メルヘンハウスと『ものがたりの家』のこと。
先日、ずっと行きたかったメルヘンハウスに行くことができた。
「子どもの本専門店」であるメルヘンハウスは元々、名古屋の千種に店を構えていたが惜しまれつつも2018年に閉店。その3年後に初代店主の息子さんが覚王山に拠点を移し再スタートさせた。
今度の店舗はマンションの一室で以前のお店と比べると格段に狭く、絵本の数も少ない。でも、限られたスペースなのに面陳で多くの本が並べられていたり、こちらが本を手にすると丁寧にその本の解説をしてくれたりする様子に、店主さんが一冊一冊こだわりをもって選書していることが感じられた。お店であれ住宅であれ、すみずみまで気配りが行き届いている空間には心地のいい空気が流れているような気がする。
そんな素敵な絵本屋さんで一冊の本に出会った。
タイトルは『ものがたりの家 -吉田誠治美術設定集-』。
くすんだ青地のカバーには一風変わった建物がずらりと並んでいて目を惹きつけられる。手にとってページをめくると、左側にはそれらの建物が描かれた風景写真のような美しいイラスト、右側にはところどころに手書きの注釈が加えられた建物の断面図(?)が載っている。絵本かと思っていたので若干面食らったが、この本はアニメーションや漫画に登場する建物の設定集のようである。パラパラとめくっていてわかったのは、それらがすべて実在しない物語に登場する「家」だということだった。
かなりわかりにくいと思うので、ここでは著者の言葉を借りたい。
つまり、その「家」でどんな物語が起きるかはわたしたちの想像にゆだねられている。そして、描かれている「家」はどれも想像力をかきたてるような建物ばかりだ。「家」の名前の多くがその住まい手にちなんでいる。
たとえば、
「憂鬱な灯台守」
「偏執的な植物学者の研究室」
「夢想家のツリーハウス」
「見捨てられた駅の青年」
などがわたしが気になった「家」たちだ。
それぞれについて詳らかに語ってみたいところだけど、ダラダラと長くなってしまいそうだし、その魅力を説明できるような語彙もないのでやめておこうと思う。ちょっとでも気になった方は、ぜひ手にとってみてほしい。
思えば、メルヘンハウスもこの本に登場するようなちょっと変わった「家」だった。先にも書いたようにマンションの一室(1階)なのだが、扉を開けると、一坪くらいのスペースがあり右手側にレジ台などがおいてある(そこに店主さんがいる)。その反対側に下りの階段があり、降りていくとずらりと本が並ぶ空間がある。
半地下のような場所なのに解放感があるのは、掃き出し窓の先が小さな庭になっていることもあるけど、上の階と面するほうの壁に上部がなく空間がゆるやかにつながっていることが大きいと思う。足だけ見える店主さんがいろいろと絵本の解説をしてくれるのも、なんだか面白い経験だった。
想像力こそがわたしたちを遠くへ連れて行ってくれる、なんていう表現は聞き飽きている。でも、この本を手に想像を巡らせるときに、とても遠い場所に来たような感じがしてしまうから、あながち間違ってもいない気がする。そして、そんな想像の旅のよきガイドが本屋さんなのだと思う。
なにはともあれ、メルヘンハウスはとてもいい絵本屋さんなので、みなさん行ってみてください。
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