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近江をゆく chapter 1-1 駅リンくん

「電動自転車はありますか?」

僕はレンタサイクルの受付で尋ねた。建物の中は薄暗かった。ざっと50台くらいはあるだろうか、同じ色の1万を切る価格の安い自転車がよく入ったなあと思えるくらいに隙間なく並べられていた。僕の声を聞くなり、受付のいかにもシルバーと呼ぶのにふさわしい男性(おじさん)が振り向いた。

「電動自転車は出払っています」と答えた。

電動車を何台所有しているだろう。見るからにrareな存在に思えた。現在、レンタサイクルの主流は電動自転車だ。京都市街ではちょい乗りちょい捨てに便利なLuupやHellowなどスマホで全てが完結できるserviceが充実している。

近江八幡市街には坂らしきものあまりない事を知っていたので電動でなくてもと良いかと思い、

「では、それで(city cycle)でお願いします」
と言うとおじさんは早速手続きに入った。

「ここに書いてください」と最初に紙切れを渡された。名前、住所・・・。

僕はいつも中京区から書く。京都市は住所が長いこともあり、北区南区なら他の大都市にもあるが、中京区はない。郵便番号も書いているのだからこれでわかるだろうという変なこだわりを持っている。

「運転免許証を見せてください」とおじさんは言った。

「IDですか?」と聞き返した。

万が一乗り逃げされた場合に備えて記載住所に間違いはないかcheckせよとmanualに書いてあるのだろう。

「いえ、運転免許証です」と重ねて言った。

『なんだ*IDを知らないのか?』心の中で思った。最近は運転免許証を提示する機会がほとんどない。どこだっけ?・・・。

リュック(backpack)の内pocketの中に手を突っ込み財布を探した。もっとも現金を入れてない財布ではあるが・・・、あった! 手の感触でわかる。それを取り出した。以前はその財布はズボンの後ろポケットに入れ、たくさんのpoint cardやcash cardとcash(札)を入れていた。そのpoint cardもcash card,それにcashを持ち歩かなくてもスマホアプリで用が足せる。

「はい」と差し出した。おじさんは免許証の住所とを照合すると

「ありがとう」とすぐさま返して来た。

その時、『当店はcashlessの店です』と表示が目に入った。cashlessか、ありがたい。最小限のcashしか持ち合わせていない。その横に1日500円との記載があった。短時間(ちょい乗り)なら割高だが、ほぼ1日乗るならかなり🉐料金設定だ!

「レンタル代はいくらですか?」と念押しを含めて聞いた。

「500円です」と答えた。

「但し」と付け加えた。

「現金は取り扱ってはいません」と言い放った。

『はぁ』と思わず言いそうになった。とにかく驚いた。ここは地方都市の駅のレンタサイクル店である。確かにcashlessの店は増えた。しかしそれらは現金との併用であり、今も現金派の人の多い。そういう人は借りに来ないのか?

なるほど完全cashlessにすれば強盗に襲われる心配もない。店員のちょろまかし(横領)も防げる。そればかりか帰る前に現金と売り上げ金額の照合並びにお釣り銭の管理も要らない。実に合理的である。

「D-payは使えますか?」paypayでも良かったが、D-pointが溜まっていたのでそれを使うことにした。

「D払いですね。OKです」と軽く答えた。なんでも来い! と言わんばかりである。あらゆるcashless決済が使えるようだ。

「読み取ってください」と僕はスマホを差し出した。おじさんは慣れた手つきでBar codeを読み取った。
「500円ですね」と確認しながら金額を入れ、おじさんに見せた。
「はい、払います」とボタンを押すと瞬時に決済された。

「領収書は要りますか?」と聞かれたので
「はい、要ります」と答えた。

その領収書receiptには*JR西日本レンタカー&リースとあった。うむ、JRが運営してるんだ!その存在ですら知らなかった。後でわかったことだが、駅リンくんは京都市にはない。

駅リンくんreceipt

「自転車はそこにあります」と指差し、
「こちらがカギになります」と番号のkeyholderを渡された。

振り向くと1台だけ出入口の横に置かれていた。おそらく次の客のために予め用意しておいたものだろう。おじさんは思い出したように

「万一パンクをした場合でも最寄の店で修理せず、ここに持って来てください。他所で修理されても代金は払えません」と念を押しするように言った。

「わかりました」と答えた。

最近のタイヤはすぐに空気が減らないような構造になっている。それはそれで助かるのだが、パンクしているとは知らず、何か今日は坂道を上がるのはしんどいなぁ的な感覚で何日か走り続けているとtubeまでイカれてしまうことがあるから厄介だ。押して歩くのは面倒だし、無理繰り乗って帰って来る人が多いことだろう。おそらくパンク車は暇な時にこのおじさんが修理するのだろう。

「あっ、それから万一盗難や事故にあったりした場合、ここに電話してください」と電話番号を表示したステッカーを指さし、
「電話番号はその控え(1回利用カード)にも書いてあります」と念を押した。

駅リンくん1回利用カード

ふん! 誰がこんなぼろ自転車を盗むことがあろうか?(自転車を貸して頂きながら失礼な言い方ですみません)。ましてや治安の良い滋賀県である。と思ったが・・・、

貸していただいた自転車(駅リンくんのレンタサイクル)

「はい、わかりました」と答え、小銭入れの中に控え(1回利用カード)とreceiptを仕舞い込んだ。

自転車には”159”のシールが貼ってあった。おじさんは『いつ頃戻るのか』とか、『どちら方面か、行き先はどこだ』などとは聞かなかった。普通は何かあった時のために把握しておく必要がある(GPS搭載車ではないため)と思うのだが、聞かないなら、まぁ良いかと言い聞かした。前カゴにリックを入れて、さあ出発だと思った時、

「サドルの高さは合っています」とおじさんの声が聞こえた。

サドルの高さは合っている?

おじさんは僕が来てからサドルを調整しているところを見ていない。するとこの自転車は次に来る客の身長を予想して置いていたのか⁉️。僕の家内の自転車は遠くに行く時は乗らないようにしている。サドルの高さが合わないからだ。調整すれば済む話だが、それを元の高さに戻す時、微妙に違っていてやんわり文句を言われることがある。だから触らないようにしている。

その言葉が頭に残った。僕は一言も発せず、自転車を引いてまずは外に出た。『気をつけて行ってらっしゃい』的なことをおじさんから言われたかもしれないが、思い出せない・・・。

ブーメラン通り(県道502)
随所に彫刻像が設置されている

そして自転車に跨いで漕いでみた。漕いだ。続けて漕いだ。サドルの高さはなんと寸分の狂いもなくピッタリフィットJust fitした。

「すごいな」の一言を発した。あのおじさんは千里眼なのか?

駅前の道(ブーメラン通り)を湖岸に向けて走り出した。目指すは八幡堀である。

外は秋の日差しが受け、少し眩しいくらいであった。

駅前のブーメラン通(県道502号)の花壇
近江八幡のmain street


2024年10月13日(日)快晴の中、3連休の穴場狙いもあり、僕は近江八幡に行った。車では数え切れないくらい市街地を通っているが、その市街地を観光するのは初めてである。近江八幡は豊臣秀次が造った街と言われている。あの明智光秀の坂本城と同じく、城下に琵琶湖より水を引き入れ運河を通し、安土より多くの商人を呼び寄せた。これが近江商人の発祥の地と言われている。僕はこれらは豊臣秀吉の指示による政策を秀次が実行したものと考えている。

近江商人発祥の地の碑
近江八幡駅前

いずれにせよ、近江八幡市では、豊臣秀次とヴォーリスが町のHero的存在である。他に和洋菓子”たねや”の本店とその”たねや”の”ラコリーナ”が有名である。逆に言えばそれだけの町なのである。

僕は昼前にJR近江八幡駅に着いてすぐ、構内のSeven elevenでおにぎり3個と野菜ジュースを購入した。それから駅前の暇そうな観光案内所に入り、観光地図を取るとすぐ出て、となりのレンタサイクル場へ入った。

「電動自転車ありますか?」・・・


chapter1-2 八幡堀→

JR近江八幡駅


余談ながら
*ID=Identification card 身分証明書である。運転免許証はそのひとつに過ぎない。他にもMy number card(マイナ)やPassportなど本人であることを証明できるものがある。ちなみに電子マネーIDはNTTdocomo系でおサイフケータイの実用化として2005年にservice開始した。現在ではNTTdocomo系d払いに統合されつつある。

*駅リンくんには1ヶ月定期利用2500/月がある。これは自分の自転車を駅の駐輪場に預けるより安いとされている。50台近くあったのは平日、通勤・通学に利用する人が多いのだろう。郊外の駅にこのsystemで営業している所が多い。尚観光客向の1回貸しはJR西日本管内の主な駅に点在するが、撤退している営業所もあるので要事前check。又、完全cashlessなのは近江八幡店のみである(2024年10月現在)→同年9月末までは現金と併用していた。パンク修理は当店にお任せとhomepageにはある。






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