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スタートアップ紹介⑦「Legion Health」

本記事の概要
本記事では、会社概要、Legion Healthを取り巻く市場環境、米国における精神科受診のフロー、Legion Healthが提供する価値を紹介する。


会社概要

設立年:2021年
所在地:Austin, TX, USA
創業者:Yash Patel, Arthur MacWaters, Daniel Wilson
事業概要:AIを活用した精神科ネットワークで、保険を使える患者に対して、医療提供者を直接管理することでケアを効率化・質向上を図っている。
累計調達金額:$3.7M

Legion Healthを取り巻く市場環境

保険適用と精神科医療のアクセスの問題

  • 低い保険適用率

    • 他の医療専門職の90%以上が保険を受け入れている一方で、精神科医の保険受け入れ率は50%程度に留まっている。

    • 精神科医は、予約管理、請求処理、患者支援といった大きな事務作業負担があり、保険での報酬を受けても利益が少ないため、保険を受け入れたくない傾向がある。

  • 新規患者の受け入れ制限

    • 新規患者を受け入れ可能な精神科医は20%未満で、初診の対面予約の待機時間は平均で60日を超える。

    • 新規患者を受け入れる精神科医の割合が低いのは、精神科医の不足という状況下で、初診相談や診断、カルテ作成に多大な時間と労力がかかることに加え、既存患者の治療やフォローアップケアの負担が大きいことが原因。

      • 他にも、精神科医が患者とのマッチング問題や、すでに定員に達しているか、特定の疾患を持つ患者を受け入れたくないということも精神科医が新規患者を受け入れる割合が低い原因にもなっている。

参考文献

精神科医療のニーズの高まり

  • COVID-19後の増加する需要

    • COVID-19以降、アメリカの成人の約32%が毎年精神的な問題を経験しており、これは約8,300万人に相当。

    • このうち約50%が必要な治療を受けておらず、その中の約25%(約1,000万人)が精神科ケアを必要としていると推定されている(この推定は、トップダウンまたはボトムアップの総市場規模分析に基づいているため確定している数値ではない)。

  • 精神科医の不足

    • アメリカの60%以上の郡では精神科医が不足しており、特に地方部では精神科サービスの著しい欠如が見られる。

https://www.samhsa.gov/data/sites/default/files/reports/rpt39443/2021NSDUHFFRRev010323.pdf

米国における精神科受診のフロー

米国における精神科受診のフローを示した図。青色の部分がLegion Healthが患者および精神科医向けにサービスを展開している

米国における一般的な受診のフロー

  1. 主治医(Primary Care Physician, PCP)*の選択と予約
    患者は最初に保険会社の指定するリストからPCPを選択し、登録する。

  2. 予約
    症状がある場合や定期健診のために、PCPの診察予約を取とる。

  3. 診察
    メディカルアシスタントや看護師が、受診理由を尋ね、身体測定や血圧測定を行い、PCPが診察室で問診や診察を実施する。
    必要に応じて、メディカルアシスタントや看護師が追加の検査や処置を行う。

  4. フォローアップ
    PCPが必要に応じて患者に専門医(精神科医など)を紹介する。
    処方箋が出された場合は、近くの薬局で薬を購入する。

*主治医(Primary Care Physician, PCP)とは?

  • PCPはいわゆる「かかりつけ医」の役割。

  • PCPは、患者が自身の健康状態に関して相談したい場合に最初に連絡を取る「窓口」として機能している。

  • PCPは日々の患者の健康状態を把握し、必要な治療や専門的なケアを受けられるようにサポートする。

PCPが自身のネットワーク内にいる精神科医を紹介するパターン

  1. 患者が精神科医の診察を希望

    • 精神的健康に問題があると感じた患者が、PCPに相談する。

    • PCPが患者の状態を評価し、精神科医の診察が必要と判断されれば、次のステップに進む。

  2. 保険の適用確認(Eligibility Check)

    • 精神科医を紹介する前に、PCPは保険会社と連携して、患者がネットワーク内で適用される精神科医の診療がカバーされるかどうかを確認。

    • 「適用性チェック」は、主治医と保険会社間で行われる。

  3. PCPによるネットワーク内精神科医への紹介

    • PCPがネットワーク内の精神科医を見つけた場合、患者をその精神科医に紹介する。この場合、患者には2つの選択肢がある。

      • 長い待機時間を受け入れる

        • 患者は紹介された精神科医の予約が取れるまで待つ(但し、初診の対面相談には60日以上かかることもある)。

      • 自分で精神科医を探す

        • 初診の診療まで待ちたくない患者は、自分で精神科医を探す。この際自分で険会社と連絡を取り、保険の適用範囲を確認する必要がある。

  4. 精神科医による診察

    • 患者は精神科医から診断と治療を受け、患者は自己負担(co-payment)を支払う。

  5. 保険請求と返金

    • 精神科医は、保険会社に対して診療費の請求を行い、保険会社がその費用をカバーする。

Legion Healthが患者とPCPのために適切な精神科医を探すパターン

  1. Legion Healthへのコンタクト

    • PCPによるLegion Healthの活用

      • 患者が精神的な健康問題を感じ、PCPに相談した際、PCPはLegion Healthに連絡して、患者に適した精神科医を見つけられるか確認する。

    • 患者によるLegion Healthの活用

      • 患者が直接Legion Healthに連絡し、自分に合った精神科医を紹介してもらう。

  2. Legion Healthの介入

    • Legion Healthは、患者の症状に合わせて、ネットワーク内の適切な精神科医をマッチングし、紹介する。

  3. Legion Healthのネットワーク内精神科医による診療

    • Legion Healthのネットワークに属する精神科医が、患者の診断と治療を行い患者は自己負担分を支払う。

  4. 保険請求と返金

    • 精神科医は保険会社に診療費を請求する(この事務業務はLgeion Healthがサポート)。

    • 保険会社がその費用をカバーする。

Legion Healthが提供する価値

Legion HealthのAI機能は、大規模言語モデル(LLM)に基づくマッチング機能から、ケアプロセスの自動化、患者データの分析、リスク評価、継続的な学習と改善に至るまで、精神科ケアの提供方法を根本的に変革している。

患者向けの価値

  1. 迅速な精神科医へのアクセス

    • PCPがネットワーク内で適切な精神科医を見つけられない場合や、精神科医が新規患者を受け入れられない場合でも、Legion Healthを活用すれば、患者は1週間以内に診察を受けることができる。

  2. AIによる最適な精神科医とのマッチング

    • 患者は自分の精神疾患に詳しい精神科医とAIによってマッチングされ、適切なケアを受けられる。

  3. 費用負担の軽減

    • 保険適用を最大限に活用し、自己負担額を30ドル以下に抑えることができる。

  4. 迅速な薬の提供

    • 診察後24時間以内に、患者は薬局で必要な薬を受け取ることができる。

精神科医向けの価値

  1. 業務負担の軽減

    • AIを活用することで、保険請求や患者のフォローアップといった事務作業を自動化し、精神科医は患者ケアに専念できるようにななる。

  2. ケアプロセスの効率化

    • AIによって診断や治療のプロセスが効率化され、精神科医はより正確で迅速な治療を患者に提供することが可能となる。

  3. 患者マッチングの精度向上

    • AIは、精神科医と患者を適切にマッチングすることで、精神科医が自分の専門性に最も適した患者と診療できるようサポートする。その結果、診療の質が向上する

  4. 継続的な改善とデータ活用

    • AIを活用することで患者データの集約と分析が行われ、より深いインサイトが得られる。これにより、精神科医はパーソナライズされたケアを提供し、診療の質を継続的に向上させることが可能となる。

  5. 経済的なインセンティブの最大化

    • AIによる業務効率化により、精神科医は一人当たりの診療患者数を増やすことができ、運営コストを削減しながら収益性を高めることが期待できる

所感

  • Legion Healthは、精神科に特化したAIソリューションを提供することで、患者と精神科医の両方が抱える課題を解決している。このサービスのユニークな点は、単なる患者と医師のマッチングに留まらず、医師に対する業務負担軽減や診療プロセスの効率化を実現している点である。これは、他の多くのメンタルヘルスプラットフォームには見られない重要な差別化要因である。

  • さらに、バーチャル病院として、患者が必要とする精神科ケアをオンラインで一貫して提供できる点も、物理的な処置が少ない精神科ならではのメリットを最大限に活かしている。これにより、患者は迅速に医師と繋がり、適切なケアを受けることが可能であり、精神科医もAIを活用して診療の質と効率を高めることができる。

  • 精神科に特化しているとはいえ、Legion Healthのビジネスモデルは、米国の医療システム全体の課題を浮き彫りにし、その解決策を提示している。そのため、米国のデジタルヘルス領域への参入を検討している企業にとって、Legion Healthの事例は貴重な学びとなるだろう。

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