♯2「良縁」を引き寄せるには?
「良縁成就」祈願は、恋愛だけのもの?
●兄・前誠 埼玉県にある上原寺(じょうげんじ)の副住職兄弟ふたりで、お坊さんならではのディープな話題をお届けしていきます。私が兄の仁部前誠(ぜんじょう)です。
○弟・前叶 弟の前叶(ぜんきょう)です。よろしくお願いします。
●前誠 今日は縁についてのお話です。こんな質問をいただきました。
「良縁というと恋愛のイメージですが、『老若男女問わず、自分にとってプラスになる人と出会いたい』という思いで良縁のご祈願を頼んだり、お守りを預かるのはありですか?」
○前叶 手っ取り早く答えを言うと、“あり”です! 世間では恋愛のための専売特許のような、「良縁といえば恋愛でしょう」みたいな側面がありますが。それはもともとの仏教思想の「縁」とは、ずれるんですよね。
日本人特有の「外から入ってきたものを改良していく」というような傾向は、「縁」という言葉に関してもありました。ラーメンみたいなものです。
●前誠 ラーメン(笑)!
○前叶 現代では、仏教としての「縁」の思想とは感覚が離れてきていて。
実は、お坊さんをはじめとしたいろいろな宗教家のとらえる「縁」は、幅が広いと思います。
●前誠 解釈を広げると「人との縁」だけでなくて、あらゆる「事象との縁」もあるよね。わかりやすいところで言うと、プロ野球選手が「野球との出会いは」とか、書道家が「書道との出会いは」とか言うじゃない? それもひとつの縁の形かなと。
○前叶 そういう風に、縁がいろいろなことに適用されているという現状はあるよね。
●前誠 そうそう。縁に関してはいろいろな考え方、とらえ方があると思います。
そもそも「ご縁」「縁起」とは
●前誠 「ご縁」というとなんとなくの「出会い」や「繋がり」をイメージする人が多いと思うけれど、元々は、「縁起」という仏教の教えから派生した言葉。縁起とは、端的にいうと「何ひとつとして独自に存在するものはなく、すべての事柄は、必ず他との関係において存在する」というのが意味するところです。
つまり、何かが「在る」というのは、「原因」があり「結果」がある、因果関係の賜物(たまもの)ということ。この原因と結果をひとつひとつ見つめ直して考えていくと、網の目のような繋がりがどんどん際限なく拡がっていきます。これが「縁起」です。
そして大切なのは、さっき「“他”との関係」と言ったけれど、この「他」には周りの人だったり、モノ、出来事などあらゆることが含まれるということ。なので、つきつめていけば自分自身が「在る」のは、このあらゆる「他」との関係性のおかげということになるわけです。
○前叶 すると、自分を大切にするには、自分自身だけではなくて、自然と「他」=「原因」も大切にすることになる。
●前誠 そうそう。周りにした善いことは、巡り巡って自分のためになりますよと。このように俯瞰した見方にはかなか思い至れませんが、縁起とはそういうものだと思います。
ここで話を戻すと、「縁起」が大きな視点だとしたら、「ご縁」はよりピンポイントな繋がりや出会いというか。肌感覚的にはそのようなイメージかな。
「良縁か悪縁か」は、とらえ方次第で変わってくる
○前叶 ご縁というと私なんかは、こんな風に思っていて。例えば、白いボールが皆さんに向かって10個も20個も絶え間なく飛んでいるとします。自分たちから見える方には、「縁」と一文字だけ書いてある。だけど反対側、つまり自分からは見えない側を見えてみると、良縁なら「良」、悪縁なら「悪」と書いてあったりして。
●前誠 うんうん。
○前叶 一見、表向きは真っ白のボールに全部「縁」と書いてあるけれど、裏側を見るとそれが本質的に、良縁か悪縁かが分かれている。
その「良」のほうのボールを、自分がしっかりキャッチして成就できるかどうか。それを「良縁成就」という風に解釈することもできるよね。
●前誠 なるほど。キャッチ能力を上げるってことね。
○前叶 そう。自分でそれを無事に成就できるかどうか、捕まえられるかどうか。間違って「悪」の方に当たっちゃったりするのは、事故。避けようがないんだよね。一見、ただの縁だから。
悪いものであることが見えない場合もあったりするじゃない? 最初はいい人に見えたけど、後々では違ったとか。そういう解釈もあるよね。
●前誠 私のイメージだと、そのボールは全部真っ白なのよ。
○前叶 裏も表もなく?
●前誠 そう。だから無印なの。ただ、それが「良」に転ずるか、「悪」に転じてしまうのかは、自分次第だと思ってるんだよね。
○前叶 うんうん。
●前誠 その「良」に転ずるのは、ある種の力というのかな。人間力というか。そこにはいろいろな要素が絡まって、良にも悪にも転じると思うけれど、人間力を上げてくださいというのがひとつ、良縁のご祈願になる。私はそうとらえてるところがあるかな。
そして、その場で即時的に良い・悪いをジャッジしないことも大切かと思う。後々振り返ると、巡り巡って良縁だったと思えることってあると思うんだよね。
○前叶 うーん、じゃあ良縁成就の祈願をするにあたっては、自分がその真っ白な縁を受け取ったときに、良縁に転じられるような力を蓄えるというか。
●前誠 うん。そこを成就してくださいということになるよね。
○前叶 なるほど。皆さんお察しの通り、このように同じお寺の兄弟住職でも解釈が違ったりします。
●前誠 ハハハ(笑)。
○前叶 そういう意味では、日本人のいいところか悪いところか(笑)。「ラーメン」と言われて、私は塩ラーメンをイメージしても、兄は醤油ラーメンをイメージしてるかもしれないし。太麺か細麺かもわからないしね(笑)。
そのように幅が広いものについて、原始的な「縁」のお話をするとかなり長くなるので、こういうかたちでお伝えしていますが、質問の答えとしては、当然"あり”です。あらゆる物事と良い縁を結んでいただくために、ぜひ良縁成就なさってほしいと思います。
●前誠 皆さまの明日が、明るい日となりますように。
○前叶 合掌。