周山街道をゆく chapter3-6 かやぶきの里(3)
→chapter3-5 かやぶきの里(2)
バスは元来た162号線に出た、すぐさま三叉路を右折した(鞍馬街道)。観光バス・マイカー・バイク、どこからこんなにたくさんの車が飛び出て来たのかと思う程の交通量である。お目当てはかやぶきの里である。
家内が以前、女子会でかやぶきの里を訪れている。京阪神から手軽に行ける日帰りバスツアーが出ている。日本の原風景がとても良かったと言っていた。白川郷ほどではないにしても多くの観光客がここを訪れる。但し今は(2021年コロナ禍)外国人観光客の姿はない。
バスは由良川に沿って走った。少し拓けた谷と行った感じだろうか。実にのどかである。これが美山か、高原の別世界に来たような。
目の前に大きな駐車場が見えた。幾重にも観光バスが停まり、その周りをマイカーが埋め尽くしていた。それだけではない。バイクの多さが際立った。
「次のバス停の方がかやぶきの里は近いです」と運転手が教えてくれた。それは大駐車場と売店がある『南』バス停から500mくらい先の『北』バス停が最寄りであるという。
「かやぶきの里の集落にはピザ屋を営む店もあります」と付け加えた。『北』バス停で下りる際、「ここに詳しく書いてあります」とイラストmapを渡された。
mapを見るとピザを焼いている店は集落のハズレにあった。まずは順路に従って進んだ。
出迎えてくれたのは哀愁を連想するお地蔵さんである。そして昭和のあの丸い形の郵便ポスト、タイムスリップtimeslipしたようであった。
コロナ禍と言えど誰しも飽き飽きしていた。緊急事態解除宣言は外出の口実になる。但し遠方は控えて欲しいとの条件が付いた。マイクロツーリズムmicro tourismなるかっこいいwordが持てはやされたのもこの頃だと記憶する。
冴えわたる青空の下、多くの観光客がここにいた。まずはカフェ・ギャラリーcafe gallery 彩花に入ってみることにした。もうすでにpm3時なのに店のテラス席や室内は満杯状態であった。幸いちょうど出ていく客がいたので座ることができた。
「何か軽食はありますか?」と高校生くらいのアルバイト店員に尋ねた。
「申し訳ありません」と答えが返って来てメニューを持ってきた。cafeなのだからトーストtoastくらいはあるだろう。メニューに書かれていたものはsweets系ばかり。取り敢えず腹に入れられるものなら・・・とパフェのようなものを頼んだ。
正直これで¥1.300かと思うほどに値段が高い印象があった。よく考えれば無理もない。スキー場と同じく限られたseasonの休日の限られた客で維持していかなければならない。京都市のように年中観光客に恵まれているわけではない。
胃袋に食物なるものが入ったことで一息着けた。お店の向かいの茅葺きの小屋にはWCと書いてあった。昔ながらの汚いトイレと覚悟して入ったらきれいなトイレだった。ちなみに帰り際に駐車場の売店近くにあるたくさんの観光客が利用するトイレに入ったが、古く薄汚れていて思わず息を止めたくなるようなトイレであった。
この地区の住人が農業などを営んでいる。但し、1993年国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されているため、開発はおろか、住居の改築には厳しい制限があり、特に外観は現状維持が求められる。唯、かやぶきは15年前後くらいに更新が必要で材料の高騰、職人の高齢化と人手不足に伴い、年々費用は振らみ、小規模の屋根でも2.000万以上と言われている。
この北村地区は小さな集落だが、民宿を営んでいる所が数件ある。他に小さな藍美術館や美山民俗資料館がある。どちらにも立ち寄ったが、この村に相応しいほどに素朴でこじんまりしていた。それを見た後、もう空いているだろうとピザカフェさかやに行ってみたが、用意していた材料を使い果たしたのか?Sold out、 店は閉じていた。考えれば遅すぎたlunchであった。腹はまだ空いていたが、店側も客の人数など読めるはずがなく、ましてやコロナ禍であれば尚更である。
『まあ、いっか』と自分に言い聞かせた。駐車場にある売店に行くことにした。
駐車場の売店は観光客でごった返していた。弁当類は売り切れ、美山牛乳・美山プリン・美山ヨーグルトなど地元の特産品が売っていた。その中で美山ヨーグルトを口に入れ、腹を満たした。広場のベンチは人で溢れ、仕方なく立って食べた。
あとは帰りのバスであった。かやぶきの里北でバスを下りる際に帰りのバスについても運転手に尋ねて確認しておいた。
「帰りのバス停はどこにありますか?」と尋ねた。
しかし帰りの時刻は聞かなかった。それはlunchを摂ること、かやぶきの里の施設や里全体を一周するのにどのくらいを要するかもはっきりとわからなかった。だいたい約2時間と踏んでいた。日没までにバスに乗ればなんとかなると思った。
以前、東北旅行に行った時、東北新幹線の七戸十和田駅(新幹線単独駅)で下りた。駅前には大駐車場を備えた県内有数のAeonイオンがあり、たくさんの客がいた。新しく立派な駅のロータリーにはいくつかのバス停があったが、誰もおらず、バスの時刻表をcheckするとなんと2時間に1本、しかも最終はpm7時台とあったので驚いた。新幹線を利用する人、Aeonに買い物に来る人のほとんどが車で乗り着ける。バスを利用する人は高齢者・学生など限られている。こうした経験から、たとえ新幹線の駅であっても地方では最終バスがずいぶん早く終了することを知っている。
帰りのバス停に行ってみた。あの常照皇寺(山国)のバス停と同じく、そこは待合所となっており、座布団も敷かれていた。違っていたのはゴミが散乱していたことが残念だった。バス到着時刻まであと20分ほどであった。このバス停の裏手には由良川の河川敷が広がり、白い石がゴロゴロしていた。丹波山地からの清らかな水瀬の恵をいっぱいに受け、すぐそばには橋が架かっていた。
僕はその橋の真ん中から由良川の先(川上・川下)を観んだ。山と川以外何も無い。真に大自然の中でここに立っているだけで心が洗われるここちである。大きく息を吸った。空気が澄んでいて美味い。緑と茶色だけで描けそうな山と川と里、古の旅人が辿ったこの風景に思いを馳せた。
そういえば道中に【大自然を破壊する北陸新幹線美山地区通過反対】の看板があちらこちらに掲げられていたなあ!敦賀から小浜を経由し丹波山地をトンネルで抜き、京都市街地を大深度地下を掘り、京都駅を通り学園都市線長尾駅付近を経由し新大阪に向かうというルートだ。ここでは詳細を避けるが、僕も反対の立場を取る。その理由の一つが環境破壊で大自然が損なわれるからである。工期・工事費用・採算的にも米原ルートが最適であると考える。
やがてバスが来た。乗客がひとりだけ乗っていた。
→chapter 3-7 日吉駅
追伸
かやぶきの里の前を鞍馬街道が通っている(府道38号)。これには違和感を感じる。僕は鞍馬街道というのは、京都市(都)の鞍馬口から鞍馬寺までを指すものと理解していた。しかし地図上、府道38号線、堀川五条から上賀茂、鞍馬、花背を経て、かやぶきの里を通り162号線までとある。これでは府道38号線そのものではないか。
考えれば周山街道も周山を過ぎて尚小浜までの162号線全線を言うではないか。鞍馬街道 何故か響きが良い。観光客誘致という点でも良いnamingだ。小浜から見て鞍馬へ通じる道という点では間違ってはいない。それでも尚、違和感を覚えてしまうのは都人の勝手な思い込みだろうか?