医師国家試験お薬対策:ワルファリン

ワルファリンの機序(細かな止血機序は省略)

・ビタミンKはグルタミン酸残基をγ–カルボキシグルタミン酸に変える酵素の補酵素です。

・凝固因子の一部(Ⅱ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ)はN末端のアミノ酸がグルタミン酸からγ–カルボキシグルタミン酸となることによって活性型となります(γ–カルボキシグルタミン酸残基を末端に持つことでCaが結合できるようになります)。

・凝固活性のない(N末端がグルタミン酸の)Ⅱ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ因子をPIVKAと言います。

・その反応の補酵素にビタミンKが必要です。補酵素として使われたビタミンKはビタミンKエポキシドとなり、それは還元酵素で元に戻ります。この還元酵素を阻害するのがワルファリンです(下図参照)。

画像1

ビタミンK

・ビタミンKは腸内細菌によって産生されます。腸内細菌叢が未熟な新生児ではビタミンKの合成ができずに欠乏に陥ります。また、母乳中にはビタミンKが少ないことも欠乏の原因となります。そのため、新生児ではビタミンK2シロップを出生当日、1週間後(産科退院時)、1ヵ月後(健診時)の3回投与します。

・ビタミンKの吸収には胆汁が必要です。そのため、胆汁鬱滞がある場合はビタミンKの吸収ができず、ビタミンK欠乏を起こします。

抗菌薬(メトロニダゾール、マクロライド、ニューキノロンなど)の投与はビタミンKを産生する腸内細菌を死滅させ、ビタミンK欠乏の原因になり得ます。

ワルファリンの使用方法と注意点

・ワルファリンは経口投与が可能で1日1回投与です。

・効果発現まで3日ほどかかります。(第Ⅱ因子の半減期が長いため)

・半減期はⅦが最も短いため、ワルファリンのモニタリングは外因系のPT–INRで行われます。多くは2〜3ですが、高齢者の心房細動では1.6〜2.6です。

・抗凝固因子のプロテインSとプロテインCもビタミンK依存に活性型となります。ワルファリンを投与してすぐの段階では、
プロテインS/Cの抑制>凝固因子の抑制
となるため一過性の血栓傾向となります。特にプロテインC/S欠乏症ではハイリスクとなるため注意が必要です。そのため、急性期にはヘパリンの先行投与を行う場合があります(ヘパリンブリッジ)。

・ワルファリン使用中に重篤な出血が起こった場合は拮抗薬を用います。

拮抗薬はビタミンKですが、作用発現に時間がかかるため時間をかけられない場合は凝固因子を直接補充します。その際は新鮮凍結血漿や、あるいはⅡ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹの4因子を含有している製剤を使います。

・ワルファリンは催奇形性があるため妊婦には使えません。ヘパリンは使えます。

・ワルファリン使用中は納豆などのビタミンK含有食品の制限が必要です。

・CYP2C9で代謝されるため、他の薬物との相互作用で作用の増強/減弱が起こり得ます。

ワルファリンの副作用とその対応

出血:PT–INR高値の場合や、脳出血を認めた場合はワルファリンの中止、拮抗薬であるビタミンKの投与を行います。

・血栓症(皮膚壊死):プロテインC欠乏症やプロテインS欠乏症において、ワルファリン投与後すぐに血栓傾向となった際に稀に見られます。そのためこれらのケースではワルファリンは最小量から徐々に増やし、ヘパリンを併用します。皮膚壊死を起こした場合はワルファリンを中止し、プロテインCや新鮮凍結血漿の補充を行います。

・高度に腎機能が悪い人では小血管の石灰化(calciphylaxis)が稀ながら起こり、これも皮膚壊死を起こし得ます。

医師国家試験

115D71
ワルファリン投与注の患者でPT-INRの上昇に影響するのはどれか.2つ選べ.
a 腎機能障害
b 入院後の絶食
c 治療前のCRP値
d 広域セフェム系抗菌薬
e 副腎皮質ステロイド薬

正解はbdです。PT–INRはビタミンKを含む食事内容や、抗菌薬によるビタミンK産生腸内細菌の死滅により影響を受けます。

115F47
53歳の男性.心房細動に対するアブレーション治療を目的として入院した.40歳時に僧帽弁狭窄症に対して機械弁置換術が行われワルファリンが開始となった。その後心房細動を指摘されアブレーションが行われた。
退院後のワルファリン治療について正しいのはどれか.
a 継続して行う.
b アスピリンに変更する.
c 動悸出現時に頓服する.
d ビタミンK製剤と併用する.
e 直接経口抗凝固薬[direct oral anticoagulant〈DOAC〉]に変更する.

正解はaです。
b:アスピリンは抗血小板薬です。心房細動では(リスク評価をして)必要があれば抗凝固薬を投与します。
c:ワルファリンは効くまでに何日かかかるタイプの薬です。血栓が出来て、それが飛んでからでは遅いため毎日飲んでください。
d:効果減弱です。
e:機械弁にDOACは禁忌です。

113C56
転倒した高齢者、今後の頭蓋内出血の出現を予測する上で最も注意すべき薬剤内服歴はどれか.
a ワルファリン
b ビグアナイド薬
c カルシウム拮抗薬
d ビスホスホネート製剤
e ベンゾジアゼピン系睡眠薬

正解はaです。ワルファリン使用中は出血リスクに注意が必要です。

113C63
ワルファリン使用中の人の血便。貧血あり。まず測定すべき項目は以下のうちどれか
a PaO2
b PT-INR
c Dダイマー
d 血小板粘着能
e 心筋トロポニンT

正解はbです。ワルファリンのモニタリングはPT–INRです。

112C27
高齢女性が転倒後に打撲部の紫斑、腫脹が出現。関与する薬剤はどれか。
⇨ワルファリン

出血傾向に注意です。

112D19
72歳の女性.動悸を主訴に来院した.5年前に大動脈弁狭窄症に対して機械弁による大動脈弁置換術を受けており,定期的に受診し,ワルファリンを内服している.これまでの受診時の心電図検査では洞調律であったが,来院時の心電図は心拍数104/分の心房細動であった.意識は清明.脈拍96/分,不整.血圧120/76mmHg.眼瞼結膜に貧血を認めない.頸部血管雑音を認めない.呼吸音に異常を認めない.神経学的所見に異常を認めない.血液所見:赤血球468万,Hb 13.7g/dL,白血球7,300,血小板18万,PT-INR 2.3(基準0.9〜1.1).
この患者への対応として適切なのはどれか.
a 止血薬の点滴静注を行う.
b ヘパリンの皮下注を追加する.
c 現在の抗凝固療法を継続する.
d ビタミンKの投与を直ちに行う.
e ワルファリン以外の経口抗凝固薬を追加する.

正解はcです。
高齢者の心房細動ではPT–INRは1.6〜2.6にコントロールします。今回は2.3のため、ワルファリンの量は問題ありません。

111D11
ワルファリンについて正しいのはどれか.
a 直接トロンビン阻害薬である.
b プロテインCの作用を増強する.
c 納豆はワルファリンの作用を増強する.
d 重篤な肝障害の患者では効果が減弱する.
e 薬効のモニタリングにPT-INRを用いる.

正解はeです。
a:DOACのことです。
b:プロテインCはビタミンKが活性化に必要です。ワルファリン投与でプロテインCの作用はむしろ減弱です。
c:納豆にはビタミンKが含まれるため、ワルファリンの作用は減弱します。
d:肝障害があると凝固因子が作られず、結果として活性型の凝固因子が減ります。ゆえにワルファリン作用は増強します(より出血傾向になります)。Child–PughスコアにPT–INRがあることと関連して知っておく必要があります。

109G57
人工弁の種類(生体弁または機械弁)の選択において考慮すべきなのはどれか.
a 挙児希望
b う歯の有無
c 左室収縮能
d 僧帽弁の石灰化の程度
e 三尖弁閉鎖不全症の合併

正解はaです。機械弁を選択すると永続的にワルファリン投与が必要ですが、ワルファリンは催奇形性があるため挙児希望があれば避けたいです。107G56も同様。

108G10
母体から胎児へ移行しやすいのはどれか.
a ヘパリン
b インスリン
c アルブミン
d ワルファリン
e プレドニゾロン

正解はdです。胎盤移行性があり、催奇形性があります。

108G64
転倒患者の頭蓋内病変の重症化を予測する上で,最も注意すべきなのはどれか.
a 健忘
b 飲酒
c 年齢
d 創傷部位
e ワルファリン内服

正解はeです。出血リスクです。

107I41
DVTの診断がついた妊娠8週の女性、治療薬として適切なのはどれか.
a アスピリン
b ウロキナーゼ
c ヘパリン
d 硫酸マグネシウム
e ワルファリン

正解はcです。ワルファリンは妊婦には使えません。

102G55 
65歳の男性.頭痛と右片麻痺とのため搬入された.10年前に高血圧,5年前に心房細動を指摘されており,ワルファリン服用中である.頭部CTで左被殻出血と診断された.
投与すべき薬剤はどれか.
a ヘパリン
b ドパミン
c リドカイン
d ビタミンK
e ニトログリセリン

正解はdです。拮抗薬を選ぶ問題です。

看護師国家試験

102回午後74
出血が止まりにくくなる服用薬はどれか。
1. β遮断薬
2. ジギタリス
3. ワルファリン
4. ループ利尿薬
5. サイアザイド系利尿薬

正解は3です。

102回午前23
ワルファリンと拮抗作用があるのはどれか。
1. ビタミンA
2. ビタミンC
3. ビタミンD
4. ビタミンE
5. ビタミンK

正解は5です。

98回午後95 103回追午後80
術後経過は良好で抗凝固薬としてワルファリンが処方され、退院が予定された。退院後の食事で摂取を控えるのはどれか。
1. わかめ
2. 納豆
3. こんにゃく
4. グレープフルーツ

正解は2です。納豆はビタミンKを含むためワルファリンに効果が減弱します。

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