首相官邸宛てに送信した意見―【春橋哲史】フクイチ核災害は継続中㉒

 東京電力・福島第一原子力発電所(以後「フクイチ」と略)では、終わりの見えない収束作業が続いています。

 施設に関する一義的責任は東京電力に有りますが、フクイチ核災害に最高且つ最終的な責任を負っているのは、原子力災害対策本部です(注1)。

 私は、12月11日16時過ぎに、首相官邸のWebサイトのフォーム(注2)から、岸田文雄首相宛てに意見を送りました。私の個人情報を除いて、表題と全文を掲載します。

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 福島第一原発への対処についての要望

 岸田総理、首班指名されて以来の日々の公務、お疲れ様です。

 表題の件に関して、国民(主権者)の一人として意見を送らせて頂きます。

 東京電力・福島第一原子力発電所では、2011年3月の発災以来、前例のない収束作業が続いています。

 施設や設備の解体・撤去等に伴い発生する放射性固体廃棄物は増え続けていて(瓦礫+伐採木:2012年12月末13・1万立方㍍→21年10月末50・5万立方㍍[仮設集積含む])、その大半が屋外保管であり、火災等で放射性物質が敷地外に飛散するリスクは寧ろ高まっています。

 1~3号原子炉建屋に流入する雨水・地下水等を起因とする放射性液体廃棄物のタンク内貯留量も、増加量が抑制されつつありますが増加し続けており(2011年12月末9・6万㌧→21年11月末129・1万㌧[内、一度でもALPSを通したものは約126・8万㌧])、増加量をゼロにできる見通しは立っていません。

 その他、原子炉建屋滞留水・AREVAスラッジ等の高濃度放射性廃棄物や、ALPS等で発生する水処理二次廃棄物の処理、固体廃棄物の性状・含有核種の分析等、今後は、廃棄物への対応が益々複雑化し、しかも、同時並行的に進めることを余儀なくされるのは必至です。

 廃棄物対策に関しては、特に、今年4月に廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議で「東電に対して、ALPS処理水の希釈放出を求める」ことを決定したのは認められません。

 福島第一原発で事故後に発生している放射性廃棄物は核災害で生じているものであり、如何なる方法・手段であれ、これを意図的に環境中に放出すれば、「核災害起こし放題」というモラルハザードの前例になりかねません。我が国の歴史と国際的地位が不可逆的に毀損される可能性が有り、絶対に止めるべきです。

 廃棄物の問題だけではありません。福島第一原発で事故収束の最前線・実務作業に当たって下さっている人達、即ち、放射線業務従事者の入域人数は、発災以来、約13万6000人に上り(2011~20年度の合計)、その内、約4万3000人が年間5㍉シ ーベルト以上を被曝しています。又、入域人数の内、東電の社員は1割程度に過ぎません。

 東電が公表・認めているだけでも、発災以来21人の作業員が亡くなっており(内、東電社員は2人)、熱中症を別にしても、負傷・体調不良者は300人を超えています(2021年10月までの累計)。

 万一、福島第一で働く人が確保できなくなったり、福島第一を第二の大地震や大津波が襲ったら、或いは火災が発生して延焼したら、一体どうなりますか。放射性物質が敷地外に放出されるのを止められなくなれば、国が亡びる可能性もあります。

 福島第一原発の事故収束とは、放射性廃棄物・物質との果てしない戦争と言えます。撤退も、講和も、降伏もできません。国のあらゆるリソ

ース(予算・資機材・人員等)を投入すべき戦争です。この戦争に敗れれば、日本は放射性物質という敵の無制限侵攻を受けることになりかねません。福島第一という前線で食い止めなければいけないのです。

 以上を踏まえ、福島第一原発の事故収束に関して、内閣総理大臣兼原子力災害対策本部長として、以下の処置を取るように、この国の主権者の一人として、強く要望します。

 1.教育・社会保障費を削減しない前提で国の予算を組み替え、収束に要する費用を毎年度確保する。

 2.東電廃炉推進カンパニーを「福島第一原発収束公社(仮称)」として原災本部直轄とする。役員は原災本部長が任命し、国の予算・原災本部の責任で収束措置を進める体制にする。

 3.福島第一原発、及び関連部署で勤務・従事している人達を公務員

・又はみなし公務員として、収束公社(仮称)の直接雇用とする。合わせて、被爆者援護法に準ずる新法を制定し、被曝労働者の健康管理・医療保障・死亡時や後遺障害等に関する補償の在り方を明確にし、国として責任を持つようにする。

 4.東電に対して所謂「ALPS処理水」の環境中への希釈放出を求めた、第5回「廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議」の決定を速やかに取り消す。

 5.廃棄物の保管設備や関連設備を建設する可能性を踏まえて、福島第一原発の隣接地の買収・借り上げの交渉を早急に開始する。その際は本部長自身が何度でも現地に行き、関係者と直接対話することを厭わないこと。

 6.第二の原発事故(核災害)の可能性を限りなくゼロに近づける為、核技術をエネルギー源・動力源として用いないことを明確にした原子力基本法の改正案を国会に提出する。

 尚、この意見は私個人のものであり、他の如何なる個人・組織とも関係のないことをお断りしておきます。

 宜しくお願い致します。

   ×  ×  ×  ×

 首相官邸宛てに意見を送信するのに、有権者登録等の「資格・要件」は不要です。回答・返信は約束されていませんが(私の送った意見に関しても、12月20日時点で官邸から返信は有りません)、選挙・パブコメ・請願・陳情等と合わせ、国民(主権者)として意見・意思を表示するチャンネルは最大限に活用しなければ勿体ないです。

 このようなチャンネルの利活用の機会が無いと、文章を考えたり送信するのに力が入ってしまいがちですが、難しく考える必要は有りません。気の置けない友人とざっくばらんなお喋りをする感覚で良いのです。「フクイチで発生している汚染水は地上保管を継続して」「『風評被害』ではなく、『原発事故による実害』と言って」という文章でも国民(主権者)の意見です。

 無期限でテーマ無制限のパブコメが常時実施されているようなものでしょうか。因みに、経産省・資源エネルギー庁にも同様のフォームは有ります(注3)。

 尚、今回、私が送信した意見は、論点が散漫になるのを防ぐことと、当連載の文字数の関係から、オンサイト(敷地内)に絞りました。オフサイト(敷地外)にも、除染廃棄物の扱い、所謂「年間20㍉シ ーベルト基準」、避難者の要件と数え方の在り方等、重要な課題が山積していますが、それらを軽視しているのではないことをお断りしておきます。

 注1

 原子力災害対策本部/原子力災害対策特別措置法に基づき、2011年3月11日に設置。本部長は内閣総理大臣。 

 注2

 ご意見募集(首相官邸に対するご意見・ご感想)

 注3

 ご意見・お問い合わせ (Opinions and Inquiries)


春橋哲史 1976年7月、東京都出身。2005年と10年にSF小説を出版(文芸社)。12年から金曜官邸前行動に参加。13年以降は原子力規制委員会や経産省の会議、原発関連の訴訟等を傍聴。福島第一原発を含む「核施設のリスク」を一市民として追い続けている。

*福島第一原発等の情報は春橋さんのブログ


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