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「MiCo - Fight Back」をラッパーが採点してみたwww #6

 GBB24めちゃくちゃ楽しかったですね。MiCoのサバイバルナイフみたいなビートボックス、唯一無二で最高でした。

 まぁそれとこれとは話が別ですね。オーケストラを観覧してたら隣の客がゲップしてきたようなラップをされてらしたので、今回は韻の質について話していこうと思います。悔い改めてください。


歌詞(耳コピ)

「MiCo - Fight Back」のラップ部分の歌詞です。耳コピなので聴き取れなかった部分や、間違っている部分があると思います。
 noteにはどうやらコメント機能があるみたいなので、訂正箇所を見つけた際は是非教えてください。

Verse 1
(ならいすぎたかたと)お前のヘイト
しっかりまくる腕とラストレース
止める勢い任せ息の根
俺が成し遂げる意味
怒りは自信
恩恵忘れ色褪せるシーン
プライドを切る
それだけで辿る未開拓の地
文句が出るその口も
嫉妬と分かると尊いもん
ヘイターズのホワイトノイズにブラックのインクで書く模範解答
さんざん言われてここまで来た
見てきたバッドエンドのその下
それでもしなかった己を美化
邪魔は無視でGO
俺ら(すぐに)GO

Verse 2
(だれでもどうじね)上がってくハードル軽々飛び越えた
憧れてた(せなかにしかい)抜かせばまた(くらいむなら)自分かなりいいじゃん
幾度となく窮地に追われても視界から打ち込む俺らサバイバーワン
遊びじゃねぇ遊びを極めて目指す最奥はお前の想像の上

 ラップじゃなかった好きだなって思うフレーズ結構あるんですけどね。今回はラップなので、フレーズをそのまま使っているだけだと、フレーズをそのまま使っただけになります。ラップに生まれ変わらせてあげなければなりません。


韻の質を左右する要素

・語彙の汎用性の無さ

 日本語ラップの質に関わる要素として『語彙の汎用性の無さ』というものがあります。
 言語化が難しいので例を出しながら解説していきます。

まず、

「~~やっていくから
 ~~していくから
 ~~せずいくから」

助動詞「いく」と接続助詞「から」

みたいな同じ語彙、品詞で踏むのは論外として、

最高才能はいどーぞ、なんも気にしないよ
段違いパンチラインじゃなきゃ感じない

今パッと考えただけの韻です。

などが汎用性の高いフレーズ、すなわち脈絡無くライムにぶち込んでも一見違和感のない繋ぎのフレーズです。これらは妥協のライムであって、決して主役にはならないライムです。
 ここは妥協してもいいや、この作品は妥協してもいいか、と思う場合は全然使ってもいいのですが、Fight Backがその程度の作品とは思えないのでこれらは避けたいですね。

 では汎用性の無いフレーズとはどんなものかという話ですが、拙作を例に挙げさせてもらうと、

「義務教育産"秩序"の絆深く
 いつか腐るシグナキュラム」

仮想世界線舌戦

あたりでしょうか。これも汎用性はありそうですが……。とはいえ、「軍人を教育するように植え付けられた形だけの遵法意識はやがて腐敗する」というメッセージには汎用性が無さ過ぎるのでこれを例とします。
(例えば恋人への執着を唄う曲のラップパートでこんなフレーズが出てきたらコンセプトもブレるしストーリーも無茶苦茶です。麦わらの帽子の君があいみょんなのかルフィなのか分からなくなります。)

 汎用性の無いフレーズとは、ビートボックスで謂うところの個性的なドロップに近いと思います。
 hookなのに
 「~~だぜ!  ~~雨!  ~~だけ!  ~~やれ!」
みたいな脚韻しかないラップというのは、永遠にビルドアップが続いて一生ドロップが来ない即興のビートボックスくらい盛り下がります。
(少なくとも感動は出来ないですよね。作品以下の出来ですから。)

 汎用性の程度と韻の質についての理解は深まったでしょうか。


・韻の長さ


 次に『韻の長さ』の話をしましょう。
 Fight Backの韻ですが、私が聴き取った範囲だと

「のヘイ / トレー / の根 / 遂げ」
「意味 / 信 / シーン / 切 / 地」
「文 / も / 妬 / 尊 /もん / の / 答」
「来た / 下 / 美化」
「GO / GO」
「(なか) / (また)」
「(かい) / (らい)」
「かなり / サバイ」
「じゃん / ワン」

※聴き取れなかった部分は割愛


以上になります。
 たまに「飛び越えた / 憧れてた」みたいな語感踏みがありますが、あれは魅せプみたいなところあるのでオススメしません。
(韻を踏む箇所と語彙のアクセント、文章全体の抑揚を把握したうえでビートにハメるビートアプローチ能力が必要です。BomberoFAKE TYPE.は基礎が固まってるので一音踏みや語感踏みも心地いいです。
 作詞がどちらか分かりませんが、MiCoのラップは押韻の基礎が疎かなようなので、まずは基礎音から固めてください。)

 韻の長さについてですが、2文字以下、2モーラ以下の韻は踏めて当然と思っておいてください。日本語はモーラ数あたりの情報量がもの凄く少ないので、その分、音数や語彙を詰め込まないと内容が薄くなります。だらだら喋っている割に中身の無い話を聞かされるのって基本的に苦痛ですよね、それです。
 英語とかいう、1音節の単語に意味があって、meet me in seaみたいな無茶苦茶な密度で踏める言語と同じ土俵で争うのは無謀です。無謀は無能がやることと私の好きな漫画のキャラも云っています。

 ではどう戦うか、私は韻の形と長さがカギだと思っています。多くの音数で韻が踏めるということは、その分豊富な音の組み合わせがあるということですからね。英語は母音の数こそ多い者の、基本的に3音節くらいまでの単語ばかりだと思うので、韻を長く踏むことにおいては日本語に分があると思っています。(英語出来ない中卒の偏見なので、実際は違うかもしれません!)
 1小節分の長さで10文字ちょいくらいの韻が踏めるようになると、日本語ラップに成るでしょう。(個人的にですが、今の時代は2小節くらいの長さの韻が、韻として聴き取れる閾値だと思っています。それ以上は長過ぎて「似た音が続いている」という実感を持ちづらいように思います。)

 そんな長い韻ほんまに踏めるんか?とお思いのことだと思うので拙作から具体例を一つ。

「一旦除けろバビロンのキスマーク
 震撼のテロが日本を怯ます」

証言 / 至極 1:34~  

 私は大して韻踏めないので、勉強する際はGADOROとかKBDとか志人とか、まぁ誰でも良いですけど、ちゃんと日本語ラップをしているラッパーを参考にしてください。
 海外のDrill系ラップの形だけを真似すると本当に猿真似ラップになるので絶対やらないってお兄さんと約束しましょう!もう既にしてしまったよ~って方は悔い改めてくださいね、さすれば神はお許しになると思います。
(ジャパニーズドリルラップは軒並み形だけの猿真似をしているので、ただでさえ二番煎じの質なのに内容の薄さも酷いです。ラーメン屋であんな薄いスープ出されたらお冷でつけ麺してた方がマシだろうなと思います。)


長い韻のカラクリ

 ごちゃごちゃ言うとりますが、じゃあどうやって長い韻踏むねん!という話ですよね。
 これは意外とハードルが低いです。3音と4音で踏むことが出来れば、あとはその組み合わせで10音くらいは易々と踏めるようになります。
 例えば先ほどの

「義務教育産"秩序"の絆深く
 いつか腐るシグナキュラム」

は、

「義務教 / 秩序(の)」
「育産 / 絆 / いつか / シグナ」
「絆深く / いつか腐る / シグナキュラム」

という押韻構造をしているわけですが、これを見れば分かる通り、3文字前後の言葉で踏まれた韻を、数種類組み合わせているだけなんですね。

「一旦除けろバビロンのキスマーク
 震撼のテロが日本を怯ます」

なんかも、

「一旦 / 震撼」
「除けろ / のテロ」
「バビロンの / が日本を」
「キスマーク / 怯ます」

で構成されています。秘すれば花なりとはその通りで、押韻のタネさえ分かってしまえばこんなもんなんですよ。
(だからこそ、こんなこともやろうとせず、ラップの人気に便乗する形でラップを金儲けの道具に使ってやろうというラッパーのコスプレイヤーもどき共に憤慨しているわけですが。)

最後に

 これを読んだMiCoのお二人及び読者の皆々様方は、もう問題無く韻が踏めるかと思います。我々は日本語ラップをさせていただいている分際なので、不埒なライムで日本語ラップの顔に泥を塗るような罪深い所業は今後一切控えるようにしましょうね。

 というわけで、ラッパーによる日本語ラップかくあるべしお気持ち表明でした。ぶっちゃけ「声に出して踏みたい韻」という本の内容を横流ししているだけなので、韻の質についてもっと知りたい方はその本を買って読んでください。
 ラップの添削というタイトルなのにラップのやり方、韻とは、みたいなところから語るというのは、これは作品とは呼べないレベルですよという意味に等しいです。
 あれだけの素晴らしいビートボックス、素晴らしい作品の上で垂れ流して良いラップではありません。出涸らしの古酒をぶちまけるのが我々のスタイルだ!というのなら止めはしませんが、少なくとも私には未来の見えない道であるということは強く強調しておきます。

おまけ


ビートボックス編

 ゆーて私ビートボックスにわかなので、間違ったことを云ってるかもしれませんが、Fight Backのここが好き!を羅列していきたいと思います。

・2:03~からのバス
 →体の奥に響くような重さが最高

・CoLoAのデスボとMizukiのボーカルフライ(?)のハモリ
 →ただでさえカッコいいデスボなのにボーカルフライのザリザリした質感が加わって、荒々しい世界観がより力強く伝わってきて最高

・ギターかっこいい
 →ギターかっこいい(楽器は本当に何も分からないので感想が書けないんですが、メタルなテクスチャとリフがキャッチ―でかっこいい。)

・2:03~のビートボックスパート
 →掛け合いが心地良過ぎる。GBB24でも聴いたような記憶があるんですが、その時もかっけ~って思ってました。(記憶違いでしたらすみません。)


歌詞編

 あとラップではなく詩として読んだときに良いフレーズだなと思った部分がいっぱいあったのでこちらも挙げておきます。
(少なくとも私は、こういうフレーズをたたき台にして、文章を韻で組み立て直していくやり方で日本語ラップを描いています。)

・文句が出るその口も
嫉妬と分かると尊いもん

 →強がりの仕方が非常にアングラっぽくて好みですね。トキシックマスキュリニティ的なフレーズなので賛否あるでしょうが、私はイカついビートに合っていていいなと思います。

・ヘイターズのホワイトノイズにブラックのインクで書く模範解答
 →良い言葉遊びですね~。ホワイトノイズって音楽やってる方じゃないとなかなか出てこないワードだと思うので、ビートボクサーである個性も活かせますし、あくまで音を指す言葉なので色という視覚的な対比の仕方をしているのもズラしがお洒落ですね~。

・遊びじゃねぇ遊びを極めて目指す最奥はお前の想像の上
 →これも発想がアングラというか、逆張りオタクというか、ヤンキー的な捻くれをしていてすこです。


あとがき

 そんな感じで、たまにnoteを開いては己の日本語ラップ哲学を押し付けるお気持ち表明をしている今日この頃ですが、いつかこんなラッパーとして当たり前に弁えておかないといけないことについてくどくど言わなくても良いシーンが来るといいですね。少なくとも私はそれも目的にラップを描き続けますよ。二度と舐めたラップ出来ないようにしてやるからなアメリカかぶれの半グレどもが。

 とはいえ、MiCoのお二人の本業はビートボクサーなのでね、他の業界の方がラップに興味を持ってチャレンジしてくれるというのは、やはり一人の日本語ラップ好きとして嬉しいものです。
 あの素晴らしい革袋に相応しい酒を入れれると良いですね。頑張ってください。

 それじゃ、この記事で韻が踏めるように……まぁ正直あの解説で踏めるなら最初から踏めると思いますけど、まぁ今より押韻が達者になったら、感想なり共有なりフォローなりなんなりかんなりしてください。
 それじゃあ、また今度。

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