読書レポート:「Webデザイン製作者のための「UXデザインを始める本」
今回は、Web領域に触れ始めてから読んだUXデザインに関する本を、簡単にレポートにまとめました。
1. UX(ユーザーエクスペリエンスデザイン)とは?
自分が知っているようでよく知らなかったUXデザインが、いかに広くて深く、ただただ「ユーザー体験」を意味しているものではなく、クリエイターなど製作者側だけの力に頼らず、様々な人の知恵を集結して、初めてクリエイティブなアプローチができるということを、紹介しています。
- MEMO -
・UXはモノではなくコト。主はUXであって、UIはその一部の従属品。
・サービスを利用している時だけにUXがあるわけではない。直接サービスや製品に触れていない前後の時間や、繰り返し溜まっていく記憶までもがUX。(ドイツのUX白書による)
・良く耳にする、「この画面のUXが悪い」「UXを良くしてほしい」というのは、だいたいユーザビリティの言い換えである。
・UXデザインを行うプロセスとして、HCD=ヒューマンセンタードデザイン(人間中心設計)があり、これは国際規格として認められている。
・UIがUXを決めるのではなく、その逆で、(特にデジタル業界ではUIがUXの中に占める割合が多く、UIが主でUXを規定するというふうに考えてしまうフシがあるが、UI側からUXをコントロールするのは事実上無理。)
・UXデザインの考え方を現在のワークフローに取り込もうとしても、スケジュールや、仕事領域を広範囲にまたがるなどの様々な現実の課題に直面した時に、UXデザインの価値を感じてもらうためのエンジン=「こんなにもユーザーのことを理解していなかったのか!!」←これが関係者間の共通認識になれば、徐々にUXデザインをやりやすい環境になって行く。
・「UXデザイン」は“コト”を作り、“モノ”と繋ぐ。
最後の一点について、本書では好例として「タートルタクシー」が取り上げられていましたが、自分も最近たまたま利用する機会がありました。
「今はそんなに急いでいないから、ゆっくり丁寧に運転してほしい。けれどわざわざそれを運転手に言いにくい。」という乗客のモヤモヤを解決することから考えられたサービス。ボタンを押すとフロントガラスのパネルに「ゆっくり走行中」と表示され、到着後「ゆっくり運転した」サンキューカードが運転手から手渡される仕組み。
2. ユーザビリティ評価から始める
そもそもユーザビリティとは、ある製品が特定のユーザーによって、特定の利用状況において、指定された目標を達成するために用いられる際の、有効さ、効率、ユーザーの満足度の度合いと、国際的に定義されています。
↑これもわかっているようで、よく理解していませんでした。
- MEMO -
・アクセスログから問題がありそうなページはわかるが、ページ上のどこの何に困ったかはわからない。
・Webサイトはユーザーが独力で利用するモノなので、ユーザーがどんな人か、どんな状況でどんなタスクを達成するかが曖昧なまま、成果を上げるWebを設計するのは、そもそも難しいこと。
・ユーザーが実際に使うシーンを目撃すると、作り手の予想を超えた行動を発見できる。
・ユーザビリティ評価の実行方法:
1. 計画:目的・目標を立て、ペルソナを作成し、日程・場所・担当・予算・被験者を決める。
2.評価設計:実際にユーザーがウェブサイトを利用する際の問題が、そのまま実験の場面で出現するような状況を作ることを指す。(評価用ペルソナ・シナリオの作成)
3.実査準備:資材の手配、プレテストを行う。
4.実査:事前インタビューで、被験者とペルソナの違いを把握→タスクを伝える(思考発話法を用いる)→利用の様子を観察・記録→事後インタビュー
5.分析:問題を「重さ」、「要因」、「解決優先策」にわけて考えて、問題の解決優先度を策定する。
・カードソート(カテゴリ設計の評価方法):情報を分類する方法の一つで、WEBサイトの設計の評価に使われる。コンテンツ名書かれた複数のカードを、カテゴリ名が書かれたカードの近くに配置して分類する。やり方には二種類ある:
⒈ クローズドカードソート(カテゴリを事前に用意)
⒉ オープンカードソート(カテゴリを、ユーザーに命名させる)
3. プロトタイピングで設計を練り上げる
Webの現場で実施されることが多い、設計・制作フェーズでのプロトタイピングを紹介しています。
- MEMO -
・情報設計の基本骨格に跳ね返ってくるような修正は後になればなるほど大変になってくるので、WEBにおけるプロトタイピング作成は特に重要性が高い。
・オズの魔法使い:設計中のワーヤーフレームをユーザビリティ評価すること。やりかたはとってもシンプルで、被験者のアクション(クリック)を、ブラウザ役の人間が紙に印刷されたワイヤーフレームを動かして代行する。いわば、紙のワイヤーフレームをウェブサイトの画面とみなす。
・ユーザビリティ評価は開発工程の早い段階ほど費用対効果が高い。HTMLコーディングまでが済んだ後に、ワイヤーフレームにさかのぼるような修正などを避けられる。
・ペーパープロトタイピングの流れ:
プロトタイピングの範囲を決める→ペーパープロトタイプを作成する→試用→ブラッシュアップ
・実施する際の注意点:作り込み厳禁(特にビジュアルデザインの経験がある人)→リソースの無駄遣い、評価・改善速度の低下、余計な話題で生産性が落ちる(きれいに作られていることで、見た目に対しての指摘が混入する恐れ)
4. ペルソナから画面までをシナリオで繋ぐ
構造化シナリオ法を使って、鮮明な「ユーザー像」を描き出していきます。
- MEMO -
・構造化シナリオ法とは:ユーザーの「本質的な欲求」=「ニーズ」をユーザーの「価値」と位置付け、それを満たすシナリオを3段階に分けて考えていく。価値のシナリオ → 行動のシナリオ → 操作のシナリオ
・正式な構造化シナリオ法では、ユーザーの価値だけでなく、企業側のビジネスニーズや製品・サービスが持つ価値も、シナリオに取り込む。
・ペルソナは空想ではなく、できるだけ事実に基づいた情報から作り上げて行く。(企画書・提案書、サイトのアクセス分析、アンケート・インタビュの調査結果レポートなど)
・ペルソナ作成でやってはいけないこと:「20代〜30代前半の女性」のように、ターゲットの年齢層に幅がある書き方。日本の20代〜30代前半のすべての女性を一つの人物像にまとめることができないので、その中でも最も利用者の多い年齢を書き込むのがベスト。
・WEBサイト運営側が考えるシナリオには注意しなければならない → ユーザー側からすると、WEBサイトは目的達成のための一つの手段にしかすぎず、それらの改善施策は根本的な解決になっていない場合が多いから。
・作成したシナリオは他人に読んでもらい、違和感を正す。
5. ユーザー調査を行う
ユーザーが本当はどんなことを思っているのか、ユーザーの「本質的な欲求」はどこにあるのか、それを特別な方法を用いて「ユーザーに直接聞く」という考え方。
- MEMO -
・日常の当たり前の中に潜む「本人も気づいていない課題」や「密かに感じていた価値」など、なかなか表面化しないユーザーの心の声を明らかにしたい場合に用いられる。
・普通に聞くだけでは本音の部分はなかなか得られない。得られたとしても「キラキラデータ」と呼ばれる、表面的で新しい発見があまりない役に立たないデータばかり。なぜなら、人は知らず識らずのうちに「大事なこと」「必要なこと」を選んで話しているから。
・質問するのではなく、「教えてもらう」やりかた:
1. 感情曲線インタビューで、WEBサービスを利用した「思い出」を、折れ線を描いてもらいながら、語ってもらう。
2. 折れ点で何があったのかを聞き出す。
3. WEBサイトを訪れた前後の部分も聞き出す。
4. ユーザーに「弟子入り」してインタビューを行う。(はい・いいえで答えられるような質問はせず、関係なさそうなことでもひとまず聞いてみるが、脱線しすぎないようにコントロールする。)
5. 何気ない言葉や行動でも、あとで分析するときに役にたつかもしれないので、とにかく全てを記録する → そのあと、一度やったらすぐに振り返る。
・ユーザーの言いなりになればいい、というわけでもない。売り上げに貢献しない要求をいくらサイトに盛り込みユーザーを満足させたとしても、ビジネスとしては意味をもたなくなるから。
・ユーザーも気づいていない本当の解決策を探る:
UXデザインでは、「ユーザーは本当に望んでいること、自分で意識していないから、言語化されてもいないのだ」という前提に立ち、不満の仕組みを解き明かす=本音を探ることで、解決策を探ることを常に心がれなければならない。
・インタビューで集めたデータから本音を探る方法として、「親和図法」がある。4ステップ:
データの切片を作る→切片で小グループを作り、見出しを貼り出す→大グループ化し、図として整える→文章に起こし、説明と解釈ができるようにする
6. カスタマージャーニーマップで顧客体験を可視化する
体験全体を俯瞰することで、課題点を見つける方法。
- MEMO -
・ユーザーはウェブサイトありきで行動していない。だからこそ前後も含めて、可視化が必要。
・やりかた:
旅の主人公のイメージを想定して、調査データを付箋に書き、「ステップ」「タッチポイント」「行動」「思考」「感情」に区分けして、時系列で並べる。
・マップ作成は一人でもできるが、複数人を巻き込んでワークショップ形式で進めるのが理想。
・課題解決策が思いついたら、現状のカスタマージャーニーマップに付箋を貼り付けていくと効率的。
・課題解決の流れを考える際に、100%ユーザーの満足を満たすのではなく、企業側の利益とのバランスも念頭に入れておかなければならない。
7. 共感ペルソナによるユーザーモデリング
ここまでの作業でようやくユーザーの本音が見えてきたところで、そのユーザーの輪郭を「具体的なユーザー像」として描き出していきます。
- MEMO -
・最大の目的:プロジェクトメンバーの目線を揃えること。
・ユーザーモデリングとは、その言葉の通りユーザー像を「組み立てる」作業のこと。ユーザー像をきちんと共有できることがこの作業のゴール。
・ペルソナ2種:
1. 簡易ペルソナ(プラグマティックペルソナ):調査や分析に基づかない仮説。
2. 本章で紹介されるペルソナ:長く利用される前提で緻密に作られる、データ分析に基づいたもの。
・ペルソナを作る目的2つ:
1. ユーザーがいま何をしているかを捉える=現在を描く
2. ユーザーがこれからどうなっていくのかを捉える=未来を描く
・注意事項:表面的な事実を書いてもあまり設計に役立たない。
悪い例:「趣味は自転車で、毎週100km走ってトレーニングする」
良い例:「毎週100km走るようなトレーニングを欠かせないようなストイックさがこのユーザーの行動の根拠になっている。」
→事実の背景や理由まで踏み込む
読んだ感想
本書はWebデザインの初心者でもわかりやすく読める文章になっていて、順序よくWeb制作のチームの中でUXデザインという考え方を少しづつ取り入れていくことを書いた参考書みたいな位置付けです。また、一通りやりかたはわかっても、次はどうしたらいいの?という読者の気持ちをいち早く理解していて、各章の最後に「こっそり練習レベル」、「一部業務でトライアルレベル」、「クライアント巻き込みレベル」というふうに3段階に分けて、なかなか日々の業務のタイミングや、組織にUXデザインの価値が共有できているかの違いが出てくる中で、UXデザインを実際にいかに組織にうまく取り入れていく方法を具体的に提示しています。なかなか難しそうだなと思っていたUXデザインが、実は結構シンプルにユーザーの「本質的なニーズ」を読み解く考え方だなということを改めて認識することができました。UXデザインを始めたいと思っている方には、とてもおすすめな一冊です。