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【政経東北】「役人出身首長」の限界|巻頭言2024.07

 福島市の先達山で建設中のメガソーラーが二つの点で注目を集めている。一つは景観。昨年から山林伐採が本格化すると、山肌がむき出しになった姿が市街地からも肉眼で確認できるようになった。美しい景観が損なわれる状況に市民は心を痛めている。もう一つは災害。6月2日に降った雨で、造成地から付近の県道に大量の泥水が流れ出た。メガソーラー建設が始まる前には見られなかった現象で、台風に襲われたら深刻な土砂災害が懸念される。

 木幡浩市長は開発許可を出した県に、被害が続く場合は工事中止を命じるよう求めている。しかし、内堀雅雄知事は「事業者を適切に指導していく」。

 多くの市民が建設に反対する中、県が事業者寄りの姿勢を見せるのは、開発に必要な関係法令を順守しているからだ。すなわち、県の立場は「法的要件が整っていれば(行政は)開発許可を出さなければならない」というもの。同じような構図は、産廃処分場の設置許可をめぐっても頻繁に見られる。

 法的要件が整っているのに許可を出さなければ、県は事業者から行政訴訟を起こされ、敗訴する可能性があることは承知している。しかし、法律さえクリアすれば何をやってもいいということにはならない。とりわけ市民の理解を得る作業は、地域との共生という観点から欠いてはならない。メガソーラー事業者は説明会を数回開いたというが、それでも反対の声が上がるのは市民の理解を得られていない証拠。地域と共生できない事業は「社会から必要とされていない事業」と言い換えることもできる。

 問題は県だけにあるのではない。福島市は県が開発許可を出す前、災害防止や環境保全への対策や市民に説明することなどを求める意見書を内堀知事に提出した。一見やるべきことをやったようにも映るが、中身は事業者への「お願い」にとどまる。

 山形県米沢市の近藤洋介市長(新聞記者を経て衆院議員5期、市長)は5月、栗子山で進む風力発電計画について吉村美栄子知事から環境影響評価法に基づく意見を求められ「本市の意見は市民から寄せられた意見を多く反映させている。これらの意見を適切に反映させることができない場合、計画を是認しない可能性がある」と言い切った。たとえ法的要件が整っていても市民が反対する以上、市として是認しない立場を明確にしたのだ。福島市と比べ、どちらが市民に寄り添っているかは一目瞭然だ。

 考えてみれば、内堀氏も木幡氏も元総務官僚。役人上がりの首長が法令に
縛られるあまり、市民寄りの対応を不得手にするのは合点がいく。(佐藤仁)


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