【選評】第5回青春短歌甲子園
募集期間 2020年10月16日~2020年11月15日
応募総数 103人296首
1位 天乃せつな
夢でさえあなたに会えぬ私より小野小町はずっとしあわせ
時空を超える短歌。世界三大美女にして六歌仙の小野小町が身近な同級生のように感じられます。とはいえ小野さんは千二百学年ほど上なので、ここは小野センパイと呼ぶことにしましょう。夢の歌人とも呼ばれる小野センパイは多くの夢の歌を残しています。
思ひつつ寝ればや人の見えつらむ夢と知りせば覚めざらましを
(あの人を思いながら寝たから夢で会えたのかな。夢と知っていたら目覚めなかったのに)
「いいですよね、小野センパイは」
令和の乙女はたくましい。大先輩にも物怖じせずこの物言いです。卑屈なだけではなく、夢でさえ会えない日々を乗り越えて、いつか誰よりも幸せになってやるんだから!という意気込みを感じさせます。自分が幸せになることを諦めない限り、他人の幸せを妬むのは悪いことではありません。
2位 えみ
セーラーで壇上に立つきみの襟はためくトリコロールのように
きみは令和のジャンヌ・ダルクか。
セーラー服の紺と白、リボンの赤でトリコロール。彼女が壇上に立つと、場の空気が変わったのを皆が実感します。少女が口を開くのを、今か今かと待ちわびます。一瞬の静寂の後、彼女は歴史を動かし始めます。
女性はもはや非力な存在ではありません。女性には攻める戦いと守る戦いの両立ができます。女性は服装自由、男性は出世しやすい会社があったとしましょう。「女性にもチャンスを」と攻めるだけの戦いをしても会社は耳を貸しません。ですが「男性に自由を。女性にチャンスを」と守りながら攻める戦いをすれば、社外からも注目が集まるでしょう。
かつて、男女別校則の廃止を求めて戦った男子生徒がいました。立ち上がったのが女子生徒たちなら校史は変わっていたと、今でも信じています。セーラームーンは作中の敵しかお仕置きできませんが、現実のセーラー戦士たちは世界を変えられます。セーラー服を脱いだ元セーラー戦士も同じく。
えみさんってシンプルな筆名ですよね。歌手にはYUI、miwaという成功例があるので、歌人のえみさんも世界一のえみを目指して頑張ってください。
3位 杏藤ミレイ
教科書に載らない恋を信じたい 王子と魔女が結ばれるとか
惚れ惚れする青春短歌です。青春がつかないもう二つの短歌甲子園ではどのように評価されるのでしょうね。皆さんも一緒に音読しましょう。
教科書に 載らない恋を 信じたい 王子と魔女が 結ばれるとか
美しいでしょう。これが定型の美しさです。不自然な句がひとつもなく、これしかないという表現が選りすぐられています。今回掲載できなかった方の歌には助詞で始まる句や、わかりにくい表現が多く含まれていました。奇をてらった歌は後からいくらでも作れるので、まずは定型でわかりやすい作品を目指してください。
思春期の反抗心とお姫様願望が見事にミックスされています。狼にだって心はあり、魔女だって恋をする。シンデレラのような苦労もしていない現実のお姫様より、ずっとピュアな気持ちを持っているかもしれないのです。
りぼん、ちゃお、なかよし僕の長すぎた春に最後の魔法をかけて 君野シリウス
歌意を同じくする歌です。少女漫画でヒロインと結ばれるのは、同じ学校に通う王子様だけ。例えばヒロインを駐輪場で見かけるだけの男と結ばれるストーリーをひとつくらい掲載してくれてもいいじゃないか。そんな祈りを込めた歌だったのですが、ミレイさんの歌の方がずっとわかりやすいですね。
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