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〈連載〉発達障害についてつっちーが考えていること(その3)

土屋 徹 
ナース&ソーシャルワーカー/SST普及協会認定講師

精神保健福祉の業界に入って40年。看護師として精神科病院での勤務や元・国立精神・神経センターACT-Jプロジェクト臨床チームチームリーダーを経て、現在、フリーランスの看護師と精神保健福祉士として活動。クリニック・大学・専門学校等に非常勤で勤務するかたわら,全国各地でSST(ソーシャルスキルトレーニング)やペアレントトレーニングなどの講師を務めている。愛称はつっちー。精神看護出版からはスーパーロングセラー『実践SSTスキルアップ読本』『精神科版 家族教室スタートアップ読本』『土屋流 「当事者主体」的アプローチ』が既刊。


いいとこ探しとほめるコツ

今年の夏は暑かった……ではなく「熱かった」と書き換えたいくらいに毎日が猛暑との闘いでした。といっても、私の仕事はほとんど室内でのお仕事なので、時に上着を一枚羽織るという、外で仕事をしているからすると天国のような環境でのお仕事です。ほんと、この業界の仕事しかしたことはないのですが、毎日たいへんな仕事な状況や環境でお仕事をしている方には申し訳なく思ってしまいます。炎天下の中で働いている方々、ありがとうございます。

話は飛びますが

ずっと前から、私には「お父さんの脳」と「専門職の脳」が存在しているようです。お父さんの脳は『悪いところを探して、お怒りモード』、専門職としての脳は『良いところを探して、ほめほめ上手』と両極端です。仕事では「患者さんや、子どもたちの良いところを見つけて、ほめまくりましょう」なんて偉そうに言っていますが、家では子どもの悪いところを見つけて「いつもイライラして、怒ってばっかり」と家人から言われています。
ほんとはいつも専門職としての脳で過ごしたいとは思うのですが。ほんと、ダメなお父さんなのです。「お金をもらってるときは、笑顔でほめほめ。お金を使われてるときは、イライラガミガミ」なのかもしれないですね。
さて、私は家族会を毎月数か所で行っているのですが、多くの参加者から「どうしても悪いところに目が行きがちだし、怒ること・叱る・脅すことが多いんです」という声を聴きます。「私はいつも笑顔で、ほめほめ上手なんですよ」なんて言う人はあまり聞いたことはありません。子どもとのかかわりは、やっぱり多くの人たちが私と同じようにお父さん脳なのでしょう。ま、自分自身もそうだと思うのですが、「一生懸命だから、ついつい怒ってしまう」のですよというように伝えているのですが、怒られるほうの子どもはたまったものではありませんよね。

ペアレントトレーニング

さて、いくつかの家族会ではペアレントトレーニングという取り組みをしています。近ごろでは子どもたちを対象とした福祉サービス事業所では、国から奨励されていて、全国的に広がりがみられている取り組みです。私もかれこれ10年以上前から取り組んでいますが、保護者への実践だけでなく研修などもさせていただいています。多くの方がペアレントトレーニングを行いという希望をもっています。
ペアレントトレーニングは、もともとは海外からの輸入もので、ADHDの子どもの保護者を対象とした取り組みです。日本でもいろいろなところで実践をされています。そのような中で、全国で行われるペアレントトレーニングの質を高めるために、以下の6つが厚生労働省から共通する要素(コアエレメント)としてマニュアルに記載されています。

①子どもの良いところ探し&ほめる
②子どもの行動の3つのタイプ分け
③行動分析(ABC分析)
④環境調整(行動が起きる前の工夫)
⑤子どもが達成しやすい指示
⑥子どもの不適切な行動への対応です

厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000653549.pdf

この6つを見るだけでも、子どもたちへのかかわり方の基本は『ほめること』であることがわかると思います。なかなか難しいかなとは思うのですが、ペアレントトレーニングを通して、子どもへの見かたやかかわり方を学ぶことができ、それによって子ども自身の行動に変化が起きる。という考え方でもあるのです。

どうしてほめないといけないの?

では、なぜほめるということをしていくのでしょうか。発達障害や発達が気になる子どもたちは、小さいころから社会の中で多くの子どもたちと交流したり、社会化することによって、もともともっている体質も影響して、他の子と比べて目立つ行動が増えてきます。別に根性が悪いとか、悪い子だとかいうよりも、環境に反応しているのだと私は考えています。そうすると、保護者の方や先生方などは「また、あんなことしてる・みんなと同じことをさせなければいけない・しっかりさせないと」というように考えて、子どもの行動を修正させたり、みんなと同じことをさせようとします。行動を修正させたりするときには「怒って・叱って行動を変えさせる」というようになってしまいがちです。
たしかに、気になる行動や問題行動と思われる行動は、怒ることによって止めたり変えたりできることもあると思います。ただ、子どもは怒られることによって、行動は一瞬止まりますが、その時に「反発・反抗」などをすることも同時に学んでしまいます。そうすると、さらに親としてはさらに「怒って怒鳴って脅して行動を修正させよう」と鬼のような形相になってしまうのです。

~vicious cycle~

こんなことって、みなさんも一度くらい経験ありませんか? そうすると、親としては落ち込むというか、子育てに自信をなくしたり、さらに問題・気になる行動に目が行きがちになってしまうということにもなってしまうのです。まさに悪循環ですよね。
そんなときに、少しだけ視点を変えるのでは増やしてみます。それは『好ましい行動・望ましい行動』に注目することを増やして、その行動が起きたら『ほめる・認める・向き合う』ようにすると、誰でもそうだとは思うのですが、うれしいし・またその行動をやってみようというようになります。親としては問題行動を減らすために怒るよりは、好ましい行動に注目してほめることで自分自身も笑顔になり、子どもに変化が起きることで、子育ての自身も増してくるのではないでしょうか。まさしく、視点を増やすことで、悪循環から好循環へ変わっていくということではないでしょうか。

ペアレントトレーニング
前述のとおり、親は一生懸命さから、子どもの問題や気になる行動に目が行ってしまいがちです。他の子どもと比較だってしてしまいます。悪循環に陥りやすく、本来子どもがたくさんもっている好ましい・望ましい行動に目がいかなくなってしまいます。でも、それってあたりまえのことだと思うので、ペアレントトレーニングなどの取り組みを通して、視点を広げ・ほめ方を身につけるということを学んでほしいと思います。
わが子が通っていた小学校で、ペアトレをしたことがあります。担任の先生からお願いをされたので断れず、3回シリーズくらいで行いました。参加されていた保護者の方々からは評判もよく「このような取り組みを毎年のように多くの保護者が体験できるように続けてほしい」と言われました。ほんとうれしい感想ばかりでした。しかし、家に帰ると「あんたさ、家でやっていることと、学校のペアトレで言っていたことって全然違うよね」と、参加していた嫁さんから一言。来なければいいのに、うちの嫁さんも参加してくれていたのです。やぱり身内や知り合いの前では、日常と仕事上の土屋の姿にはギャップがあるのかなって思われるのですね。
詳しくは書けませんでしたが、ペアレントトレーニングについて紹介させていただきました。ちなみに「好ましい行動が出たらほめる」が基本ですが、「好ましくない行動への取り組み」「危険・今すぐ辞めさせたい行動への取り組み」などもペアレントトレーニングでは学ぶことができます。
あ、そうそう。そのペアトレのエッセンスを支援者が行うモデルを「ティーチャーズトレーニング』と言います。ぜひ、保護者も支援者も一緒に体験していただけるといいかなって思います。

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