周山街道をゆく chapter3-4 かやぶきの里(1)
→chapter3-3 常照皇寺(3)
やがて小型バスが来た。
僕は急ぎマスクを着けた。
運転手は意外にも違う初老の運転手だった。乗客は僕だけだった。乗るなり、念を押す意味で
美山かやぶきの里に行くにはどうすれば良いかを尋ねた。
「京北病院前で美山かやぶきの里行のバスが数分後に来るので乗り換えてください」と言った。
このバスは京北病院を経由して周山に戻るようである。運賃を尋ねると
「300円です」と運転手は会釈して答えた。
地域一律同一料金のようである。
「1000円でお釣りはありますか?」と尋ねた。
車内に両替機なる経費の掛かるものは置いていない。たまに来るよそ者のためにと財布から100円5枚と500円玉を出して快く両替をしてくれた。僕はスマホ決済をするので日頃から財布にはあまりお金を入れていない。自動販売機で飲み物を買う時のために1000円札は小銭入れに忍ばせている。
『よかった』と心の中でつぶやいた。
この界隈にはコンビニらしきものも周山街道(162号)に行かないと無いようである。
小型バスは暫くもと来た道(477号)を走り、次の三叉路を右に折れた。府立京北ゼミナールハウスは、アウル京北と言う愛称に変わり、今も京北病院の横にある。座禅の後、常照皇寺から夜間どのルートでゼミナールハウスに行ったのか全く記憶にない。
秋晴れの空の下を小型バスは信号の無い府道を快走した。杉林が続く。ふと北山杉の事を尋ねてみたくなった。
「最近、北山杉はどうなのですかね」
「もうさっぱりですワア」と老運転手は答えた。
「私の子供の頃は・・・・ 」数時間程前に小野郷あたりで見てきた風景を語った。
「今どきの若い人は・・・」と言いかけて老運転手は押し黙った。
「海外の安い材木に押されて衰退してしまったのですかね」と私は話を続けた。
「そうですね」と答えた。
あまりそのことに触れられたくないのか黙ってしまった。
しばらく沈黙が続いた。僕は車窓から外を眺めた。杉林がずっと続く道をバスは流れるように駆けた。やがて信号のある交差点を右折した。交通量が増えたことで国道162号に入ったことがわかった。しばらく走り、次の信号のある交差点を左折した。京北病院の看板が見えた。
「着きましたよ、ここで待っていればかやぶきの里行のバスがすぐ来ます」と老運転手は親切に教えてくれた。
僕は300円を料金箱に入れ、忘れ物はないか座っていた椅子の周りをチェックし、老運転手に礼を言って下りた。
誰も乗っていないそのバスは静かに出発し、北桑田高校の横の道を左折し周山に向かった。
数分もしないうちに小型バスが通りの反対側のバス停に停まり年配の女性が降りるのを見えた。そのバスも乗客はひとりだけだった。その女性は決まった時刻に乗り、運転手とは顔なじみで京北病院に用事があるのだろうと想像した。過疎地域のバスは地域の病院や食料スーパーを経由することが多い。地方に行けば行くほど車無しでは生活ができないようになっているが、運転ができない高齢者や学生のために地域がコミュニティバス提供している。
小型バスはどこかでターンしてこちらに来た。バスのドアが開いたので
「このバスはかやぶきの里へ行きますか?」とこちらも念押しで尋ねた。
運転手は年金生活者が半分ボランティアでやっているようであるが、このコミュニティバスは南丹市が補助金を出し運営していることを後から知った。地域病院に通う人のためにわざわざ周山まで乗り入れている。
「かやぶきの里へ行きます」と老運転手は答えた。
観光シーズンの10月第1週の土曜日であったが、もちろん乗客は私ひとりだけであった。一番前の席に座った。
「かやぶきの里まではいくらですか?」と尋ねた。
「600円です」と答えた。今度は距離が長いことを知っている。
整理券が無いことをみるとこちらも一律料金であるらしい。先ほど両替してもらった小銭が使える。
小型バスは西を向いて走った。
chapter3-5 かやぶきの里(2)→
余談ながら
かつて北山杉で名を馳せた丹波山地を最近では『森の京都』と呼び、PRしている。
これから行くかやぶきの里もその一つである。
全国的に少子化で小中に止まらず、高校でも統廃合が進んでいる。よほど何か特徴的なものがないと生徒が集まらない。この北桑田高校には全国でも珍しいフォレスト科(林業)がある。次世代の林業の担い手の育成は急務である。林業を守ることは地球温暖化を抑制するのに不可欠であることは言うまでもない。大雨の水を吸収し私たちの飲料や生活用水として吐き出す。その水は土壌のミネラルを吸収し、川となりやがて海に流れ着く(陸からの贈り物)。その栄養(窒素・リン・珪素)を珪藻などのプランクトンが取り込み、それを餌に小魚が集まり、それを餌とする大きな魚が寄って来る。そうして食物連鎖が起きる。もし森林が荒れれば海の生物が死滅しかねない事態になりかねない。
僕はこの章(chapter3)の冒頭、北山杉の現状を憂いたが、日本の林業従事者の生活が十分に成り立つように木材の加工品の購入を推奨したい。