男酒日記 93日目「天声人語に御用心」
朝日新聞「天声人語」には予告なく掲載される。もう10年も前になるが、私の発言が紹介された。
そこからたいへんなことになった。マスコミの取材やら講演やらで引っ張りだこ。
NHK「おはよう日本」で特集が組まれ、その煽りを受けて、翌年「第17回社会起業家賞」を受賞した。
大新聞にはひと通り載り、いろんな大学や団体から出講依頼が相次いだ。
元来サービス精神が旺盛なので、こころよく応対していたが、ストレスにも感じていたのだろう、酒量が増えた。
NPOを主催し、お年寄りから聞き書きを行う好青年ーーこれが、私に求められた人物像であった。
こんな日記を書いていることからもわかるように私はそんな人物ではない。
だが、世間はそれを許さない。聖人君子のごとく私を崇めたてまつってくれる善男善女たち。彼らのあたたかい眼差しを裏切ることは私にはできなかった。
私は虚像を演じた。自分を裏切った夜は、深酒しておのれを取り戻す。そんな日々が続いた。
5年前、もうマスコミには出ないと決意してから、ようやく私を苦しめてきた虚像が影をひそめてきた。ようやく身辺に平穏が訪れた。
電話1本かかってこない1日がいかにありがたいことか。断酒できたのも、こうした平穏無事の日々があってこそだ。
写真:こんな冊子を出してました。資料としての価値はとても高いと思います。だが、もはや話を聴きたいと思うお年寄りがほとんどいなくなったので、活動は停止しました。
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