アナイアレイション -全滅領域-【メンヘラ女子の悩み相談相手判別映画】
例えるなら「一見インテリな女性から悩み相談を受けるも、だんだんヒステリーになり最後は勝手にスッキリして去っていく」。観賞後、そんな気分になる映画。
もちろん内容はまったく違いますが、メンヘラ女子から相談を受けた人の感想が、まさに映画を見たあとの印象に近い気がします。
この映画を見る心構えは、そんな女性の悩み相談を受ける時と同じく『理屈やハッキリした回答を追求しない』ことが重要です。
自然が作り出す造形美が優れたアートに見えても、そこに作者の意図や目的がないのとも似ています。「SF的にこーゆうことなんじゃないか?」という考察はロールシャッハテスト程度の意味しかありません。=趣味の範囲でどうぞ。
あらすじ
(Annihilation)は、2018年に公開された米英合作のSF映画である。監督と脚本はアレックス・ガーランド[3]、主演はナタリー・ポートマンが務めた。本作はジェフ・ヴァンダミア(英語版)が2014年に発表した小説『全滅領域(英語版)』を原作としており、エリアXと呼ばれる謎の空間の調査に向かい、様々な理解不能な事象と危険に見舞われる女性だけの調査隊を描いている。
(Wikipediaより)
以下ネタバレ注意↓
ビジュアル
「僕の考えた幻想的映像」としての雰囲気は悪くない。個人的には、即物的な現代アートを映像で見てる感覚に近いと感じた。
とは言え、それなりに低予算と考えるとむしろよくできてるし、物として作り込んでるアーティストも素晴らしい。ロケーションも良い。CGのしょっぱさを感じないのもさすが。
メンヘラ女子の相談との類似性
今回シマー(エリアX)に調査に行くメンバーは全員女性。しかも主人公以外は人生オワタ式で、生存率を上げるメンバーがいない(救急医療隊員ですらメンタルクライシス)。
大抵のことが思い込み先行で理性的な判断力や合理性がない。専門家集団のくせに問題や情報を検証しようとしない。
リーダーの心理学者は心理学を説明できるだけで精神科医や心理カウンセラーのようなメンタルケアスキルが一切ない(描写からしてわざとそういう設定)。そのうえリーダーとしての統率力も心理操作も一切ない。
とにかく組織は人材不足が過ぎる。全編通して具体性がない。
…と、ここまでが自分が「SF脳(理詰め)」で映画を見てて思ったこと。
そして、結論から言うと「合理性を求めるのがそもそも間違い」だった。
この映画は理屈を揶揄する構成になっている。つまり、故意に「分からない」ように作られていて、主人公に質問する防護服を着た男のようになってしまっては、いつまでも映画の本質に気付くことができない。
そのことを念頭に、先程の内容を逆転すると「分からない」ことが納得できるようになる。
メンバーがすぐヒステリックになるのは鬱女だから…というのもまぁ映画の構造としてあるが、そもそもシマーは長く滞在するほど精神崩壊する空間。
なので、男性陣が腹に小窓をこしらえてる辺りで女性陣がまだまだ元気なのは、常時気分落差の激しい彼女たちだからこそ逆に慣れという不安耐性があり、オカシイものをオカシイまま許容できる女性的感受性も生き残る助けになった。
椅子に縛られた時も、全員男だったらマッチョゴリズムパワーで即紐を切ってバイオレンスな殺し合いに発展していたかもしれない。
主人公以外はモブ程度の存在意義しかないことについては、ホラー・パニックという観点と、映画冒頭で全員死が確定してる以上、キャラの掘り下げをしても時間の無駄なのでこれで充分。この割り切りの良さは素晴らしい。
そして、最終的にこのPMSチームにより世界は消滅の危機から救われた。
つまりシマーとは、マッチョがザコになり、悩める乙女によって解放される"プリズム少女漫画"な世界観の空間だったのだ。『まどマギ』的と言ってもいいかもしれない。「力が強いのに筋肉がないのはオカシイ!」なんて発想こそナンセンスでしかないということだ。
考察要素
例の鍋にしたら食べ応えありそうな活きのいいモツ、あれは食べ物に菌的なモンが混入してて内臓が感染した結果、腸の細胞分裂が過激になって爆発的に伸びまくった結果ということでよろしいのでしょうか。それはそうと、あんな腹にiPad miniおさまる程でっかく穴開けんでも内部観察はできたやろ。マッチョイズムコワイ。
灯台出身のスワンプマン、あれは惑星プリズムパワーでできた主人公の物質化した心霊(ドッペルゲンガー)といったところでしょうか。油っぽいブロンズ像的質感が乱反射やミラーといった要素を想起させる。刻まれたシワっぽいのは心の傷かな。
あの辺の演出は士郎正宗原作アニメ『神霊狩/GHOST HOUND』っぽいホラー感で良かった。
ラストの目が光るシーンは「はいはいブレードランナーのアレね」って感じ。
最後の2人は偽物本物?ってところで捻った考察をすると、爆破(自殺)こそが異空間からの脱出スイッチで、最後抱き合ってたのは偽夫と真主人公と見せかけて実は逆(真夫と偽主人公)。夫は血を吐いたが、主人公はコップに血が出てないことでそれを暗示している。
自殺(オリジナルと模倣は同一視)は唯一脱出できた2人の共通点でもあるが、夫は自決、主人公は他殺という形式に違いがあり、燃えた方がエリア外に脱出した。
個人的には、ストレート解釈よりこんくらいのが退廃的エンド感あって深みが出るかなと。
(とは言えこの解釈だと撮影された夫の言葉が不自然だし、残った模倣人間はどこ行ったとなる。主人公と夫の脱出後の意識・記憶の精度差や自壊により空間ごと消えたことを考慮すると納得感低め。あと何より複雑になり美しさに欠ける。)
それにしても、互いを傷付ける自分を爆破で倒すのは相当衝撃的だった。自傷よ後悔よ、爆発四散サヨナラ!ってか。不貞の罪は爆破刑なり。
進化・統合・創造・変化により全てを呑み込むシマーが主人公を取り込み、自己破壊により消滅する。たいてい女性やSFをテーマにするなら許容(融合)で終わりがちなところを、既存の枠を打ち壊すある意味斬新なエンド。
SFとしての具体性やディテールが最低限まで切り落とされ抽象化されてることが"SFはテーマの核ではない"と示しているし、"存在に意味も理由も無いかもしれない"というメッセージとも合致している。作品性の高い素晴らしい脚本。
感想・オススメできる人
この映画に対する自分の初見感想はまったくヒドイものでした。
「何がしたいのか、何をしてきたのかわからない」「ビジュアルありきで全てが後付け」「見る側の脳内補正に頼りすぎ」「専門家とは名ばかりのメンヘラ集団。監督は宇宙飛行士は自殺願望者で構成するとでも思っているのか。」「SFとして見ようにも具体性やディテールがなさすぎて思考がジャミングになり没入感がない」などなど…。
それもそのはず、自分はこの映画を序盤の印象で「SFとして見る」ことを決めてしまっていたのです。The・メガネ女子&色眼鏡。
とはいえ、観賞後の熟考で視点のパラダイムシフトを楽しむことができたと思います。映画って面白!
この映画は「映画という作品」を奥ゆかしく楽しみたい人にオススメです。あとアート、特に造形物が好きな人。とにかく大衆向けではありません。
感動や感情のジェットコースター、見たあとのスッキリを期待する方は楽しみにくいかもしれないし、SF的視点・左脳思考でしか物事を捉えられない理屈っぽいタイプの方は割と困惑するでしょう。
逆にそういった人こそ女性の悩み相談に乗る訓練の一環くらいの気持ちで一度観賞してみるのも良いかもしれません。
あとは、女性の悩み相談に乗れるタイプの人かどうか、この映画の感想を聞くことで判断するというのも面白いかもしれないです(笑)