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逢いたい菜

新しく建設された実験的研究都市、僕はそこに住む研究員。
そこでは、遺伝子工学の技術を用いて、野菜や魚、肉さえも工場で作られている。
最新技術で、日々安心で安全な多くの食品を作り出す。
そして、ボタンを押せば、温かくておいしいご飯がすぐに食べられるのだ。

でも、どこか物足りない。
なぜかわびしい。

そんな時、夜景を眺めふと思い出す。

小さなころ、田舎に住むおばあちゃんのところへ遊びに行ったことを。
夏休みには、おばあちゃんの畑で一緒にキュウリやトマトなどを沢山収穫したっけ。
土の香り、陽の光、畑を吹き抜ける風。
ぜんぶが心地よくて、楽しかった。

おばあちゃんが、畑で取れた野菜で作ってくれたお味噌汁や煮物は、どれもおいしくて、ほんのり温かかった。

でも、おばあちゃんはもういない。
畑も、遠い昔の思い出の中。

僕は、頭上に輝く星空にそっとつぶやく。

逢いたいな、おばあちゃん。

心の中に、おばあちゃんの温かい笑顔が浮かぶ。
もう一度、おばあちゃんがつくるご飯が食べたい。

逢いたい菜。

文字数:426字

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