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『ミスター•ミス•ニッポン3』 

大腸内視鏡検査受診月間最優作品(嘘)

便潜血+を放置しない月間作品(本当)

2023年8月21日。予定どうり手術は4時間で終わった。

手術室に運ばれる途中に見た時計の針は14時30分だ。そう、記憶している。
私はその後『全身麻酔』の夢の中にいた。
手術前のベッドに横たわり、担当医と挨拶を交わした。マスク(麻酔の)が私に近づいてきた。

━━━気づいたら、手術は終わっていた。全身麻酔の手術とはこのようなものなのだ。

しかし、なぜか、私は全身麻酔の夢の中で決勝ゴールを決めていた。なんでなんだ。全身麻酔とはそういうものなのか。
日本にFIFAワールドカップ初優勝をもたらしたのは、この秋で49歳になろうかという中年男だったのだが、意識がもどるにつれ私の夢はフィールドから離れていった。

ここは手術室で時計の針は18時30分だった。どうやら私は無事で、どうやらすこぶる腹が痛かった。筋肉痛の強だ。いや、これは筋肉痛の強の上だ。それでも足りないような。筋肉痛の強の上の+だ。そもそも筋肉痛と比較して『腹腔鏡手術』の痛みを論じるのが場違いなのだ。

決勝ゴールの恍惚からの落差がひどかった。腹の痛みで仰向けでじっとしていられない。ツラい。「らくなしせい、らくなしせい、らくなしせいを見つけなければ」私は焦った。

そうだ。わかった。胎児の姿勢がいちばん楽なのではないか。おもいだせ、せいのほう。羊水にうかぶのだ。ぷかぷかうかんで丸くなろう。丸くなれば楽になるのではないか。私はそうおもい「えい」と膝を抱えようと、目を下半身にうつした。

「ああ、なんてことだ」いつの間にか私は紙オムツをしているではないか。看護師に預けておいたLサイズのオムツは、このタイミングで装着されていたのか。いつの間に。てっきり自分で履くとおもっていた。油断をした。
Lサイズの紙オムツには隙間があった。「しまった、はみ出している」、やはりMサイズのオムツを買うべきだったか。夢の中とはいえ、はみ出した紙オムツのLで決勝ゴールを決めたのは世界で私だけだ。

私は腹痛に耐えながら、横向きに丸くなる胎児の姿勢を覚えた。私の『患者士』のレベルがひとつあがった。
装備は心もとない。Lサイズの紙オムツだけだった。


サインを書く事に慣れてきました。



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