業 or 買収による起業

海外の記事で "Starting from Scratch or Entrepreneurship Through Acquisition?" というものがあり、面白かったので一部訳してみました。

サーチファンド (Search Fund) のモデルについて、海外の記事を見ると Entrepreneurship Through Acquisition (ETA) として一般的に語られていることが多いです。Entrepreneurship Through Acquisition (ETA) は日本語に訳すと起業買収か、買収による起業、となるでしょうか。こちらの言葉の方が起業という言葉が入っていて、サーチャーのイメージに近い気もしました。この文脈で見ると、投資家として、VCに投資をするのかSearch Fundに投資をするのかをよりわかりやすく比較しやすいと考えました。

以下は、scratchでゼロから事業を創る起業家とそれに投資をするVC、買収を通した起業とそれに投資をするサーチファンド、という枠組みで諸情報を比較しています。

ジョッキーメタファー(競馬の騎手であるジョッキーについてのたとえ)
 i) 起業家 (競馬でいうと騎手) は才能やスキルに溢れた、しかし、経験が足りないCEO
 ii) 投資家 (コーチ) はサーチファンドの運用経験/起業経験があり、起業家をリードする責務を負っている
 iii) 企業 (競馬でいうと馬) は競馬でいうと最も重要な資産

サーチファンドモデルでは、CEOについては既に資質をある程度みて選抜された人がなると想定されており、肝となるのは完璧な企業 (競走馬) のサーチと買収である。

一方でVCの文脈となると、最も重要なのはファンダーチーム (ジョッキー、騎手) であり、何をやるかというアイデアやプロジェクトは価値がない。

この引用部分は納得感のあるたとえだなと思いました。結局投資家として何に投資をしているのかというところに尽きるとは思いますが、ゼロイチでキャッシュフローを生み出す事業を創り上げるのは、やる前にはかなりの不確定要素がある、という話です。一方で、サーチファンドモデルにおいてCEOとなる人が重要でないというわけではないと思います。割合の違いであって、相対的にVCが投資するようなscratchからのstartupと比べると、CEO自体は重要ではない、ということと思います。ではCEOがどのような人であってもリターンを返せるような会社の基準とはなんなのか、というのが次の引用です。サーチファンドはその投資基準が明確でその基準を満たす会社を見つけることが非常に重要とされています。

サーチファンドへの投資理論
これらの基準は、投資家が、比較的経験のないCEOに投資をすることのリスクを軽減するために非常に重要である。
・Recurring revenue (リカーリング収益)
・Easy B2B business model (シンプルなB2Bビジネス)
・EBITDA between 1M€ and 5M€ (EBITDA margin > 15%)
・Low CapEx intensive (少ない設備投資)
・Customer diversification (顧客が多様であること)
・Growth potential (成長可能性)
・High switching costs (スイッチングコストが高いこと)

以前の記事 "サーチファンドにおける買収企業を絞り込むための手法" でも記載した基準とほぼ同じですが、今回の記事では明確に、経験の少ないCEOに投資するリスクを軽減するために、と書いてあるのが印象的でした。これに比していわゆるゼロイチのstartupでは、TAMやscalabilityが重要である、ということが元記事には書いてあります。

Valuation/Exit Multipleの違い
・サーチファンドの競争上有利な点として、ターゲットとなる会社がPEやVCのターゲットと重ならない点が挙げられる
・実際、買収される会社のオーナーはサーチャーからコンタクトされるまで、会社を売るということについて検討してもいない
・成長率がそこまで高くなく、また、バイサイド側の競争も激しくはないため、EBITDA multiple が低く、平均して 4x 程度である
・VCの投資するようなstartupは、急成長するビジネスであり、稼いだお金を再投資しマーケットを奪いに行くモデルであり、EBITDA multiple は通常使わない。売上multipleなど別の指標を用いるのが通常である。

ターゲットが重なりづらいのは納得感があるものの、特にスモールキャップのPEについては、日本の場合は重なるような気もします。とはいえ、二点目にある通り、まだ売却を考えていないオーナーに、サーチャーの魅力でコネクションを作るところから進めるという場合は、確かにいわゆるPEファンドとはターゲットは重なり得るものの、実際に買収フェーズまで競合するようなことはないのだろうとも考えました。

Cap Table と 会社のコントロール
・以下の Stanford の Search Fund Study にある通り、サーチのための資金を集めたサーチャーの69%は企業を買収している
・典型的なケースでは買収の瞬間に 8% の株式を、事前合意した一定期間の経営を実施した時にさらに 8% の株式を、exitの際に事前合意したリターンを投資家に返せていたら (平均的に IRR 30%)、 さらに 8% の株式をサーチャーは得て、合計24%の株式を得ることになる
・Startupの場合、シードで10-20%の希薄化、シリーズAで20-30%の希薄化、シリーズBで33%の希薄化となるので、平均して、シリーズBの後のstartup起業家は24%の会社の株式を持っていることになる

あくまでこの著者のいう平均的なケースということなので数字はかなりケース毎に違うと思いますが、比較としてこのような比較がある、ということは知っておいて損はないと思います。サーチファンドのケースでは10%付与で最終的に30%というのがStanfordの標準的なケースとして記載があります。Startupの場合はいうまでもなくケースバイケースです。

以上、最後まで読んでいただきありがとうございました!

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