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【要約】第2部-利益のためのKPIの設定と計測:ファンダメンタルズxテクニカルマーケティング
第2章 「利益」のためのKPIの設定と計測
数字に基づくマーケティング
現代のWebマーケティングでは、多くの事象を正確に数値化できるため、企業の利益を基準に活動を評価することが可能である。
従来の「認知度」「イメージアップ」「売上」を目的とした活動ではなく、「利益」をゴールとしたKPIの設定と計測が重要である。
利益を出すための基本指標
獲得単価(CPA:Cost Per Acquisition)
1人の顧客を獲得するためにかかった費用を計測する指標。
計算式:
広告費 ÷ 獲得顧客数
例:
広告費100万円で100人を獲得した場合、獲得単価は1万円となる。
LTV(顧客生涯価値)
1人の顧客が生涯にわたって生み出す売上または利益。
計算式:
客単価 × 購入頻度 × 購入期間
例:
3,000円の商品を年間4回購入する顧客の1年間のLTVは1万2,000円となる。
利益の計算式
1人あたりの利益は以下で算出する:
利益=LTV(×粗利率)-獲得単価
例:
LTVが1万2,000円で獲得単価が1万円の場合、1人あたりの利益は2,000円となる。
利益を最大化する方法
購入数(CV数)の最大化
広告表示回数を増やす。
クリック率(CTR)やCVRを上げる。
1人あたりの利益を上げる
獲得単価を下げる(例:クリック率やCVRの向上)。
LTVを上げる(例:客単価の向上、クロスセル、継続率の向上)。
正確なLTV算出方法
一般的な誤り
全体の平均で算出すると、初回購入時期が異なる顧客の影響を正確に反映できない。
初回割引やクロスセルの影響を考慮しない場合、実態を把握できない。
正確な算出方法
顧客1人ごとの購入実績をもとに時系列で累計売上を計算する。
初回購入日から1年後の累計売上を算出。
全顧客の平均値を計算して全体のLTVを導き出す。
広告媒体ごとのLTVの重要性
広告媒体ごとにLTVを算出することで、媒体ごとの収益性を正確に把握できる。
具体例
広告媒体ごとにユーザー層が異なるため、LTVに差が生じることが多い。
高年齢層の媒体から獲得した顧客はLTVが高い傾向がある。
例:
媒体AでのLTVは1万1,000円、媒体BでのLTVは1万3,000円。
→ 媒体ごとに異なる獲得単価の上限を設定する必要がある。
LTVの詳細算出の重要性
広告媒体、商品の訴求ポイント、割引オファーなどを基準に分類し、LTVを算出する。
「売れているが利益が出ていない」状態を防ぐため、詳細なデータ管理が必要。
例:
初回購入での大幅割引がLTVを大きく下げ、結果的に利益を減少させる場合もある。
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発売して間もない商品のLTVの予測方法
新商品が発売されたばかりで、1年後のLTVが実績として存在しない場合、既存商品のデータを参考にして予測を行う。
既存商品のデータを活用する
既存商品のLTV推移を確認
例として、商品Aの1ヶ月後LTVが12ヶ月後LTVの35%に相当するとする。新商品の1ヶ月後LTVを計測
例:新商品の1ヶ月後LTVが6,000円。12ヶ月後LTVを予測
計算式:
1ヶ月後LTV ÷ 既存商品の1ヶ月後割合 = 12ヶ月後LTV
例:6,000円 ÷ 35% = 17,143円。上限獲得単価を設定
年間利益目標を差し引いた値を上限獲得単価とする。
例:12ヶ月後LTV(17,143円) - 利益目標(2,000円) = 上限獲得単価(15,143円)。
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運用中のLTV調整
2ヶ月後LTVの計測
2ヶ月後のLTVが算出可能になった時点で再計算を行う。
例:2ヶ月後LTV ÷ 既存商品の2ヶ月後割合(44%)。上限獲得単価の修正
予測LTVが下がった場合:上限獲得単価を引き下げ、広告投資を抑える。
予測LTVが上がった場合:上限獲得単価を引き上げ、広告投資を増やす。
月次での予測精度向上
月を追うごとに最新のLTVを基に予測を修正。
正確性を高め、採算割れや機会ロスを防ぐ。
広告媒体の優劣の判断方法
基本的な判断基準
広告媒体の優劣は以下の2つの要素の掛け算で評価する:
顧客1人あたりの利益額
獲得件数ポテンシャル(その媒体からの顧客獲得数)
具体例
キーワード広告
獲得単価:3,000円
1年LTV:7,500円
1年利益:4,500円(7,500円 - 3,000円)
ポイント系サイト
獲得単価:1,000円
1年LTV:3,000円
1年利益:2,000円(3,000円 - 1,000円)
顧客1人あたりの利益では、キーワード広告(4,500円)が優れている。
獲得件数ポテンシャルを考慮
仮に以下のような状況とする:
キーワード広告:月間100人の顧客獲得
→ 総利益:4,500円 × 100人 = 45万円ポイント系サイト:月間300人の顧客獲得
→ 総利益:2,000円 × 300人 = 60万円
総利益では、ポイント系サイト(60万円)が優れている。
オファーの影響と注意点
オファーの強さとLTVの関係
ポイント系サイトなどのオファーが強い媒体では、獲得単価は低くなるがLTVも低下する傾向がある。
「ポイント目的」の購入者は商品への興味が薄く、リピート率が低くなるため。
ユーザー数の違い
各広告媒体が抱えるユーザー数の違いを考慮しないと、誤った結論に至る可能性がある。
結論
広告媒体の優劣は、「1人あたりの利益」だけでなく「獲得件数ポテンシャル」を掛け合わせた総利益で判断する必要がある。
どちらの媒体が優良かは、利益率と規模のバランスを考慮した上で選択するべきである。
売上最小化、利益最大化の法則
基本原則:売上より利益を重視
企業活動では売上を最大化することが重要視されがちだが、本当に重要なのは利益を最大化することである。売上が減っても利益が増える戦略を採用すべきである。
広告全体での管理とその問題点
仮定
商品の1年LTV:1万1,000円
上限獲得単価:1万円
粗利率:100%(簡略化のため掛け算表記を省略)
計算例
広告費:1,000万円
新規顧客獲得数:1,000件
売上:1,100万円(LTV × 獲得顧客数)
利益:100万円(売上 - 広告費)
一見、広告全体では問題がないように見える。
広告ごとの分析の必要性
仮定
広告A:500件獲得、獲得単価8,000円
広告B:500件獲得、獲得単価1万2,000円
個別計算
広告A
売上:550万円(500件 × 1万1,000円)
広告費:400万円(500件 × 8,000円)
利益:150万円広告B
売上:550万円(500件 × 1万1,000円)
広告費:600万円(500件 × 1万2,000円)
利益:-50万円
広告Bは上限獲得単価を超えており、損失を生んでいる。
広告Bを停止した場合
広告Aのみの売上:550万円
広告Aのみの広告費:400万円
利益:150万円
売上は半減するが、利益は1.5倍、利益率は3倍になる。
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広告代理店の運用リスク
広告代理店と広告主は利益相反の関係にあることが多い。
広告代理店の利益構造
広告出稿料が売上になるため、可能な限り広告出稿量を増やしたい。広告主の利益構造
広告費を最小化しつつ利益を最大化したい。
典型的な問題
広告代理店はトータルで採算が合えば問題ないと判断し、個別の広告の採算性を重視しない場合がある。
寸止めマーケティング戦略
売上と利益の関係
Webマーケティングでは、売上を最大化しても利益が最大化されるわけではない。
「収穫逓減の法則」により、広告の獲得単価が上昇すると一定の段階から利益効率が悪化する。
最適な獲得単価は、この効率が悪化する直前である。
具体例:最適獲得単価の見極め
仮定:1年LTVが1万円の商品(粗利率100%)
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この場合、獲得単価5,000円が最適値であり、それを超えると利益が減少する。
最適な広告費は以下の計算式で算出する:
「最適獲得単価 × 最適件数」=最適広告費
利益最大化の考え方
企業の目的は「売上高」や「利益率」ではなく、「利益額」の最大化である。
最適獲得単価を見極め、その数値を基に広告投資を調整する。
「どこで寸止めするか」がマーケティング成功の鍵となる。
広告投資バランス指標とROASの限界
ROAS(Return on Ad Spend)
ROAS = 広告経由売上 ÷ 広告費
単体の費用対効果を示す指標であり、値が高いほど効率的である。
ただし、最適値の概念がないため、全体利益との関連性は薄い。
ROASを上げるために広告を減らすと、機会ロスが発生する場合がある。
サブスクモデルなどでは、ROASが1を割っても利益が出ることがある。
広告投資バランス指標
ROASの限界を補うため、広告投資バランス指標を使用する。
計算式:月間平均獲得単価 ÷ 上限(最適)獲得単価
1の場合:適切な状態
1未満:採算割れ
1超過:機会ロス
実際の運用と注意点
月間単位で広告投資バランス指標を確認し、適切な投資状況を維持する。
人は自分に都合の良い数値に注目しがちであるため、常に全体利益を見据える。
既存のKPIに頼るだけでなく、自社の状況に応じて適切な指標を考案する。
5段階利益管理の重要性
利益体質のマーケティングを実現するには、売上とコストの連動性を詳細に把握し、以下の5段階で利益を管理することが重要である。
5段階の利益構造
粗利
売上から原価を差し引いた金額。基本的な利益計算。計算式: 売上 − 原価 = 粗利
純粗利
粗利から〝注文連動費〟を差し引いた金額。注文連動費とは、決済手数料、送料、同梱資料、梱包資材など、売上が発生すると必ずかかるコストを指す。
送料無料キャンペーンやおまけがある場合、この項目が下がりやすい。計算式: 粗利 − 注文連動費 = 純粗利
販売利益
純粗利から広告費を差し引いた金額。広告費の増加で売上が上がっても、この項目が下がる場合は広告効率が悪化している。計算式: 純粗利 − 広告費 = 販売利益
ABC利益
販売利益から〝ABC(活動基準原価計算)〟を差し引いた金額。ABCは商品ごとに分配された人件費を指し、業務内容を商品単位で配分して計算する。
手間がかかりすぎる商品はこの利益が低くなるが、手間の少ない商品は隠れた優良商品として浮かび上がる。計算式: 販売利益 − ABC = ABC利益
営業利益
ABC利益から運営費を差し引いた金額。運営費は、家賃や光熱費、管理部門の人件費などの固定費を、商品ごとの売上シェアで分配したもの。計算式: ABC利益 − 運営費 = 営業利益
5段階管理のメリット
問題箇所の特定
利益が減少した際に、どの商品のどの段階に問題があるかが明確になる。収益性の把握
売上が伸びている商品についても、「このまま伸ばしてよいのか」「効率が悪化していないか」を判断できる。隠れた優良商品の発見
手間のかからない商品や、目立たないが収益性の高い商品を見つけ出すことができる。
まとめ
5段階利益管理は、単に売上を追うのではなく、利益の構造を詳細に把握し、効率的で持続可能なマーケティング戦略を支える基盤となる。これにより、収益性の高い事業運営が可能になる。