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安いワインとフランスパンで優勝できるって話

ー これは、全てのお金の無いワイン好きに送る物語である。ー

金の無い大学生時代。どうしてもワインを飲みたかった僕はいかに安く、夕飯とワインを楽しめるのか試行錯誤していた。

カップ麺、白飯、パスタ、パン、鶏胸肉、卵、ウインナー、おつまみコーナー全般、etc...

試行回数は数知れない。

ただ安さを求めて、仕送りの米とふりかけのみで飲んだこともあった。

美味しさを求めすぎて、1日冷蔵庫に置くつまみを作る暴挙に出たこともあった。

時間と手間をかけず安く飲むのだから、味を求めてはいけない。美味しいもので飲むには手間と時間をかけなければいけないと思っていた。

しかしそこには、どこか疲弊した1人の男がいた。

つまみとして、短命。

僕の中の安さの定義とはこれだ。つまみ&ワイン1本で700円を切れるかどうか。最低限のアレンジで、ほぼ火を使わず、美味しく、すぐに作れて、腹もある程度膨れるか。これを満たすもの。

つまみとは何か。腹が膨れてはつまみではないでは無いか。そんな無粋な意見はいらない。

お金の無い酒飲みにとって、つまみは夕食であってつまみであるものなのだ。もうめちゃくちゃだ。

しかし、これを満たし30分以上楽しめるつまみとなると、一気に難易度が上がる。

すまないが、温かい・冷たいが必須項目のつまみはここで、ひと時の別れとなる。僕に余裕ができたらまた会おう。

少量のつまみ。出会いは全てタイミング。君と僕とのタイミングは合わなかったみたいだね。君とまた会える日を楽しみにしているよ。

みな、瞬間風速は大きかった。それだけに残念だった。出会うタイミングさえ違わなければ、と。

偶然の出会い

僕は約2年間、飲食店でアルバイトをしていた。入ってから数ヶ月経つ頃に、料理長的ポジションの人が引退することとなった。

代わりにもう1人のシェフがキッチンのボスになった。そして、新メニュー開発が始まったのだった。

なかなかバイトをしていてもこう言った経験ができる人というのは少ないだろう。

もちろんバイトの身。営業時間外でのメニュー開発が主だったため多くの時間携われた訳ではない。ただ、この貴重な時間に偶然にも、確信に迫るつまみに出会うことになる。

居酒屋などでよく目にするスピードメニュー。これを開発する段階に来た。なんせ、頼まれる確率が高い。その分、内容にも頭を悩ませていた。

そこへ、一緒に働いていたメンバーの1人がやって来た。イタリアへの旅行経験のある男だ。

「スピードメニューっすか。ちょっと冷蔵庫見て良いっすか?」

そうすると、フランスパンとトマト、ニンニク、オリーブオイルをおもむろに取り出した。

フランスパンを斜め切り、トマトは半分に、ニンニクは皮を剥き根を落とした。

何が始まるのか。

すると、いきなりニンニクをパンに擦り付けた。そして、半分に切ったトマトをこれもまたゴリゴリと擦り付けたのだった。

呆気に取られた。

真っ赤に染まったパンと手に、これまたこれでもかとオリーブオイルを垂らした。

「ほら。食ってみ。」

彼の指の隙間からオリーブオイルが垂れ落ちた。

僕は恐る恐る口にした。

「っ!!!」

なんだこれは。

あんなにシンプルなのにこんなにも完成されている。作り方だってあんなに雑だったのに。

「な?美味いだろ?俺がイタリアに行った時に食べたものなんだよ。俺も最初は疑ってたさ。でも食べたらこれだよ。」

この後、僕はすぐに帰って試したくなる気持ちを抑え、その後のバイトに勤しんだ。

実食

さぁ、あとは試すだけ。材料はなんとも簡単に揃った。

まずはワイン。赤白、色は問わない。アルパカ辺りのチリ壁安ワインを入手。
フランスパンはスーパー内に併設されているパン屋の値引きシール付きの物を入手。値引きされた物と、笑うだろう。しかし、これは理にかなった行動なのだ。トマトの水分を受け止めるための渇きが必要なのだ。ここに妥協して欲しくは無い。ここで陥りやすい罠があるのだが、食パンをチョイスしてしまうこと。食パンは甘すぎるし、柔らかく水分量が多すぎるので必ずハードタイプのパンをチョイスして欲しい。
ニンニクは生を使いたい。無ければチューブでもしょうがない、可。
トマトは自分の手にフィットする物であればなんでも良い。フィット感が擦り付けやすさを左右する。
オリーブオイルはこだわればキリが無い。ここではクセのない物(安いもの)を使う。

これらを一から揃えるとなると、恐らく1000円は超えるだろう。しかし、実際に食べる分を見るべきであり、そんな野暮な事は言わないでもらいたい。

もう、つまみに関しては勝利は確定している。ここではワインと合うかどうかが重要だ。

もちろん赤白両方で試した。結果はこれだ。

優勝

結果は見ずとも分かっていた。何も、ここまで話す必要も無かったかもしれない。

このつまみは、トマトを使わせたら右に出るもののいない、あのイタリアで生まれたもの。洗練されたものだった。とにかくワインに合う。

アレンジにも耐え得る器の大きさも兼ね備えた逸材。見た目も現代美術に耐え得る程のポテンシャルが溢れ出している。

そして、安かった。

是非、試して頂きたい。

終わりに

そして、皆さんの、これからの安ワイン人生がより良くなることを願ってこの言葉を送ろう。

これだけで十分なのに。








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