『ま夏。八月二十九日。サンサン・スパイラルバンド』
この写真は数年前の北海道のものだ。
稚内のすこし南で、とつぜんバイクのヒューズがとんだ。スマホの電波もなかった。三十分ほどバイクを押して、ようやく保険会社に連絡がついた。バイクはレッカーで旭川へ。私は電車で旭川へむかった。その時の曇天が私の心情をいっそう鬱々とさせた。なにせ、次の日のフェリーで帰る予定だったからだ。
私の不安感を隅から隅まで見事に写し撮った写真だ。黄色のヘルメットと草花が、はしゃぎ過ぎた祭りのあとの静けさと虚しさをもたらしている。
おそらく、曇天による湿気や水蒸気が電装系に影響を与えてどこかのヒューズがショートしたのだろう。バイク屋の作業員も首を捻っていた。配線をひとつひとつチェックして、焦げているヶ所はないか丁寧に調べてくれた。とりあえず、バイクに取り付けてあるアクセサリー類、ETC、グリップヒーターなどはすべて外した。ヒューズはすべて新品に交換して、ようやく夜中にキャンプ場に辿り着いた。
そんな不安感が内陸の群馬在住の私の記憶を呼び起こした。
サンサン台風10号のせいでもある。海沿いの方々の不安はいかばかりであろうか。関東圏には台風の襲来があるのかないのか、それもまだ確定的ではない。南アルプスと北アルプスの防壁があるとはいえ、心配は拭えない。
北海道の名も知らぬ駅で、ぽつんとひとり立ちすくむ私を思い出してしまった。それもこれも、ソロツーリングの魅力の一つでもある。が、今回の台風の『サンサン・スパイラルバンド』なる、バンド名のような自然現象を楽しむ余裕はない。