見出し画像

それでも人とつながって 021 少女③

『子ども用の下着なんです』


お年頃の少女。この子のことは小さい頃から知っている。
少女はお婆さんと二人で暮らしていて、両親は色々な事情から存在しないことになっている。
少女がまだ物心もつかない頃。ある出来事からお婆さんが引き取った。
少女に両親の記憶は殆どない。

[それでも人とつながって 015 少女① 020 少女②]

両親に起こったある出来事。
その出来事の内容も存在も同居のお婆さんがひた隠しに隠している。
実は少女の片親はこの世に存在しない。

月日が流れ。少女という表現も超えつつある年齢に差し掛かる。
お婆さんは相当な高齢となり病気も抱え、自身の余命に不安を感じているような発言も多くなってきている。
そんな状況から、少女が学校に行っている間にお婆さんの話を聞きに来た。

「あの子が一人前になるまで死ねない」
以前はそんなこと口にしなかったのに。やっぱり不安なんだな。
いつも気丈に振る舞っているけど、物忘れも目立つようになってきている。
通帳やキャッシュカードをしまい込んで見つからなくなる。日常茶飯事だ。

「これはあの子の母親。ですから私の娘からの手紙です」
そう言いながら、箱からごっそりと封筒を出してテーブルの上に広げる。

たくさんあるんですね。中にはどんなことが書いてあるんですか?
「今の生活。・・・いえ、今を生活とは言えないと思いますが」
あの子に見せる訳に行きません。そう言いながらお婆さんが少し険しい表情をするが一瞬で元に戻る。

こんな事を聴くのは自分的に辛いけど、お婆さんの不安の中心ではないかと感じている内容。お婆さんが亡くなった後について尋ねてみる。

「あの子が何となく気に入っているような人はいるようです・・・でも私はその人には任せたくないです」

その人。というのは、お婆さんに何かあった時の数日間など。短期間ではあるが、今までにも何度かお世話になったことのある人らしい。
その人には自分も仲間達も会ったことがない。
どんな方なのか分からないけど、敢えて理由を聴く必要もないのかな。
いざとなればあの子が自身で望む形になるのが良いはずだし。
そんなふうに思っていると、お婆さんは思わぬ話をし始めた。

「実は。あの子の兄から連絡がありました」
・・・えっ!?兄!?あの子の兄って何ですか?

関係者は両親とあの子。お婆さん。4人だとばかり思っていた。
今まで聞いたことのない話にただ驚いてしまう。
いったいどんな連絡だったのか。

「兄は妹に会いたいと言っています」
そのお兄さんとあの子は今までにも何度か会っているんだろうか?

「いいえ。あの子が小さい頃に離れ離れになったきりです」
そうなのか。でも、あの子はお兄さんを覚えているのかな?

「覚えていないですし、兄が居るとは思いもしないでしょう」
・・・あの子は何も知らないってことか。何が何だか分からず驚いたけど。
でも。あの子が知ればこんな驚きどころではない。それ以外のそれ以上だ。

「兄はあの子と同じで私の孫になりますが、あの子とは父親が違います」
ここまで来たら驚いてばかりも居られない。
お婆さんは「妹に会いたい」という兄に何と答えたのだろう
「今は私が誤魔化して止めています」
でも。もしも自分が居なくなったら・・・ってことかな。
誤魔化して止めるという点にも何かあるような気がする。

それにしても、その状況でなんで突然「妹に会いたい」なんだろう。
それに、あの子のお兄さんは今までどこでどんな生活をしていたのか。
あの子はお婆さんに引き取られたけど。お兄さんはどこで??
考えがまとまらずに居たが、お婆さんは話を続ける。

「兄のほうは・・・両親に起きた出来事を覚えています。両親といっても自分の父親とは違うわけですが。その時の事を目の前に見て、覚えています」
相当なものを抱えていそうだ。その上で妹に会いたいという申し出・・・。

まいったな。漠然とイヤな予感がしてしまうけど自分には何の権限もない。
その点はお婆さんも似たように感じているようで「また相談させて貰っても良いですか?」と切り出してくる。それはもちろん良いですよ。

その日の話はそこまでだった。

日を置いてある日。
少女のもとに訪れている仲間の一人から連絡が入る。

少女も成長し間もなく卒業を控えている。その前に同級生で旅行に行くことになった。その旅行の準備を仲間が手伝いに行っていた事は知っている。
だが、思わぬ連絡の内容に言葉が見つからず狼狽えてしまった。

『荷物の確認を手伝っていた時に分かったのですが』
なんだろう?またお金が無いとかかな?

『えーとですね・・・子ども用の下着なんです』
だって。あの子はまだ子どもだよと言い掛けると

『彼女が持っているのも身に着けているのも、本当に子ども用のなんです』
本当の子ども用?えっ?あっ!そういう事?
ちょっとソレは自分が取り扱うにはアレだ・・・。
そういうのは同性同士でないと。なんとかならないかな?

『そう思って、私もすぐに年齢の似通った心当たりに連絡したんですが』
したんですが・・・?ということは何かダメだったの?続きが気になる。

『同年齢では・・彼女の胸とか。もう少し大人用でないと合わないようで』
ごめん!後はもう任せる!それを自分が細かく聞き出すようではちょっと。

『ははっ。ですよね。分かりました。実はもう一つあるのですが』
いや、もう本当にダメだってこういう話はさ。

『いえ違うんです。関係機関からお兄さんが彼女に会いたがっていると』

ここでハッとした。
嫌悪感を覚えるような感覚。

我ながらイヤな閃き。でも、無くはないと思えるような予感。

『勿論彼女は知りませんが、どうしたら良いですか?なんて答えます?』

どうしよう。分からない。
妹に会いたい理由・・・とてもイヤな閃きが心に影を落とすように残る。
そうかも知れないし、全然そうじゃないのかもしれない。

そもそもこんな予感や想像をしてしまう自分自身にも嫌悪を感じるけど。
でも、もしそうだったら。
最初はそうじゃなくても、そうなって行くこともあるかもしれない。

自分達としては手引も妨害もする立場にはないけど。
でも。お婆さんは今のところ誤魔化して止めていると言っていた。

しかし。少女が兄が居て自分に会いたがっていると聞いたらどうだろう。
最初は驚くどころでは無いだろうが、兄が会いたがっているということ自体をどう思うだろうか。

何が良いのか。どう考えても自分には分からない。
そんな自分は抜きにして。少女と兄。お婆さんを信じるとするなら・・・

「会う必要があるのなら、いつか会えるだろうから自分達は関与しない」
関係機関の人にはそう伝えておいて。
今の自分にはコレしか言葉が思いつかないんだ。

『了解。分かりました』
仲間はそう答えて電話を終えた。


後日。
少女は自分の身体に合った下着を身に着け、旅行を楽しんできたようだ。
実は悩んでいたそうで、これにはとても喜んでいたらしい。

少女は少し大人になった。
でも。まだ兄の存在を知らない。


この少女の話は④へ続く。

これは少女の巻の三。この後に続く出来事はまたの機会に。

もし読んでくださる方がいらっしゃったなら。
お読み頂いたあなたに心からの御礼を。
文章を通しての出会いに心からの感謝を捧げます。

しゅてん拝

いいなと思ったら応援しよう!