医師国家試験お薬対策:メトトレキサート
⓪はじめに
とても大事なこと。
「メトトレキサート」は一般名
「メトトレキセート」は商品名です
つい最近まで私は“methotrexate”の読み方が2通りあるんやなと変な勘違いをしていました。反省です…
医師国家試験で押さえるべきポイントは以下
①機序:直接は問われないが、知っていれば余裕の問題もある。
②適応:国試的には関節リウマチ、絨毛癌、脳腫瘍が出題済みだが、もっとある。
③副作用:今後出すとしてこれ。114回では妊婦に禁忌、MTX関連リンパ増殖性疾患が出ました。どちらも正答率は高くないので今後も出るのではないかと考えられます。
①機序
メトトレキサート(以下MTX)はジヒドロ葉酸レダクターゼを競合阻害する葉酸代謝拮抗薬です。これを阻害するとDNAの原料であるチミジル酸(塩基のチミンに必要)が出来ないため、細胞増殖がストップし抗腫瘍効果を発揮します。
余談ですが、細菌や真菌、原虫のジヒドロ葉酸レダクターゼをターゲットとする薬もあります(トリメトプリムは知っておいてもいいですね)。
5-FU(フルオロウラシル)は抗癌剤ですが、これは細胞内に取り込まれるとF -dUMPとなり、チミジル酸シンターゼを阻害して抗腫瘍効果を発揮します。
葉酸代謝を阻害するため、MTX投与時には葉酸を併用します(過剰投与時には後述のロイコボリンレスキューも)
MTXはDNAの複製、細胞増殖に必要というわけです。そうなると細胞増殖が特に盛んなもの、つまり胎児にとっては危険な薬となるわけです。ゆえに妊婦に禁忌です。また、母乳移行もあるため授乳婦にも禁忌です。
114A11 挙児希望のある関節リウマチの女性に対して,妊娠前にあらかじめ中止すべき治療薬はどれか.
a タクロリムス
b インドメタシン
c エタネルセプト
d メトトレキサート
e サラゾスルファピリジン
もちろん正解はdです。 日本では承認されていませんが、中絶でも用います。後述しますが、絨毛癌や異所性妊娠でMTXを用いるという話も同様と考えれば分かりやすいですね。
(参考)中絶で用いる薬
⇨ mifepristone(プロゲステロン受容体のinhibitor) or MTX +misoprostol(PGE1アゴニスト)
また、メトトレキサートには抗炎症作用があります。その作用から関節リウマチに用いることは有名ですね。
参考(読み飛ばしてOKです):MTXがamino-imidazolecarboxamide ribonucleotide (AICAR) transformylaseを阻害⇨AICAR↑⇨AICARがAMPデアミナーゼを競合阻害⇨AMP↑⇨アデノシンの細胞外遊離↑⇨免疫細胞(好中球やマクロファージ、樹状細胞など)の活性↓
②適応と禁忌
医師国家試験の過去問では
適応として関節リウマチ、絨毛癌、脳腫瘍
禁忌として妊娠(①参照)
が出題済みです。
111I58 関節リウマチの患者にまず行う治療はどれか.
a 金製剤筋注
b 抗菌薬経口投与
c コルヒチン経口投与
d メトトレキサート経口投与
e シクロホスファミド経口投与
正解はd ガイドラインのアルゴリズムを以下に示します(ガイドラインは無料で公開されています)
https://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0064/G0000706/0011
効果発現に2週間から1ヶ月ほどかかるため、患者への説明に注意です。投与は1週間に1〜3回パルス状に投与します。
80A48 絨毛癌の化学療法として有用な薬剤はどれか.3つ選べ.
a ブレオマイシン
b メトトレキサート
c アクチノマイシンD
d エトポシド
e マイトマイシンC
正解はbcd
108I33 妊娠性絨毛癌に用いる薬剤はどれか.2つ選べ.
a メトトレキサート
b マイトマイシンC
c アドリアマイシン
d アクチノマイシンD
e 酢酸メドロキシプロゲステロン
正解はad
注意点として、基本的に絨毛癌に対してMTXは単剤では用いません。Act-Dやエトポシドを併用します。一方、侵入奇胎ではMTXまたはAct-Dの単剤投与です。国試で引っかけてくることはないと思いますが、学内試験対策として知っておいてもいいかもです。
99A1 異所性妊娠への対応として適切なのはどれか.2つ選べ.
a CA125測定
b 子宮頸部細胞診
c 子宮内膜組織診
d メソトレキセート投与
e 腹腔鏡下手術
正解はdeです(てかd、商品名で出とるな……)。
112A40 PCNSL(中枢神経原発悪性リンパ腫の治療として適切なものはどれか
a 抗菌薬投与
b 開頭腫瘍摘出術
c アシクロビル投与
d 定位的放射線治療
e 大量メトトレキサート療法
正解はe PCNSLについて簡単に解説します。
☆PCNSL
・文字通り、脳に原発する悪性リンパ腫です。
・90%以上は非ホジキンリンパ腫であり、そのうち90%以上はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)です。好発は高齢者です。EBV感染が関連するものもあります。
・手術で取り切れるものではないため、治療は化学療法と放射線治療が基本です。ゆえに上の問題の選択肢bは誤りです。
・治療の流れは
手術で生検⇨病理で確定診断⇨化学療法(MTX)⇨放射線治療(全脳室照射+部分照射)
・MTXの効きが悪い時はリツキシマブ(抗CD20抗体)も有効です。ただしCHOP療法は基本的に無効です。112A40でもわざわざCD20陽性と書いてあるため押さえておきたいかと。ステロイドは腫瘍縮小効果は期待されますが根治は出来ません。
・眼内リンパ腫を含む全身の悪性リンパ腫を合併しうるため、眼科へのコンサルトとPETで検索することが重要です。また、ぶどう膜炎で発症することもあります。
115D22
中枢神経原発悪性リンパ腫について正しいのはどれか。2 つ選べ。
a 若年女性に好発する。
b 初発症状にぶどう膜炎がある。
c 大部分は B 細胞リンパ腫である。
d 診断時に約半数で全身転移を認める。
e 副腎皮質ステロイドは根治的な治療薬である。
正解はbcです。
その他の禁忌
・腎障害(eGFR30未満で禁忌)
・肝障害
・活動性結核などの感染
・腹水、胸水(胸水・腹水中から血中にMTXが一気に戻ると副作用大)
あたりが有名です。
③副作用
(ア)MTX関連リンパ増殖性疾患
114D51 関節リウマチに対して、プレドニゾロン、メトトレキサート及びNSAIDによる治療を継続中の70歳女性が1週間前からの発熱、両頸部、両腋窩、腸間膜、縦隔のリンパ節腫大をきたした。まず行うべき対応はどれか。
a NSAIDの中止
b JAK阻害薬の追加
c 抗TNF-α抗体の追加
d プレドニゾロンの中止
e メトトレキサートの中止
正解はe
メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患(MTX -LPD)は文字通りMTX療法経過中に認めるリンパ増殖性疾患です。MTX以外の免疫抑制剤でも起こりうるため、まとめて医原性免疫不全関連リンパ増殖性疾患といいます(長え…)。MTX治療中に原因不明のリンパ節腫脹、発熱、盗汗、体重減少、白血球分画異常、血球数減少などを認めます。MTX中止で半数ほどで改善しますが、2週間経過観察しても改善を認めなかったら生検して結果に応じて化学療法を行います。
今後追加で今後聞かれうることとしては、
・リンパ腫の種類としてはびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の割合が多い
・節外病変での発症が多い(皮膚や咽頭など)
・EBV関連がある
・MTXの用量に依存しない(⇨MTXは減量ではなく中止)
あたりでしょうか。
(イ)粘膜障害(口内炎、消化器症状)
MTXの有害事象に粘膜障害があります。後述する骨髄抑制とともに、易感染性をきたす病態のため口腔内ケアが必要です。
80B48 抗腫瘍薬と副作用との組合せについて適切なのはどれか.3つ選べ.
a ビンクリスチン - 肝障害
b 6MP - 肺線維症
c シクロホスファミド - 出血性膀胱炎
d メトトレキサート - 口腔粘膜潰瘍
e アドリアマイシン - 心筋障害
正解はcde 特に eは近年の国試でも出ているため、トラスツズマブと同様に押さえておきたいです(機会があればまとめます)。
参考:口内炎、口内腫瘤が1ヶ月も続いていたら(ア)のリンパ腫の可能性も考え生検も検討します
(ウ)肺線維症(MTX肺炎)
関節リウマチでMTXを用いて治療中の患者で間質性肺炎となると、
・関節リウマチの関節外症状としての間質性肺炎
・易感染性のため、感染性で間質性肺炎
・MTXの副作用としての間質性肺炎
の鑑別が必要になります。経過やBALF(MTX肺炎ならリンパ球優位)、細胞診、培養陰性、採血で好酸球↑など総合的に判断していく必要があります。
MTX肺炎を疑う場合はMTXを中止して肺炎の改善が見られるか試します。
MTX肺炎と関節リウマチの肺炎はどちらもステロイドが有効です。MTX中止で改善が見られなければステロイド投与が行われます。
MTX肺炎は用量非依存性で葉酸(後述)での予防はできません。
リウマチ性肺疾患(間質性肺炎)がある場合はMTX肺炎のリスクが高くなるため、MTX投与前には必ず胸部X線を行う必要があります。
参考:MTX肺炎のリスクとして
高齢者 (odds ratio [OR] 5.1 [95% CI, 1.2 to 21.1])
糖尿病(OR 35.6 [CI, 1.3 to ∞])
リウマチ性肺疾患胸膜疾患 (OR, 7.1 [CI, 1.1 to 45.4])
DMARDs使用歴(OR, 5.6 [CI, 1.2 to 27.0])
低アルブミン血症 (OR, 19.5 [CI, 3.5 to 109.7])
があります
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9273826/
また、国試にはまだ出ていませんが、線維化するのは肺だけでなく、肝臓もです。副作用に肝機能障害があることは重要です。
(エ)骨髄抑制(巨赤芽球性貧血)
MTXは葉酸拮抗薬ですから、葉酸↓で生じる巨赤芽球性貧血は考えやすいと思います。骨髄抑制はMTXの用量に依存するため、腎機能が低い場合は特に注意が必要です。
MTXを投与する際は、有害事象に予防のために葉酸製剤を投与します(正確にはMTX最終投与後24〜48時間以内に投与)。
その他の副作用
・肝障害:ウイルス性の場合もあるため、HBs抗原やHCV抗体の検索を
・易感染性
・脱毛 など
【補足】
・腎機能障害に禁忌
103回薬剤師国家試験 必修 第70問
重篤な腎機能障害のある患者に禁忌となっている薬物はどれか。1つ選べ。
1 アレンドロン酸
2 チクロピジン
3 メトトレキサート
4 クエチアピン
5 シルニジピン
正解は3です。 医師国家試験112A23では、腎障害(顕微鏡的多発血管炎)の外れ選択肢にMTXが書かれています(禁忌判定はされていないと思いますが…)。今後直接的に聞かれうるため注意が必要と考えます。
・ロイコボリンレスキュー
ロイコボリン(一般名ホリナートカルシウム)はMTXによる重篤な副作用が出現した際に、有害事象軽減を目的にMTXの3倍量を投与します。また、MTX排泄を促進するために輸液と尿アルカリ化も。
ロイコボリンは体内で代謝されメチレンTHFとなります。下図に示すように、MTX投与でストップしていたdUMP⇨dTMPの反応が、ロイコボリン投与によって再スタートするため有害事象↓の効果があります。
また、ロイコボリンは5-FUの作用増強効果があります。これはF -dUMP(チミジル酸シンターゼの自殺基質として作用)、チミジル酸シンターゼ、メチレンTHFの強固な結合を作ることに起因します。
・用量依存性の副作用
骨髄抑制や口内炎は用量依存性です。これらは葉酸投与や投与量の減量によって軽減することができます。葉酸欠乏の多いアルコール中毒者や、MTXの排泄が低下した腎機能低下者では注意が必要になります。
一方、間質性肺炎やリンパ腫は用量非依存性のため、疑われる場合はMTXの減量ではなく中止が必要です。
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