周山街道をゆく chapter3-5 かやぶきの里(2)
→chapter3-4 かやぶきの里(1)
バスは西へ向かった。
後日、Google mapでこの日通ったrouteを辿ってみた。やはり❗️かやぶきの里に行くのならあの乗り換えた京北病院のバス停から周山街道(162号線)を通った方が早道だし、道路も整備され走りやすい。乗車したバスはやたら点在する集落への迂回が多く、よそ者にとって今どこを走っているのか、車窓からは想像できなかった。このバスはかやぶきの里に行くためではなく、地域の生活の足として巡回する中の一つにかやぶきの里があったに過ぎない。
バスは小さな峠らしきところを超えると車窓から小川が見え、しばらくはその小川に沿って走った。その集落で熟年の女性がひとりの乗客が乗り込んできた。そして次のバス停でひとり、またひとりと女性ばかりが乗り込み、常連客のようで運転手に会釈し、後部座席に座った。
さらにバスは道なりに進み、信号機のない三叉路に差し掛かると車が途切れたところを見計らってバスは右折した。道路標識は美山方面を示していた。今まで走って来た道より幾分交通量が増えたようにも思えた(府道19号)。
バキバキバキ、エンジン音がトンネルの中で大きく反響した。バキバキバキ、反対車線をツーリングtouringを楽しむ若者たちとすれ違った。後日Google mapでこのトンネルが分水嶺であることを知るのだが、この時はあとどのくらいで着くのかが最大の関心事であった。
それはたいへん腹が空いているからに他ならない。この日(10月2日土曜)は半日で仕事が終わり、思いついたようにJRバスに乗ったことはchapter3-1で述べた。もうPm3時近くになっていた。マイボトルmy bottleのお茶以外は口にしていない。
川はくねくねと蛇行して少しずつ川幅が広くなった。その川は由良川(1級河川)と合流した。水量が全然違う。由良川は丹波山地から美山、綾部、福知山を経て、日本海側に注ぐ。バスは川の流れと逆に進んだ。もう美山地区に入っているのだろう。
バスは信号のない三叉路で一時停止した。そして車が途切れたところでゆっくりとハンドルを回して右折した。標識は162を示した。162⁉️、なぜ162号線(周山街道)なのか⁇。戸惑った⁉︎ 結局、このバスは大きく迂回して来ただけなのだ!
『次はみやま道の駅』とアナウンスが流れた途端、下車を知らせるランプが付いた。僕もここで降りてみるか?腹が減りまくっている。道の駅なら食事するところもあるはずだ❗️。道の駅からかやぶきの里まであとどのくらいあるかわからない⁇ 次のバスはいつ来るのか⁇⁇
「かやぶきの里には食べるところはありますか?」道の駅に停車した時に運転手さんに聞いてみた。
「かやぶきの里に食べるところはあります」と運転手さんが言ってくれたので安心した。他の乗客は皆、道の駅で降りた。買い物に行くのだろう。道の駅は地元のJAの採れたての食材を安く直売している(地産地消)。観光客だけに留まらず、近隣の人も重宝している。
大手スーパーの店頭では見掛けることはないが、美山ブランドとして美山牛乳と美山平飼いたまご(美卵)がある。僕が以前オーガニックグロサリーストアoraganic grocery storeで働いていた時に毎週木曜日,美山から納品と集金を兼ね、やって来るおじさんがいたことを思い出した。美山(美しい山)、牧歌的でどこか響きがよい。
おじさんは朝獲れの平飼たまごを持参していた。こちらも人気商品だ。値段は少々高いが、新鮮さと平飼いたまごという事があり、毎回入荷を待ちわびている美卵ファンもいた。
おじさんは用事を済ませると大通りの店の軒先で露天商に変身した。通りを行き交う人たちを相手に平飼いたまごや自家製の鯖寿司や椎茸、松茸など山の山菜を販売した。
京都人は鯖寿司が大好物だ。かやぶきの里は『西の鯖街道』とも言われている。京都へは最短距離ではあるが、険しすぎる峠(五波峠)を越えなければならず、広河原・花背・鞍馬(府道38号鞍馬街道)を経て京都に入る。しかしほとんどの商人・運送業者は険しい峠もなく、谷を通過するルート、朽木越え(国道303)から途中峠、大原(国道367号)を経て京都(出町)に入った(正規鯖街道)。
ある時「美山からここまでどのくらい掛かるのですか」と尋ねてみた。
「約1時間」と答えた。京都縦貫道が整備されているとはいえ、老ノ坂から国道9号線の京都市街地を横断して来なけらばならず、美山という雪国のイメージからして意外にも早く来れるなあと感心した。
『ここまで運んでよく採算が取れますね』と喉まで出掛かったが、押し留めた。厳しいものがあるに違いないと思ったからである。
地元の少ない人口での消費は限られており、大消費地の京都市まで出向かないと量が裁けないのは平安の昔と変わらない。只、各地方と高速道路で繋がったため身近な乳製品のライバルは逆に増え、高品質・低価格の競争の中で格段の厳しさが増している。
代わりに「え、そんなに近いのですか?」と僕は驚いたように言った。
おじさんは笑った。
「美山ってかなり雪が積もるのではないですか?」と僕は尋ねた。
冬の天気予報では府内一の積雪を示している。
「最近はあまり積らなくなりました」とおじさんはきっぱり答えた。
昨今、冬場タイヤチェーンを着けるほどの日は少なく、雪国の主要道路には溶雪スプリンクラーが埋設されているので意外と溶けるのは早い。第一、温暖化の影響はもろに受けているようである。
「美山って確か、日吉ダムがありましたね」
とっさの思いつきで言った。もう40年くらい前に独身の男友だち5人で周山にドライブに行った際、日吉ダムの標識がみつけた。絵はがきのような『美しいダム湖』の景色を見たさに行ってみることになった。今のように何でもググればgoogledすぐ答えが見つかる時代ではない。
期待していたものは何もなかった。むしろ愕然とした。数日前に大雨が降ったこともあり、ダム湖には散乱した材木や枝🌲が湖面を埋め尽くし、薄汚れてただの水瓶であった。結局ダムの側道を走り去っただけで終わった。現在はスプリングパークとして整備され、府内有数の道の駅ができている。
『それは大野ダムのことではないですか」とおじさんは微笑を浮かべて言った。
大野ダム? と言われてピンと来なかった。この時、僕は美山の地形を正しく理解していなかった。日吉ダムは大堰川・桂川系で淀川となり大阪湾に注ぐ。これに対して大野ダムは由良川系で日本海に注ぐ。美山は由良川の水系に属する。
僕の頭は混乱した。これまで様々な所をドライブし、方向音痴の人に向かって『僕の頭はナビ(自称)』と自慢して来ただけに・・・。
「勘違い、勘違い!」と僕は頭を撫でて笑った。
「あ、ハハハ」おじさんも笑った。僕の美山の知識はこの程度であった。
バスは数分程度、道の駅で停車し、時刻表とおりに出発した。乗客は僕だけになった。
chapter3-6 かやぶきの里(3)→
余談ですが、
毎日のようにTV newsで高齢ドライバーによる暴走事故が報道されている。車止めを乗り越えコンビニに突っ込み、店にいた客が死傷、ブレーキ痕なし。本人が怪我をするだけでなく、周りの被災した人・その家族の人生をも狂わせる。その罪は重大である。重大事故を起こす前に家族に説得され、免許を返納する人は増えているものの、一方で独居老人が増え、生活の足を奪われ何をするのも不自由で困っているという人も少なくない。そんな中、南丹市市営バスはけして財政が豊かではないのに補助金で運営され、福祉バスとして地域の足になっている。素晴らしいことではないか。それでも残念ながら利用者はまだまだ少ない。暴走する高齢ドライバーと世間では騒がれているのに免許証をなかなか返納したがらない人が多いのが現実である。そしてほとんどの地方の自治体では財政難を理由に代替え公共交通手段の整備が進んでいない。