【後編】学びの報告会より |公立高校を舞台とした、社会人向け越境学習プログラム「SOTEIGAI」
社会人向け越境学習プログラム「SOTEIGAI」。今年5月に、2020年度の参加者のみなさんによる学びの報告会をまとめました。
記事前編では、プログラムの特徴の一つである「公立高校のなかで学びをつくる」体験についてふりかえりました。ほとんどの人が数十年ぶりに校舎にはいり、異世界のなかへ、まさに越境する時間です。
「実際に見ていると、ほっといても動くんですよ。気づいて、面白がって、そしたらやり始める。周りの力をかり始める。自由度と柔軟性のなかで、人を信じることを気づかされました。」子どもたちと向き合うなかで、人が動き出すとは一体どういうことなのか、対話を深めました。
後編では、プログラムのもう一つの柱である「マイプロジェクト」を立ち上げることから、いよいよ参加者一人ひとりが動き出します。どんな取り組みと気づきがあったのでしょうか。
このマイプロジェクトとは、「マイ=わたし」のプロジェクト。高校生たちの挑戦をサポートするだけでなく、参加者のみなさんの「やってみたい」に取り組んでいただくものです。やってみたいことは、仕事や会社に絡めたテーマだけでなく、子育てや家族のことから、趣味や好きなことなど多岐にわたります。
"やってみたい"を実現するマイプロジェクトを立ち上げる。
まずはEさん。Eさんのマイプロジェクトは、お子さんが所属している地元のサッカーチームのチーム運営に関するものです。
「今年、息子のサッカーチームの学年代表に選ばれたんですが、コロナの影響で校庭での練習ができなくなることで、チームメンバーが半減してしまったんです。地域のチームなので、コーチたちは仕事というより子どもたちの育成のために関わってくれている。当たり前が奪われる日々のなかで、徒歩圏内で保護者同士が助け合えるコミュニティは改めて貴重だなと感じました。そこでコーチとメンバーをつなぐ役目を任されている自分だからこそ、何かできないかと思っていたんです。」
自分にはなにができるんだろう、と悩みながらのスタートでしたが、まずは6年生たちの卒業時に、チームを声をあつめた映像をつくることにしたそうです。動画も意外と簡単につくれると、高校生たちに教えてもらったので、保護者たちで企画して制作するそうです。
「もう一つは、会社でダイバーシティ推進チームに選んでいただけたんです。実は、下の子が小学生になると時短勤務がなくなるので、会社を辞めるかどうか悩んでいた時期がありました。そんな自分の経験も生かして、他の人たちが悩まないように、女性たちのキャリア形成支援を考えていきたいと考えています。今は、グループ全体で1万人いる社員にむけて、ワークショップやイベントを企画しているところです。」
「マイプロジェクトを取り組んでみて、この半年間で色々変化があることに気づきました。ずっと自分に自信がなかったのですが、できることがあるはずだと思うようになりました。物事を大きく捉えてしまうと踏み出せないけど、とりあえずやってみよう、そう今は考えています。」
どんなきっかけで、そう考えるようになったんでしょうか。
「新しいことに取り組むことは、正解がないから、きちんと段取りを組んでいないとだめと言われても守りきれない。それで不安に思っていましたが、このプログラムではとにかく否定されないので、ほっとするという感覚をもったことが大きいと思います。だから、前だったら”これでいいのかな?”と不安に思っていたことも、とりあえずやってみようと思うようになりました。」
「面白かったのは、自分が変わったというよりも、自分は変わらなくていいと思えたことも大きかったことです」。当初の「このままでいいのか」という不安からのスタートが、自分のまま動いていけばいいと自然体で話す姿が印象的でした。「できてない」という自分へのマイナス評価を手放せたことが大きかったのかもしれません。
自分のなかの「こうあるべき」に許可を出すこと。
つづいてJさんの発表です。
「姉からロダンの”考える人”みたいだねと言われるんですが、理屈、思考、思考というタイプなんです。哲学というか悩みにおちていく。良くも悪くも言葉が好きなんですけど、頭のなかであれこれ考えすぎてしまって、実践まで届かない。頭でっがちが加速しつづけていることに悩みを感じていました。」
「プログラムのアフターとしては、一言でいうなら自然の方に惹かれながら、とても健康に生きています。秩父まで山登りをしたり、明治神宮を散歩したり、ただ原っぱで寝転がったり。これまでは、たとえば何を食べたいかさえ頭で考えていたんですが、自然に体をゆだねて、感覚に耳をすませられるようになってきました。」
詩をかこう、本を書こうなどと言葉をずっと大切にされていたので、少し意外なマイプロジェクトに変化していました。ずっと大切にしていたものを一旦置くことに、ハードルはなかったのでしょうか。
「言葉や意味にがんじがらめにされてきた30年だったし、一つのアイデンティティだったので結構ハードルはありました。最初は抵抗もありました。でもここで深くまで関わって、仲間たちからも色々声をかけてもらって、実際にやってみたら、ええやん、ってなれました。前提知識をなしにして、やってみることは本当に大事だなと思います。」
「最後までマイプロジェクトを決めきれなかったんですが、それは、”やらなくてはいけない”、という思考が強かったからだと思います。自分がほんとはこうしたいけど、ビジネスでは受け入れられない…などと悩んでいました。」
なにかがんじがらめのものを解くきっかけがあったのでしょうか。
「ずっとあれこれ悩んでいたら、プログラムのなかである時、”一度、資本主義のなかにいるのをやめてみたらいいんじゃないか”って言われたんです。普通だったら、いや、どう生きていくのってなっちゃうし、ここまで言ってくれるコミュニティってないと思うんですよね。
でもその言葉で、自分のなかの「こうあるべき」に許可を出せて、やっと本音でなにがしたいかを考えられるようになりました。」
「自分に対して、不足感や欠乏感がずっとあったんだと思います。自分はだめだから学ばなくちゃいけないと。プログラムだけでなく、コーチングのサポートもあって、そんな優劣意識や競争原理を手放すことができてきていて、今あるものにフォーカスしたり、今の自分にできることをやろうと思えるようになりました。とにかく解放されました。そしたら面白い仕事がすっと来たりしています。」
「(SOTEIGAIの場への感想を聞かれて)心理的安全性の極み、と書いたんですが、今までの人生でここまでこれを感じた場ってないなと本当に思っています。言語化しきれないものをいっぱい受け取って、今も伝えきれない歯痒さがあります。」
卓越性、差別化にフォーカスしてきた30代。しかし…。
最後の発表は、Gさん。Gさんが考えたマイプロジェクトは、今住んでいる地域とのつながりをもち、自分もコミュニティを育てられないか、というもの。社宅で生まれ育ったこともあり、地縁のような繋がりがほしいと、まずは町内会に入会しました。
なお結果的にはこのマイプロジェクトよりも、新たに取り組んだ17LIVEでのピアノライブ配信に傾倒していきますが、テーマはどうやら共通するようです。(笑)
「このプログラムに参加して、一つはつながりの重要性、とくに若者たちとのつながりの重要性を感じました。17LIVEを始めてから交友関係がすごく広がったんです。これまでは同世代や年上の友人しかいなかったのですが、最近は20代のピアニストの方に配信を教えてもらうかわりに、ピアノを教えたり、いろんな方とのコラボが生まれています。」
「わたしは以前、ストレングスファインダーをやってみたら、トップ5には、学習意欲や最上思考、目標思考などがでてきて、ワースト5には調和性とか公平性が出てきたんです。実際、30代まではずっと自分のなかの卓越性、差別化にフォーカスしてきました。脱サラしてからも、とにかく周囲よりも学び、練習し、極めるぞと、音楽講師と演者としてのキャリアを歩んできました。」
「そうやって差別化にフォーカスしてきたわけですが、最近はそうではなくて、根っこのところではここが一緒ですね、とか共通点をみるようになりました。気にならないというか、むしろ違ってていいじゃん、専門性を突きつめるだけよりも、アソビがあってこっちの方が面白いじゃん、と今は思っています。価値観が柔軟になったというか、今なら以前とは違うやり方ができるんじゃないかなと思います。」
「垣根を越えるというのは、高校生から教わったかもしれません。見ていると、グループをこえて話出したり、越境することがあるんです。凝り固まった価値観よりも柔軟で、変な壁をつくっていなくて、楽しそうで。自分自身だけで完結させない面白さを見せてもらったと思います。」
参加者のみなさんの、これから。
素敵な発表をありがとうございました。最後に、プログラム終了後、これから先についても聞いてみました。
Eさん:「わたしの場合は、まだまだそうは言っても、会社員としてこうあるべき、という姿を目指してしまうベクトルが無意識にあるなと感じています。ただ無意識にあること、ありのままでいたいことに気づけたことが大きいですね。
今はまず、コロナの中で人との繫がりの大切さをすごく感じたので、もっと人のなかに入っていきたいと思っています。ダイバーシティチームにはパワフルな女性たちが沢山いるので、ここでの新しい企画が楽しみです。私はわたしのままでいいんだと気づけたので、わたしらしく関わることで、どんな変化が生まれるのか楽しみたいと思っています。」
Gさん:「17LIVEを始める前は、ちょっと若者向けすぎるかな... と思っていたんですが、やってみると意外と面白く、想定外にハマりました。今は、変わることを楽しんでいる自分がいるので、そうやって色々やってみながら、人生をもっと楽しんでいきたいですし、周りを楽しませていきたいです。」
Jさん:「自分はどう思われるか、とプライドがもっと気にならなくなれば、もっとこれしたい、これやろうってなれる気がするので、そうなりたいです。あとはやりたいことが沢山あると体力がいるので、体をもっと整えたいですね。」
ありがとうございました!半年間ご一緒しているからこそ、本当にそれぞれらしい発表だなあと感じます。
そして3名から共通して、いつの間にか築いてきた「こうあるべき」というあるべき論や社会のなかでの価値基準と向き合う葛藤と、その先に自分自身の日々を生きていく、生きつづけていこうとする、そんな自由を感じました。
読んでくださった皆さまも、それぞれの参加者の葛藤や問いに共感があったのではないでしょうか。
そして、このSOTEIGAIプログラムは、運営チームである私たちにも多くの問いやキーワードを残してくれます。今回私たちが特に何度も対話を重ねたのが「手放す」ことや「変化」とは何か、ということ。ここから先は付録として、私たちのフリーディスカッションも共有したいと思います。
また、今年も8月より募集をはじめますので、気になる皆さんはまずは説明会にお越しいただければ幸いです。
■報告会に参加していた運営チームより(スタッフ&社会人プロボノ)
「三人とも変わったわけではないんだな、と改めて感じました。もともと持っていたものが出せるようになった、という方が近いんじゃないかなって。」
「なんか、力が抜けていますよね。新しいことにトライすることとは、意を決して挑むこと、決意によって動き出すことだと思っていましたが、三人の言葉は日常に根ざしていて、自然と身体から出てきてしまったものだなって感じました。」
「”できてない”、”もってない”を補うのではなく、むしろ自分が既にもっていたものを覗きにいった感じですかね。むしろ今の自分自身を認めるというか。」
「じわじわと、いい時間でした。三人それぞれが学びつづけている姿は、純粋にかっこよかったです。」
「今日の発表を聞いているだけでも、ものすごく心理的安全性が保たれている環境であることを感じました。想定外の自分をつくるには、自分自身の熱意や決心というよりも、安心できる空間があることが大切なんですね。」
PS、なおちょっと盛り上がりすぎましたので、どこかでまた別途まとめてみたいと思います。テーマは、”意思”ではなく、”アフォーダンス”されてしまう変化とは、です。
体験談、いかがでしたでしょうか?
2021年10月より、2021年度SOTEIGAIプログラムの実施を予定しています。説明会のご案内を以下リンクに掲載していますので、ぜひご覧になってみてください。
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