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【百合漫画レビュー】行進子犬に恋文を

どうも、ケイト・ブランシェットです。
とりあえず一番好きな作品紹介していきます。いわゆる女学校系のエス、少女文学。個人的な解釈100%なのでご容赦。

1.概要

ジャンル:軍事、百合
作者:玉崎たま先生
出版社:一迅社
掲載誌:コミック百合姫
巻数:全5巻
【作画】★★★★★
【百合度】★★★★☆

2.あらすじ

   おそらく明治中期~あたりか、もしかしたら大正初期の近代日本がテーマ。陸軍幼年学校が舞台。日本固有の文化と文明開化による西洋文化が入り交じる世界観。
   幼年学校に入学した主人公「犬童忍」は、美しいが高圧的な態度で接してくる上級生「加賀美藤乃」と出会う。規律を重んじ隙の無い加賀美に萎縮する犬童であったが、時折のぞかせる意味深な言葉や二人きりになると優しい一面を見せる加賀美のことがだんだんと気になりはじめ...(何も起きないはずはなく)。そんな二人の関係を描いた近代百合作品。

3.見所さん!

   キャラクターが全員魅力的ですね(KONAMI)。純粋で真っ直ぐな主人公の犬童はとある事情から貧しい環境に置かれ、周りに負担を掛けないですむ陸軍幼年学校に入学しているのですが、この犬童の幼く何も知らない感じが何とも可愛らしい。幼年学校は士官学校に進学せんとする者を予め教育するところで、満13歳~15歳の生徒が所属しますから、犬童はおそらく13歳くらい?先述した文明開化や軍の近代化で活気づく日本の中ではあまりに無力で無知。学校のレズ上級生たち(偏見)にも簡単に翻弄されてしまう少女が、軍人勅諭の権化のような上級生加賀美に惹かれ必死に向き合う姿はとても尊い(早口)。

   一方の加賀美は高圧的でやや強引な上司という印象ですが明らかに犬童のことが気になっていて、急に大胆な行動に出て犬童を混乱させます。主人公と比べれば大人に見えますがまさに思春期の自我同一性形成期といった感じで、軍人としての規範と自身の性的なエネルギーの間で揺れているため行動に矛盾しているところが多いです。思春期はそれまでの発達課題をやり直す時期なので、加賀美の未解決な部分に大きく関わる犬童が現れたことで彼女の中のコンプレックスが刺激され、両価的(1つの対象に依存したり拒絶するような様)になっているように見えました。その様子がまた可愛らしく描写されていて、作者の玉崎たま先生、ありがとうございます(大声)。

   他にも大人の女性士官に片想いちゃん、憧れの上級生に片想いちゃん、主人公に執着するサイコレズおばさん(美女)など魅力的なキャラクターがたくさんいます。そしてそれらのキャラクターの魅力を引き立てているのが「近代」という軍事が日本の中枢にある背景と、当時の日本の女性観です。
   まず近代について、明治初期の日本は欧米との力の差を重く受け止め他国の技術を取り入れることに躍起になっていました。その一環で文明開化、西洋風の建物や洋服をモダンとし欧米への親和的な感情を作り、そのうえで本丸の機械化工業(製糸)や軍隊の組織化を推し進めていた状態。これらが天皇制を保持しつつ行われはじめた、ある意味混沌とした時代の雰囲気がコミックの背景画から感じられるんですよね。街並みが日本風のものとレンガ作りの混成だったり、陸軍学校の装備がサーベルになっていたり。そしてそんな時代の流れるただ中、この物語で中心になるのは女性たちなんですね。この時代の女性はまだ社会に出るように認識はされておらず、女学校を出たら17歳くらいで結婚するのがノーマル。どうしても女性の未来はそういう風に収束していくようになっていました。ただ本作の女性たちはちょっと特殊で、世界観として女性も軍事に関わり士官として活躍出来る下地がありますが。しかし、やはり最後はいつか男性のもとに...というような時代背景が頭をよぎり、実際作中にもそういう未来に進むキャラ(かなり出番は少ない)もいて、百合的にはある種の先の無さみたいなものがこの作品の底の方に流れているような気がします。そしてだからこそ、幼年学校という閉鎖環境での女同士、仮初の関係性が際立つというか尊く感じるんです。作中には「稚児」という不文律的な制度があり、マリみて風に言えばスールみたいなものですかね。特定の上級生が下級生を傾慕し2人だけの関係を持つ決めごとであり、それがまた環境の特殊性、その中だけで存在するまほろばの儚さを感じさせてくれます。地上最強の人曰く、栄養(百合)も喰らう、毒(それを阻む障害)も喰らう、その度量こそが食には肝要だと。

4.さいごに

   だいぶ早口で語り散らかしましたが以上がこの作品の簡単なレビューというか、これは序盤のサマリーかも?あまり批評になっていない気がします。ともあれ百合的には安心して見てもらえる、個人的にはかなりの良作です(普通に有名な作品ですが)。明治大正あたりの近代ロマンスが好きな人は死ぬほど刺さるんじゃないでしょうか。
   こんな感じで今後もちょくちょく書いていくので、よろしくお願いします。


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