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考えすぎる人の"閃き"を大切にする話。せいちゃんのReading Drama#46「星を掴みに」


山の中を1人、とぼとぼと青年は歩いていました。
最近の青年はずっと何かを考えているようです。

「あー、僕はもうどうしたらいいんだろう」

そんな思いを抱えながら過ごしていたものですから、なににも手がつかずにいました。そんな生活に嫌気がさした青年は、
「どこか遠くに行ってみよう。」
そう言って、全てを放り出して歩き出したのでした。

特に行き先は決めていません。ですが海よりも、山の方が人がいないだろうと内陸の方にずっとずっと向かって歩いてきたのです。

すっかり当たりが暗くなった頃、ピカピカと光った看板を見かけました。
そこにはこう書いてあったのです。
"星を掴んでみませんか?"

「星を掴む…??」

看板の先に進んでみるとそこはとある山の頂上でした。なんともなしに青年は空を見上げました。

「わ、キラキラ光っている…!」
空に見惚れていると
「こんにちは、お兄さん。」
後ろから突然誰かが話しかけてきました。

「えっと…すみません!勝手に入ってしまって」
「いえいえ、ここは僕の場所ですが僕1人の場所ではないですから。」
青年に話しかけた人物は青年よりも少し年上の落ち着いたお兄さんでした。

「ここはどういう場所なんですか?」
「ここは、そうですねぇ…何もない場所ってなんだかよくないですか?」

突然の質問に青年は驚きましたが
「…そうですね、何も考えなくていいと思えるこの場所は今の僕にぴったりかもしれません。」そう答えました。

「何かあったのですか?」
お兄さんは不思議そうに尋ねます。
「いえ、何もないんです。何もないことが僕は怖いのです。」

青年はとつとつと、自分のことについて語り出しました。

「僕には何もない…だけど周りはどんどん変わっていってしまうんです。だから僕も変わらなくては何かをしなくては、と思うのですが、僕はそれが怖くてたまらないのです。」

青年の周りはここ最近、少しずつ変わりを見せていました。
青年が日々の仕事をこなしているうちに、友は歌歌いとして出世して大きな街へ移り住み、初恋のあの子は別の村に嫁いで行きました。何かに夢中になっている人はキラキラとしています。

「僕も何か…と思うんです。歌を歌うことも好きだし、作物を育てることも好きだし、絵を描くことも…多分好きなのです。あの子にだって僕が何かを言っていたら関係が変わっていたかもしれない。…だけどそれが発展して大きなものとして自分の肩書きとして背負うものになってしまったら…それがとても怖い。」

その瞬間2人の上にある星がキラッと光りました。

「君は好きなものがたくさんあるんだね。」
お兄さんは優しい声で青年に語りかけました。

「好きなもの?そうですね、好きなものはたくさんあります。」
「今の仕事は好きではない?」
「そうではないんです。日々のやりがいは感じている。だけど、なんとなく"なにか違うな"って。」
「違う?」

「僕は昔から自分は絵描きになると思っていたんです。絵を描いて、そして物語を書いて、…絵本を作ると思っていた。」
「思っていた…?」
「思っていた。でも、描けないんです。
描こうと思うのに、描けないんじゃないかって思ってしまうんです。」

「それはなぜ?」
「誰かに…何かを言われるんじゃないかって」
青年は絞り出した声でそう言いました。

「君は…星は掴めると思うかい?」
その姿を見てお兄さんが青年に聞きました。

「星は…掴めないと思います。」
青年は少し寂しそうにそう答えました。

「ここは僕の庭、いや僕たちの庭なんだけどね、こうして手を伸ばして
『掴みたいー』って思うと掴むことができるんだよ。ほらやってみて!」

不思議に思いながら、青年は空に手を伸ばしてみました。
「え、掴めた…!」

「そう、ここは掴める星がたくさんあるんだ。
君は今『星を掴みたい…!』そう願っただろう?他のことも同じなんだ。
どうかやりたいと思ったその気持ちを、逃さないで欲しい。」

お兄さんは青年に語りかけます。

「周りに何かを言われることもそうだけれど、
もしかしたら自分自身がその気持ちにノイズを入れてしまっているもしれない。
そうするとその星は輝きが薄れて、掴みにくくなってしまう。だから光ったその時にどんな声にも負けずに掴むんだ。ただそのことだけを考えればいいんだよ。
…ほらあそこ、光った!」

「高すぎて届きそうにないです」
青年は一瞬目を輝かせましたが、しょんぼりと答えました。
「そうだね。今強く光った星はとっても高いところにある。でもほら少し下を見てみて」

「星が、ある…!」

「それはあの星をとりたいと願った、君の願いの煌めきだよ」
「僕の…?」
「だからまずその星を捕まえてごらん」
「でも…」

「君はさっき、ここの星を掴めた。だから次もきっと…」
「…わかりました」
青年は意を決して星を目掛けて飛びました。

するとみるみるうちに体が浮いていくのがわかりました。

「君は君自身をもう、今いる場所に縛りつけなくていいんだよ。」

青年は久しぶりに心から笑いました。
それは笑う、と言うよりも"微笑んだ"に近い優しい笑みでした。
「…僕、少しずつだけど、自分の胸の中の"本当の声"に耳を傾けてみることにするよ。そうしていつか、まだ知らない煌めきをあなたにみせにくるから」


後記

なにかをやろうと思った時に「本当に自分はこれをできるのか?」と
すぐに疑ってしまう自分がいる。

これは最近私が見つけた1つの話で
考えすぎる人は、何かをやる時に
その一つのことだけに集中すればいい」と
思うことが大切らしい。

最近の私でいうと、
体力作りのために「ランニングに出かけたい!」と意気込んでいたのだが
「今日は天気が悪いから」「今の時間は人が多いから」
と何かと理由を自分の頭で思っては出かけるのを渋りがちになってしまうのだ。

だけど頭の中には「ランニングに出かけたい!」と思った私がいて、それを実行できないと1日の中で悔いが残る。罪悪感が生まれる。
そうすると他のことに対しても何かと億劫になってしまうのだ。

そんな時に「ランニングに出かける」本来の目的であるそのことだけをやればいい、と言い聞かせて出かけると私は急に気持ちが軽くなって、
走って帰ってきた後には達成感が生まれていい気持ちになっていることに気がつくのだ。

だから頭で考えすぎてわからなくなる人はまず"閃いたこと"だけを考えればいい。
そんな小さな日々の自分のやりたいことを叶えてあげることで、何か大きなことをやる時も足枷が少なくなっていくのかな…
そんな少し繊細で頭で考えすぎる私の発見のお話でした。

物語として読みやすいように放送台本から少し修正して載せてみました!

気がついたら前回のリーディングドラマも同じようなことを書いているなぁというのは秘密です🤫


リーディングドラマについてはこちらから