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僅か5件。フクイチ核災害は「どうでも良い事」なのか|【春橋哲史】フクイチ核災害は継続中54

 2011年3月11日のフクイチ(東京電力・福島第一原子力発電所)核災害の発生から約13年半が経過しました。

 発災年に生誕したお子さんが中学生になる期間が経過しても、フクイチ核災害の全容解明は未だ途上です。

 1~3号機の溶融燃料(デブリ)の総重量・約880㌧という数字も解析値で(注1)、実測ではありません。

 フクイチ事故に関する調査は、政府・国会・民間・東電の4者が報告書を提出していますが(注2)、政府・民間の調査は終了しており、報告書を受領した国会は、調査を再開する意思は持っていないようです。

 東電は「未確認・未解明事項の調査・検討結果報告」をWebサイトに公表していますが(注3/直近の報告は2022年11月)、調査対象がオンサイトの対応やプラント内の事象に偏っています。それに言葉は悪いのですが、東電の調査は失火犯が自らを取り調べているようなものでしょう。

 では、東電以外に事故調査を継続している組織が無いのかというと、そうではありません。それが原子力規制委員会です。原子力事故に関する調査は、委員会設置法に定められています(注4)。

 原子力規制委員会は「東京電力福島第一原子力発電所における事故の分析に係る検討会」を設置しており(2024年8月末時点で第47回まで開催)、フクイチ事故の調査分析に関して、これまでに4つの「報告書」をまとめています(注5)。

 原子力規制委員会の事故調査も、東電と同様に対象期間や範囲がオンサイトやプラント内の事象に偏っていますが、一点だけ良い意味で評価できるのは、「中間とりまとめ案」へのパブリックコメント(意見公募)を法的義務でないにも関わらず実施している事です。

 私は、2021年以降、3回とも提出しており(提出した意見は拙ブログに掲載/注6)、寄せられた意見に対する回答や見解がまとめられるのも、傍聴等で確認しています。

 原子力規制委員会の調査分析の対象やとりまとめ内容について私見は多々ありますが、本稿はその私見の表明が目的ではありません。内容以前の問題として私が危惧しているのは、フクイチ核災害への関心が、国民(主権者)の間でほぼゼロなのではないかと思われることです。

 先のパブコメの提出意見数は、2021年のものが37件、2023年のものが17件、2024年のものが5件でした。

 直近のパブコメ結果が5件と記載された資料を読んだとき、私は「一桁? 読み間違いか」と、傍聴席で目を疑いました(因みに、事故分析検討会の一般傍聴は、私一人であることが常態化しています)。

 フクイチ核災害は、オンサイト(敷地内)でもオフサイト(敷地外)でも、今まさに継続中です。発災当初は、首都圏を含む250㌔圏内が避難区域となる可能性も有りました(注7)。首都圏の動産・不動産がほぼ失われ、居住不可能となっていたら、この国はどうなっていたでしょう?

 この国の約1億0500万人の有権者にとって、フクイチ核災害は「どうでも良い事」「自分には関係の無い事」なのでしょうか?

 発災要因・プラント内での挙動・放射性物質の放出量や放出方向・環境や人体への被曝影響・避難や賠償の基準の在り方など、調査分析すべきことは幅広く、山のように有るのではないでしょうか?

 世界最大の核災害に関して法的な根拠の有る唯一の調査への意見が、1億0500万人の有権者がいるこの国で僅か5件。

 この国の有権者は、誰に強制されるでもなく「不戦敗」(注8)を続けています。このようなことで、核災害の教訓の抽出・再発防止・被害救済が成り立つのでしょうか。

 フクイチ核災害を起こしたこの国では、今後も、原子力利活用を推進したい側の意向に沿った政策が拡大・加速していきそうです。

 注1/解析・評価等による燃料デブリ分布の推定について(IRID・IAE/2016年10月)

https://irid.or.jp/wp-content/uploads/2016/10/20161004.pdf

 注2/東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会(政府/2012年7月最終報告)

 
 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会/2012年7月報告)

  福島原発事故検証委員会(民間/2021年2月第二事故調報告出版)

 福島原子力事故報告書(東電)

https://www.tepco.co.jp/decommission/information/accident_investigation/

 注3/

 注4/関連条文は原子力規制委員会設置法の第三条、第四条十一、第二十三条

https://laws.e-gov.go.jp/law/424AC1000000047#Mp-At_23

 注5/東京電力福島第一原子力発電所事故の分析 中間報告書(2014年10月)

https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11105588/www.nsr.go.jp/data/000069286.pdf


 東京電力福島第一原子力発電所事故の調査・分析に係る中間取りまとめ(2021年3月)

https://www.nra.go.jp/data/000345595.pdf

 中間取りまとめ(2023年版)(2023年3月)

https://www.nra.go.jp/data/000425218.pdf

https://www.nra.go.jp/data/000425219.pdf

 中間取りまとめ(2024年版)(2024年6月)
https://www.nra.go.jp/data/000473308.pdf

 注6/2021年3月22日ブログ記事

 2023年2月23日ブログ記事

 2024年5月21日ブログ記事

 注7/近藤駿介原子力委員会委員長(当時)作成の「不測事態シナリオの素描」。詳細は民間事故調報告書を参照。

 注8/連載39回(2023年6月号)



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